第十二話 活かす瞬間
「四時方向熱源! 着弾まで三秒!」
通信を聞いてペダルを踏み込み、岩山の一角を弾き飛ばす砲撃から逃れた。灰色の装甲に土の塊が被さり、機体のシルエットが隠れる。だが、その装甲にダメージは無かった。
「損傷なし!」
報告だけを口にし操縦桿を前に倒す。機体各所からの廃熱が土を吹き飛ばし、頭部の緑色のカメラアイが光った。音による衝撃こそ感じたが、幸いにも広範囲を攻撃するものでは無いらしい。
「距離およそ500!」
「了解、場所と時間はどう?」
要請した直後、モニターに敵の砲撃位置が表示され、次弾装填までの予想時間がカウントされていた。
「過去のデータから出した時間だから、そこまで参考にはならないわ」
カウントは70。猶予はある。
敵は森林エリアにおり、こちらのいる岩山エリアへ撃ち込んできた。
「威力は?」
「当たったら一撃よ」
弾着までに離脱する猶予はある。
「わかった。できる限り止まらずに近づいてみるよ」
メイの報告から少し考え、シュウは機体を動かした。
敵機のいる方向には緑が広がっている。木々の合間からこちらを狙ったのだろうと考え、緑が分けられている箇所を探した。
「あの威力だし、痕跡とかあるよね」
自分で言って間違いはないと確信する。強力な砲撃ならば反動の影響が残っているはずである。
「砲撃の痕を探してみる」
「もうやってるわ……よし捉えた」
すぐさま敵の位置とその様子が映し出された。
「移動速度と廃熱量からして敵は大型ね。改造されているだけかもしれないけど」
「そうだね。プラモデルは加工しやすいから」
自分の駆る機体も、これまで支給されたパーツやジャンク等から組み合わせたもの。何らおかしくはない。そう考え、気を引き締めた。
「武器コンテナの投下は?」
そろそろ頃合いだろうと、モニターの隅を見やった。レーダーには四角い反応を示すマークが、マップの所々に複数映っている。あらかじめ場所を決めて武器を配置させ、手数と適応力を増やす作戦である。
「進路上に一つ。回り道すれば狙撃用ライフルがあるわ」
岩山エリアの影にコンテナが一つ、レーダーが捉えていた。
「たしかビーム兵器だっけ?」
「そうよ。光の粒子を圧縮して敵を撃ち抜く武器。組み立て式だから撃つまでに時間が必要だけど」
「なら、狙撃はあとで考えるよ」
提案に対して即座に決め、機体を岩山の麓から森の中へ入れさせた。今は敵を追い詰めるための時間が欲しかった。
「敵は遠ざかってるけど、このままなら追いつけるわ」
報告と同時にアラームがコックピットに響いた。
「うわっ」
ペダルを踏み込み、背部と腿部のスラスターを点火させ飛び上がる。直後、自分の機体がいた場所に火柱が上がった。森林エリアの一部が焼け落ち、緑が欠けた。
「予想時間より長いね。装填は遅いのかな?」
木々をかき分けて着地させ、機体の様子を確認しながら疑問を口にする。
「違うみたいよ。弾着の様子が違うの」
敵の位置を把握し、接近しながら聞いていく。
「前のは威力を重視した一点突破。今のは範囲を重視したもの。弾種変更に時間がかかるのかしら?」
「なら、尚更近づかなきゃね」
武器コンテナを発見し、元々持っていた武器の代わりに重機関砲を取り出して機体に持たせた。ずっしりと重さが、操縦桿越しに腕へ伝わってくるかのようだった。
「これなら大型の敵でも撃ち抜けるよね」
「そうね。その機体でも易々と耐えられないぐらいよ」
軽い掛け合いを終え、二人はそれぞれのモニターを見やった。
「極意、その一。敵の攻撃を誘え」
そして、ボーンに教わったことを思い出した。
長いような一瞬が過ぎた。
「!」
アラートが鳴った。
「来た!」
