スキルで製作鍛冶屋のアタック!!

早起き三文

第1話「革鎧作り」

「はい、貴方の適正クラスは鍛冶屋です!!」


 そう、汗の臭いに満ちた訓練所のお姉さんに笑顔で言われても、俺としてははいそうですかと頷く事は出来ない。


「……本当に?」

「本当です、アシュさん」

「……うーん」


 鍛冶屋というのはその名の通り、武具を作るスキルを持ったクラスの事だ。ある程度の前線能力もあるが、基本的には後列から援護をする立場である。


「他に成れるクラスは、何か無いのか?」

「このテスト結果ですと、あとは使用人とかしかありません」

「くっ……」


 その使用人というクラスも鍛冶屋と似たり寄ったりのクラスだ。折角半年前に家族の反対を振り切って村から飛び出してきたというのに、結局はこの有り様か。


「……しかたない、じゃあ鍛冶屋で」

「はい、鍛冶屋一人ご案内ー」


 ゴォーン!!


 その時、訓練所の銅鑼の音がなり、俺が正式に鍛冶屋として承認された事が周囲の人々にと伝わる。何人か拍手をしてくれたが、あまり俺の気持ちは晴れ晴れとはいかない。


「では、赤い髪のアシュさん」

「ん、何だ?」

「早速ですが、訓練所から依頼がありますよ」

「おいおい……」


 まだ俺は自分の能力も確認していないのだ。依頼といってもどうしよもない。


「あ、そうそう忘れる所でした」


 そう言いながら訓練所姉ちゃんが差し出した一つの腕輪、それを俺はじっとみつめているなか、訓練所姉ちゃんはその俺の目をじっと見つめたまま。


「スキル判定器、鍛冶屋用です」

「へ、へぇ……」

「えーと、貴方のスキルは……」

「解るのか?」

「見る人が見ればですが、えーとE」

「E、それは高いのか低いのか?」

「最低値ですね」

「おいおい……」


 そのまま俺は訓練所、周囲の石造りの建物にその目をやりながら、思わず天をあおぐ。と、いっても石で出来た天井しかないが。


「じゃあ、仕事なんて出来ないぜ?」

「いえ、この仕事は簡単な仕事ですので」

「はあ……」

「場所はこちらで用意します」


 そう言って訓練所姉ちゃんはニッコリと笑い、このむさ苦しい訓練所に似つかわしくない笑顔を俺に向けてくれる。


「この訓練所から少し離れた場所、タンデムの鍛冶屋という所に話をつけておきますので」

「……」

「鍛冶Eの他に革細工Eも持っていた貴方ならきっと出来ますよ?」




――――――




「このタイデルの城下町に来てから、約三ヶ月か」


 最初は俺は戦士、ヒーローになりたかったのだが、訓練所のテストというのは意外に厳しく、特に実地訓練で俺は赤点をとってしまったのだ。


「中には、訓練所の訓練なしでクラスに就けるやつもいるけどな」


 だが、それは一部の天才のみだ。やはりなんだかんだいってマニュアル化された訓練というのは効果的なものである。


「あった、ここだな」


 ざわめく町の雑踏を掻き分けた俺は、目の前の看板に「タンデムの店」と描かれている一店の店の前にいる。


「ごめんくださーい」

「おう、入れ!!」


 その野太い声に促されるように俺はそのまま店の中にと入る。店の中は埃っぽく、あまり繁盛しているように見えない感じだ。客は一人もいない。


「訓練所から話は聴いている、そこの台で品物を作りな」

「……?」

「……ヒック!!」


 何か、二階から聴こえてくる男の声には酒が混じっているようだ。俺はあまり深入りしないと決めて、そのまま入り口の脇にとある作業台の前に、己の身体を向ける。


「確か、頼まれたのは薄手の革鎧三丁……」


 新入り冒険者に渡すらしい。俺は訓練所で「受け取った」品々。


――なめし皮×3――

――なめし薬剤×3――

――革ひも×6――


 を台の上に置くと、そのままスキル「鍛冶ランクE」そして「革細工E」を発動させる。


 パァア……


 その瞬間に材料達は光に包まれ、そして。


――ライトレザー×1――

――ライトレザー(低質)×2――


 が、やや薄汚れたそれらの革鎧が台の上にとその姿を表す。


「まーたくよぉ!!」


 そのとき、二階から降りて来たのか、赤ら顔をしている巨漢の男が俺を強い視線で睨み付ける。


「最近の鍛冶屋はみんなそうだ!!」

「なんだよ、オッサン……」

「スキル魔法の力を借りて、汗と涙がない!!」


 そういった後にこの男は手に持った酒瓶からグビリと、強い薫りがする液体を飲み込み、そのまま再度二回へと戻っていく。


「……チクショウ!!」

「……」


 その後、何か泣き声のような物が聴こえてきたが俺は気にせずに革鎧、ライトレザーを「収め」て、そのまま店の外にと出ていった。


「……低質の革鎧もあるけど、質は問わなかったよな?」


 あまり自信はない。だがそれでもどこか俺は不安を感じながらもそのまま依頼を受けた訓練所にとその歩を進めた。


ドゥン!!


「あっ、すまない」

「いえ、こちらこそ」


 その時俺が肩をぶつけてしまった女、その立派な金属鎧から恐らくは戦士、もしかすると君主かもしれないと思われる女はそのまま、先程俺が作業をしていた店の中にと入っていく。


「父さん、また昼間からお酒を飲んで!!」

「……」


 少しその家の内実が気になったが、俺は深入りだと自らを戒め、そのまま訓練所にとその歩を進めた。

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