第2話「ロード・ミネルバ」
「あー今の貴方には武器製作は無理ですね」
「……そうなのか?」
「はい」
むさ苦しい場所にいる、その訓練所姉ちゃん。明るいブロンドのツインテールを束ねた彼女によれば、武器製作にはせめて「鍛冶E」の他に「金属E」などのスキルが必要だというのだ。
「そのスキルカウンターを使って通してみても、貴方にはそれがないことが解ります」
「……どうすればその金属Eは身に付くんだ?」
「まともな武器を作るなら、武器Eも必要ですね」
「いや、だからどうやって……」
「まず、一つは」
そう言って、訓練所姉ちゃんは脇のチェストから一枚の用紙を取り出し、その文面を俺の前にと差し出す。
「失敗前提で何度も武器を作る事」
「……次は?」
「そうですね、自然に才能が開花するのを待つ事です」
そこまで言って、訓練所姉ちゃんはフッと軽いため息を付いて、そのまま俺の顔を除き込む。
「何で、武器を作りたいんです?」
「そりゃ俺は……」
「戦闘スキルの無い鍛冶屋に、戦闘は無理ですよ」
「むっ……」
彼女に思わず図星を付かれてしまった俺は少し不機嫌になりながらも、そのまま近くの張り紙をその指で指す。
「冒険者メンバー募集って張り紙は、沢山あるぞ?」
「それは使える冒険者募集という意味ですよ、アシュさん」
「ちっ……」
そのまま軽く舌打ちをした俺は、これ以上愚痴を言っても仕方がないと思い、前回納品した革鎧の価格の事をその舌に伸べた。
「少し、先の依頼の報酬が下がっていたけど?」
「それは、低質の革鎧が混じっていたからです」
「だけどもよぉ」
「それでも、訓練所の長はイロを付けて報酬を支払ってくれたのです、感謝して下さい」
「ちぇ……」
カッ……
その時俺の視界の隅、そこに輝くばかりの鎧を身に纏った女が訓練所の奥へと入っていく。
「ミネルバ様ですよ」
「ふん……」
「クラス君主にして、この訓練所でナンバー5に入る方」
「興味ないね」
「また、ひがんちゃって!!」
そう言ってケラケラと笑う訓練所姉ちゃん、今の俺にはその彼女の声が疎ましかった。
――――――
「また、あの店での依頼か……」
正直、あのタンデムの店とやらはあまり良い雰囲気ではない。明らかに時代に取り残された店といった風である。
パァン、パン……
何やら祭りが始まっているらしきタイデルの街、所々に屋台が立ち上ぼり、そこから立ち上ってくる食べ物の香りが、焼き鳥などの香りが俺の鼻をくすぐる。
「……さて」
俺はその匂いを腹ごしらえみたいな感じでかぎながら、自身の手に持ったメモにとその目を通す。
「ま、これも仕事だ」
何しろ、宿代は払わなくてはならないのだ、仕事があるだけましだというもの。そのまま俺の足はやや寂れた一角、そこにあるタンデムの店にとたどり着いた。
「ごめんくださーい!!」
「……おう」
「?」
今日のあの店主の声は近い。そのまま開け放たれた店のドアをくぐると、そこには以前とは違う、よく埃の臭いがあまりせず整理整頓された店内が見える。
「何があったんですか、えーと」
「タンデムだ、若いの」
そう言って、店のカウンターでその顔を綻ばせている男。彼は今日は酒を飲んでいないようだ。
「この前アンタが来たあとに、娘が来てな……」
「へえ……」
「よほど俺の姿に堪えかねたのか、そのまま店の掃除を始めちまったよ」
そのままカウンターの椅子から立ち上がり、俺の方にと寄ってくるタンデムという男。彼はそのまま俺が身に付けている腕輪にその目を止め。
「さ、今日も始めなよ小手先の技をよ」
「……」
妙に機嫌が良い「観客」というのも考えものだ。俺はあまり彼の事は気にしないようにして、そのまま鋼鉄で作られた作業台にとその手を置く。
――なめし皮×2――
――革ひも×4――
――鉄片×2――
今回作るのは「革の盾」が2個だ、必要スキルは「防具E」に「革細工E」であるが、ただ。
「鉄片、金属を使うと金属スキルが発芽する可能性があると……」
それは、訓練所姉ちゃんから聴いた話である。もっとも彼女はあまり期待しないようにとも言っていたが。
「さて……」
俺はその目の前に置かれた素材に意識を集中させると、スキルの発動を念じる。スキルの発動とはたとえば記憶を思い出すような物で、恐らくはやはり慣れが必要なのだろう。
「それが今時なのだろうな……」
この親父のいうことはもう気にしない、俺はそのまま暗い店の中で革の盾を造ることに専念する。なめし皮を初めとする素材達が煙を上げ、光を放つようになると。
「……ん、煙?」
ボゥウ……!!