機体各所のスラスターとバーニアを開き、一気に距離を詰めるべく地面を滑るよう移動させた。武器はまだ敵へ向けずにひたすら機体を前へと進ませる。
「ぐっ……!」
細い体にベルトの圧力が掛かり、肺が圧迫される。
シミュレーターからくる衝撃や刺激が薄くなり、体への負担は大幅に減っていたがそれでも息が詰まった。
「……!」
敵影が見えた。
速度を落とし足を地面へ着け、反動で飛び出そうになった体がベルトによって押しとどめられる。
「げほっ……その二」
怯むことなく、同じように教わった戦場の極意を確認する。
「武器破壊は、よく狙え」
込み上げそうになった喉を堪え、自分なりに解釈した教えを確認した。
「今よ!」
攻撃が可能となった距離まできた。重機関砲を前へと構え、再び機体を前進させる。
「敵機確認!」
ナビゲートとともに重機関銃のスコープが敵を捉えた。
敵は力士を思わせる巨体を持つ、土色のプラモデルだった。右肩からは長い砲身が前へと伸び、その砲撃の精度と威力を物語っていた。
「射撃体勢、姿勢制御」
敵機をロックオンし、接地させた機体に引き金へ指をかけさせる。
「バンパー展開」
足の脛部にあるバンパーから装甲から開き、地面へと展開させた。
これで準備は整った。
「発射!」
操縦桿のトリガーを引いた。
力任せとも言える反動が機体の腕を震わせ、振動でモニターがブレる。大まかな位置がわかっているため視界のブレは気にならない。敵の機動力は低いのだかたこれで十分。
「命中よ!」
通信からの報告で撃つのを止め射撃体勢を解除。そしてすぐさまモニターの一部を拡大させ、敵の状態を確認した。
敵の巨躯には弾痕が生まれており、肩から斜め前へ伸びていたキャノン砲が地面へと落ちていた。こちらの攻撃を受けて怯んでいるのが見て取れた。
「その三は隙を逃がすな、だ!」
まさに好機。重機関銃を手放し右腿のホルスターから武器を引き抜いた。
「接近する。リボルバーを使うね」
射程距離と弾数を犠牲に一撃の破壊力を上げた銃。このまま近づき放てば、確実にその装甲を撃ち抜ける。
「ちょっと待った」
ペダルを踏もうとしたところで、通信がきた。
「極意その四。油断は絶対にするな、よ」
「うん、そうだった。油断はしちゃだめだ」
思い返し、踏みとどまった。油断は大敵だと、徹底的に言われている。
「深追いは危険よ。砲撃は封じたんだからこれでよしとしましょ」
「了解」
接近を思い直し、その場で機体を止めさせた。頭は熱いが、油断すれば敗北することは忘れていない。
「とにかく解析をお願い。逃げてるのに牽制もしてこないんだ」
逃げる際の時間稼ぎがないことに気づいていた。
「そうよね……足下は見通しが悪いし調べてみるわ」
敵が森の合間へと消えていく。後退してるように見せかけ、虎視眈々と反撃の機会を窺っているのかもしれない。
「一度退くよ」
リボルバーをホルスターへと戻し、機体を後退させた。
「次、どうする?」
「コンテナへ武器を取りに行くよ。仕留めるなら確実にいきたいしね」
機体を岩山へと移動させつつ答える。敵にはもう策がないというのは確率的に低い。森の中にいたのだから罠を張るだろうし、あの巨体に武器を隠していないとは考えづらい。装甲も厚く、生半可な攻撃と距離では仕留めきれない。
敵は森林の奥へ。こちらは森と岩山の狭間。
「第二ラウンドね。シュウ」
三つのモニターの前で、メイがインカム越しに言った。
「うん。第二ラウンドだよ、メイ」
自分たちで作り上げた機体を、シュウは二人で立てた作戦に沿って移動させた。
二人は自分達の成長を確かめながら戦っていた。
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