第3話

 その翌日、エルナとエルナのお母さんは火あぶりになった。

「どうして……!」

 燃え尽きて灰になった火刑の櫓の跡を前に、膝をつく。僕は誰にも言わなかった。それなのに二人は処刑された。


 本来なら礼拝の時間、教会の庭に建てられた火刑の櫓に、二人はそれぞれ磔にされていた。普段穏やかな初老の神父様ががなり立て、御遣い信仰の本来の教義とは全く違う教義の罪をあげつらい、止める間もなく火刑の櫓に火をつけた。

 二人は燃え上がり、悲痛な絶叫が辺りに響き渡った。二人の元に駆けだそうとする僕を留めるように父さんが抱き締め、二人が見えないように視界を遮った。助けてくれた二人を見殺しにするなんてと、何度も父さんを罵ってもがいたけど、ちっとも出ることは叶わなくて、二人の悲鳴と、肉や髪の焼ける不快な臭いと、無責任で恩知らずな村の人達の非難の声の中で、ただ絶望した。

 火が燃え尽きるまで、父さんは苦しげに泣いていて、それでも僕を離してくれなかった。

 火がつけられる前に目が合ったエルナは、僕のあげた髪飾りをつけていて、『クラウスのせいじゃないよ』というように、ただ、にっこりと笑った。




 ――それが、25年前の話。私はそれをきっかけに、御遣い信仰者となった。嘘を以って善き人を殺した国教聖エルピス教を信じられなくなったからだ。村を出て、同胞を探し、教えを乞い、知識と技術を身に着けた。厳しい御遣い信仰狩りの目をくぐり抜けて信徒を増やし、ついにこの日を迎えた。


「我々聖エルピス教会は、『御遣い信仰』の信徒を虚偽の教義を理由に、数多く屠ってきた罪を認め、ここに厚く謝罪し、亡くなった者達を殉教者として祀ることを誓う。また、貧困層の多くの人民の命を救ってきた功績により、『御遣い信仰』を聖エルピス教の分派の一つとして、ここに公認する」

 教皇の言葉に、民衆から歓喜の声が湧く。

「ついては『御遣い信仰』における主教に、クラウス・アルトマイアーを任命する」

 白い法衣を着て、私は教皇の前に進み出た。国都の聖堂の外舞台で、私は教皇から誓文を受け取る。

 ああ、ようやく! 二人の考えは、行いは、間違っていなかったのだと、認めさせることが出来た!

 復讐に駆られても、最期に笑ってくれたエルナが、人を傷つけるためにその知識と技術を使ってはならないと言っていたから。私は私が出来る限りの方法で、国に過ちを認めさせ、彼女達の教えを認めさせる方法を考えた。

 そうして、たどり着いたのが今日のこの場だ。

 エルナ、君達の教えは、絶望から僕を救ってくれた。そして、これから先もずっと弱い立場の人達を救い続けるだろう。その教えを皆に伝えることが出来ることを、私は誇りに思う。

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御遣いは少年を救いたるか? 佐倉島こみかん @sanagi_iganas

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