第十五話 限界決着
「目標、補足」
岩を土台に銃身を置き、屈んで身を隠しながら狙撃体勢を取る。円状のカーソルが緑の中に潜んでいる敵機を捉えていた。
迷彩柄の布を被り森の中に紛れていたが、敵の様子をモニターがはっきりと映し出していた。
「これも全部、自動でやってくれているんだよね」
今更ながら、このシュミレーターとプラモデルの凄さを実感する。
シュウ自身に兵器についての細かい知識があるわけではないが、これはプラモデル。実在の兵器とは違う。人間がプラモデルの兵器転用に目をつけたのは自然な流れではないか、とすら思えた。
「狙いをつけたみたいね」
そんなシュウの考えを余所に、メイが提案を出した。
「距離は600。その武器なら撃てば当たるわ。敵もこっちの姿が見えてるって思ってた方がいいけど」
途中で咳を挟み、集中しているシュウの代わりにメイは話し続ける。
「弾速から考えて相手はまず反応できないわ。威力からして防ぐ手段もあるかどうか」
スコープの中の敵はこちらを探しているかのようだった。
つまりは。
「狙うなら今よ」
「うん、撃つ」
シュウは操縦桿のボタンを親指で押し、機体にライフルの引き金を指にかけさせた。
そして。
「撃って!」
「撃つ!」
人差し指でトリガーを引いた。
銃口から光が奔り、圧縮された粒子が放たれ、機体の反動も計器の反応も、甲高い発射音をも置き去りに敵を射抜いた。
「「!?」」
はずだった。
光の粒子は斜線上の大気を吹き飛ばし、木々を焼き切り緑に一本の線を残していた。着弾した地面が歪に隆起し、音と共に熱が爆ぜた。
命中さえしていれば勝っていた。
だが敵は、シュウとメイの隙を見逃さなかった。
「飛んだぁ!」
敵は自身の巨躯を切り離し、巨大なスラスターの火をバックに空を飛翔していた。中から別の機体が飛び出し、こちらへ高速で接近しているのだ。
「どうして!?」
なぜ当たらなかったのかメイに聞いたが、通信が返ってこない。
「メイ? メイ!? メ」
三回目の名前を言おうとした直前、衝撃によって遮られた。
「ッ!」
頭部のセンサーに被弾した。返事のない通信に気を取られ接近を許してしまっていた。
敵の細いフォルムが影を作る。推力を切り離しながら手の武器を捨て、右手でサーベルを振り抜いた。
光の刃が伸び、シュウへと迫る。
「まだ!」
モニターに薄いノイズが走っている。表示の一部が消え、コックピットの光源が減った。目の前の敵が、薄い視界の中サーベルを突き立てようとしている。
「見ててね、メイ!」
しかしここで怯めば負けが決まる。まだ、この機体に名前もつけていない。
自身を奮起させ、銃身の熱いライフルを左手だけで構えた。
「倒すんだ!」
敵は目と鼻の先。サーベルはこの装甲でも耐えられないのは明白。ならば、優先すべきは狙うよりも引き金を引くこと。
「光ぁれぇぇぇ!」
敵との距離が0に近くなる刹那。
シュウは自分の声とは思えない叫びとともにライフルを突き出した。
歯を食いしばったシュウの表情をサーベルの光が塗りつぶした。
「ところで、一ついいかいボーンちゃん」
ライフルを放つ数十秒前。
「あのシュウはさ、君の教えをどれぐらい守ってるんだい?」
ボーンはステークにこう答えた。
「お前と同じだ。何から何まで、必死になって学ぼうとしてたよ」
「つまり?」
「場面が同じか似てるなら、同じことをするんだよ」
サーベルを突き立てられたライフルが光を四方へまき散らし、左腕を巻き込んで全身の装甲を炙り出した。そのまま左腕を突き刺し熱量が胴体へ迫る。シュウは機体の左足を蹴り上げさせ、刃先を僅かにずらせた。その左足も装甲の半分が切り裂かれた。
「今!」
ほんの数秒の間だったが、時間は稼げた。
「トドめはぁ!」
右手には、ライフルを構えるまで忘れていたリボルバー。
「確実にぃ!」
射程も威力も弾数も、何も問題は無かった。
◇◇◇◇◇◇
「勝敗は……!?」
立ち上がったメイはモニターに飛びついた。そこにはまだ火を纏っている残骸を足下に置き、左腕を失ったシュウの機体の姿があった。
「勝った、のね」
別のモニターにはコックピットの中でベルトに吊られ、眠るように気絶しているシュウの姿が映っていた。
「通信の調子が悪くて……って、寝てるのね」
メイは胸を撫で下ろし、椅子ヘタリと腰を落とした。
「帰ったら、お祝いしましょうね」
憂いを湛えた目で、一人で呟いた。
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