第十四話 覗き合う森
「もしかしたら、ボーンとその仲間がいるんだよね」
シュウは木の影に機体を隠しながら何気なく呟いた。森から出られないまま戦闘開始から十五分。ゲリラ的な攻撃が続き、シュウは携帯食料のチューブをすぐに飲み切った。
「でも不干渉でしょ?」
「そうだろうけど……他の部屋の人とも会ってみたいな」
「だめよ。変な情が出たらどうするのよ」
「それも、そうだね。残念だけど」
シュウとメイは拡大していたモニターの表示を閉じ、雑談を止めた。そして機体を立ち上がらせ敵に意識を向ける。
「僕たちは足を引っ張らないように、強くなる」
「そして、二人でここから外へ出る。そのためにボーンに協力する」
成長していても、二人の目的は変わらなかった。
「次はミサイルよ!」
木々の合間にあった罠を回避した直後だった。
「数は!?」
「二十四!」
シュウは答えを聞く前に機体を飛び退かせ、コンテナから取り出していたシールドを構えさせた。
「うわっ!」
避け切れず一発が肩の装甲へ直撃。至近距離での轟音が通信にノイズを走らせた。
「大丈夫! 右腕は問題なく動く!」
損傷は軽微。問題はないが余裕もあまりなかった。
「森に出さず近づかせずばっかり。あーもう!」
メイが叫び手を頭にやった。
不意に飛んでくる攻撃と、罠の張り巡らされた視界の限られる森。その二つが二人の神経を逆撫で、ゆっくりと擦り減らしていた。残っている有効な武器は岩山エリアに置いてある狙撃用ライフルぐらいのものだった。
擦り減っているのは武器と弾薬も同じであった。
「げっほ……まんまと罠に嵌ってるわね。森の中で何やってるのかしら」
咳き込み、歯痒そうなメイの声に、シュウは息を整えて答える。
「でも、今みたいな大技を繰り出してきたしあっちも余裕がないのかもしれない。勝てるよ、きっと」
シュウの考えは楽観的とも取れるが、決して想像と片付けられるものではない。エクソダスもまだ大きな損傷を受けておらず、戦闘に問題はない。
「そうね。ミサイルの雨は初だものね」
気力の落ちていたメイだったが、自分の頬をペチリと叩いて持ち直す。
「チマチマした戦闘は、そろそろ終わりにしましょう!」
「うん!」
シュウはライフルを取りに行った。勝つ方法はもうわかっている。
「極意の五。トドめは確実に、だ!」
「ライフルの回収に成功。狙撃ポイントに移るね」
敵からの攻撃が止んで三分が経過した。戦闘開始から二十三分。膠着状態が続いていた。
「実戦での初使用がこんなところでだなんて、流石にちょっと不安ね」
メイの不安を余所にシュウは機体に身の丈半分程のパーツを組み立て、完成させたライフルを構えさせた。
「でも、情報がない分対策とかできないと思うよ?」
メイは不安そうにしているが、シュウはまだ落ち着きを保っていた。
「たぶん、これが最後の攻防になると思う」
これまで互いにかなりの量の攻めの手を出していた。そして出したが故の膠着状態が続いていた。
「機体が無事でも、次で最後だと思う」
損傷は右肩のみ。装甲の厚みとメイのアシストもあり、それ以外に大きな被弾もなく、本体の戦闘継続に問題はない。
対して、敵はこちらからの攻撃を幾度も受けている。地の利はあるが追い詰めているのはシュウとメイだった。
「……この一撃を当てなきゃ、僕たちの負けだよ」
それでもこれ以上戦いが長引けば負けは必定。マニュアル通りにライフルの銃身を組み立て、動作を確認するシュウの言葉には隠し通せない緊張が見えた。
「ライフルに問題はないから、あとは僕たち次第だね」
狙撃可能と、モニターに表示された。
「……」
プレッシャーが喉を鳴らした。今は何処かで、ボーンが見ているのだ。そんなシュウを見て、メイは少し咳き込んだ後こう言った。
「そうよね。逆に言えば当てればこっちの勝ちよ。あっちの方が損傷は大きいんだし、当たれば倒せるわ」
メイは自身をモニターへ映した。
「遠距離からやり返しましょう! それもあっちみたいなチマチマしたものじゃなくて、一撃で全部やっちゃうのよ!」
メイは意気込みとともにマップへ敵影を映した。
そして。
「それと今回勝てたら今日の配給を半分譲ったげるわ!」
シュウを元気付けるために体を張ることにした。
「それって、中の食糧とかお菓子も?」
緊張していたシュウは驚き、思わずわかりきっていることを聞き返した。
「もちろん! 前線で頑張ってるのはシュウなんだし、反省会の後で祝賀会よ。ボーンも見てるんだから勝ちたいわ」
おそらく勝とうと負けようと、メイは同じことをしたであろう。この長期戦を戦い抜いたのだからと、労ってくれるであろう。
「メイ……」
シュウの知るメイとは、そういう存在である。
シュウが想うメイとは、そういう少女である。
「うん、がんばる!」
「がんばれ!」
気合と共にライフルを構え、スコープを覗いた。
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