その時、軽い爆発のような物が起こり、素材達が一瞬弾けたような錯覚を覚える。俺は鍛冶に失敗したかともおもったが。再度テーブルの上を見たとき。
――革の盾(普通)×1――
――革の盾(最高)×1――
の文字が出たとき、イレギュラーが発生したことを確認した。
「はは……、上手くいったもんだ」
「やるじゃないか、兄ちゃん」
店の親父も、その品をみて何か関心したような声を上げている。無意識に誇らしくなる俺。その時。
「……何か起こったの?」
店の二階から、簡素な衣服に身を包んだ一人の娘が階段を伝って降りてくる姿が俺の目に入った。娘の髪は淡い亜麻色、ブルーの瞳はキラキラと輝き、その立ち振舞いは隙を感じさせない。
「おうミネルバ、いまこの兄ちゃんがな……」
そう言って店の親父は、勝手に上手く出来た革の盾をつかんで、それをそのままミネルバとかいう娘に見せる。彼女はジロジロとその盾を見つめていたが、そのまま軽く息を吐くとニコリと笑い。
「へえ、良い腕してるわねあなた」
と、俺の方に微笑んでくれた。その彼女の笑みに何かくすぐったさを覚えながらも俺は親父の手から革の盾の取手、腕によく馴染み重さを感じさせないそれを確かめつつ。
「まあ、腕前ってやつだ」
と、強がってみせた。
「ん?」
その時俺は何か違和感、右腕に付けてある腕輪と腕の先の辺りに軽い違和感を感じたが、それが何かを気にせずにそのまま、この目の前にいる美人さんと話を続ける。好みのタイプである。
「まあ、偶然でしょうけどね」
「あ、解った?」
「そりゃ、鍛冶屋になって一週間も経たないあなたがこんな良い品を作るこたなんか出来ないわね」
「あれ、俺の事を知っている?」
俺はこの彼女には会った事はない。いや、しかしこの声には聞き覚えがあるかも。
「あんたと会ったことあったか?」
「訓練所姉ちゃんと話していたじゃない……」
「ああ、見ていたのか」
「前線に出たいのですってね」
「ん、ああまあな……」
「その願い、叶えられるかも」
「え?」
「実はね」
その時、ふと俺の頭の中に「金属E習得」という女性の声がし、微かに指の先が熱くなったが。
「気のせいかな……?」
「実はわたし、今度第一階層に用があるのよ」
「第一階層、カルマンの遺跡のか?」
「それも入り口付近」
「なるほど……」
その言葉に俺は暫し考えた。が、もともと俺は戦士、前衛職になりたくて田舎の、故郷の村の寒村から家族を放ってこのタイデルにとやって来たのだ。渡りに船というやつではないか。
「出発は3日後、準備が出来たら遺跡の第二キャンプにね」
「あんたが解るのか、俺が行って?」
「ミネルバもいえば、ああ……」
その時、彼女は暗い室内で微かに頷いたようである。
「あなた、お名前は?」
「アシュ」
「そう、じゃあアシュ」
そのまま彼女は一つあくびをし、スカートをなびかせて二階へと上がるさながら。
「3日後の朝、よろしくね」
と、ポンとした口調でそう語る。
「全く……」
彼女ミネルバが二階へと消えた後、店の親父は何か困ったような表情を浮かべつつ、微かにそのあまり頭髪の無い頭をかいてみせた。
「誰に似たんだかねえ……」
「ハハッ……」
俺はその親父に愛想笑いを浮かべつつ、そのまま荷物を「纏めて」店から出ていこうとする。
「ミネルバ、か……」
似ていると言えば似ている。1年前に流行り病で無くした恋人に。
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