第3話「武装ひとそろえ」

「無謀じゃないですかね?」

「そうかな……?」

「いくら、ミネルバ様が一緒にいるからって」


 訓練所姉ちゃん、髪型が可愛いこの子の言うことはもっともかもしれないが、やはり俺は前衛職の夢を捨てられない。魔物との戦いで危険だが、金持ちになるには一番の近道だ。


「鍛冶屋は鍛冶をやっていればいいんですよ」

「んー……」

「せっかく、金属Eを習得できたんですから」

「金属Eか」


 姉ちゃんが言うには、先の革の盾を作るときに偶然にも俺は「金属E」のスキルを得たということだ。あまり実感はないが。


「まあ、どちらにしろ貴方の勝手です」

「厳しいね……」

「最近教会のお布施も値上がりしている見たいですから、気を付けて下さいね」

「死なないようにってか……」


 この城塞都市の教会が強欲だというのは、この街に来た当初から聴いている。幸い俺は世話になった事はない。


「さて、アシュさん」

「お、おう?」

「武器防具はどうしますか?」

「自分で作る、決まってるじゃないか」

「そのランクのスキルで?」

「おう、何か文句あるか?」

「はあ……」


 それきり訓練所姉ちゃんは深いため息をつき、そのまま何かを言おうとしたようであるが。


「だったら、せめて素材はあの店から買って下さいね」

「あの店、ねえ……」

「そう、あの店です」


 正直、俺はあの親父の店に大した信用を置いていないのだが。


「親父さんのやる気はないけど、素材の質は他の店よりいいんですよ」




――――――




「戦闘系スキルが全くないとなるとなあ……」


 親父のぼやきはこの薄暗い店内にと吸い込まれ、そのまま消え去っていく。俺は親父が吹かせたタバコの匂いをかぎながら、店で買い取った素材の質を確かめていた。


――なめし皮(普通)×4――

――なめし皮(上質)×2――

――革ひも(普通)×10――

――革ひも(上質)×2――

――鉄片(普通)×2――


 以前、高品質の革盾を売り払って俺には少し懐に余裕があるのだ。宿の代金を払ってなおも余裕がある。


「作るのは革の防具、鎧に盾に兜にブーツ……」


 革鎧にはなめし皮が二つ必要、盾にもだ。その他の革製品には一つずつでいい。鉄片は盾用、革ひもは全てに使う。


「上質の素材を使えば、そのぶん良い品が出来る確率はあがるけど……」


 もしも革鎧の質を上げたければ、上質のなめし皮と革ひもを全部使うのがいい。鎧は戦士として未熟な俺にとって生命線だ。


「……」

「……おう、兄ちゃん」

「ん?」

「武器はどうするんだ?」

「それは後で決める」

「お、賢明だね」

「そうなのか?」

「武器から先に選ぶ冒険者は早死にする、俺の経験からの忠告だ」

「フゥン」


 その話を少し聞きながら、俺はそのまま頭の中で考えを纏めて、そして。


「よし、決めた!!」


 そのまま宙から素材を「取り出」し、俺は作業台の上で軽くその手を合わせる。


「一息ついてからにしないか、兄ちゃん?」

「いや、一気にやる!!」

「ほう、そうかい」


 その手に何か飲み物を持っていたらしい親父はその飲み物を俺に差し出そうとしたみたいであったが、俺はそれを手で遮り、そのまま作業を開始した。


――なめし皮(上質)×2――

――革ひも(上質)×2――


「さあ、いざ革鎧!!」


 カァ!!


 その光の渦、それを見つめていた俺はスキルを維持して経過を見守る。


「……んん?」


 何か、光の中で見える革鎧(ライトレザー)はあまり良い出来ではない。所々が綻びているようだ。


 ボムゥ!!


――革鎧(普通)×1――


「ありゃあ……」


 何が悪かったのか、結構な材質を消耗しても普通どまりになってしまった。俺はその革鎧を少し恨めしげに見つめながらも、そのまま次の革製品の製作に着手する。


 ボンゥ!!


――革の盾(低質)×1――

――革の兜(普通)×1――

――革のブーツ(低質)×1――


 あまり良い結果ではない、いやそれどころか悪い。何か心がけがいけなかったのだろうか。


「やはり、Eランクのスキルではこんなもんか……」

「店の商品なら売るぞ、兄ちゃん?」

「うーん」


 俺はその親父の提案に一瞬迷ったが、結局は自分が作った製品を信用することにした。未熟な鍛冶屋にプライドもなにもあったもんではないが。


「さて、次は武器だな……」


 そのまま俺は気を取り直して、暗い店の中で自分が使う武器に着いて考える。


 パァン、パァ……


 街では昨日から祭りが続いている。魔王討伐に忙しいというのに、何の祭りなのだろうか。


「俺には武具のスキルはなし、単純に武器の性能で選べばいいのだけど……」


 接近戦の花形である剣か、それとも斧か。そうウンウン悩んでいた俺に対して、親父が薄く色の付いたジュースを差し出しながら。


「俺の聴いた話では、槍とか斧では木工というスキルも必要なんじゃないのか?」

「あっ、そうか……」


 だとしたら選択肢は大幅に狭まる。俺の考え付く物のなかでは、出来るのは剣か短剣。


「まてよ、革細工を流用してスリングも作れるな?」


 スリングとは、革のベルトを使って石を射出する投擲武器である。上手く使うには扱いは難しいが、あれこれ考えずに使うだけなら誰でも出来る。


「……よし、親父さん!!」


 俺は親父がくれたリンゴジュースを飲み干すと、そのまま親父に武器を製作するための材料を注文する。何かイソイソと親父が鉄材などを用意するならで俺は精神を集中させつつ、自身の唇に付いたリンゴかすを軽くぬぐいとった。


「ほらよ、兄ちゃん」


――鉄のインゴット(普通)×3――

――なめし皮(普通)×1――

――革ひも(普通)×6――

――石ころ(普通)×4――


「作るのは剣、短剣にスリング!!」




――――――




「あまり上手くいかなかったなあ……」


 親父の慰めも今ではあまり俺の耳にと入らない。鉄のインゴットを初めとした費用を掛けながらも、散々な結果だったのだ。


――ショートソード(劣悪)×1――

――ダガー(低質)×1――

――スリング(低質)×1――


 一応それらの装備を、防具も含めて店で身に付けたはいいが、やはり着こなしが出来ていない。いかにも素人であるという事が丸出しであるし、剣などはそのままズルリとベルトから地面に落ちてしまいそうだ。


「初めて使うスキルには慣れが必要ということか……」

「兄ちゃん、冒険道具も自分で造るかい?」

「……いや、店で買う」


 何か、親父から「最初」からそうしろという意見が聴こえそうな気がした為に俺は足早に、店から立ち去ろうとする。


「ああ、兄ちゃん……」

「……何ですか?」

「ミネルバによろしくな」

「……」


 バタァン……


 店から出て、明るい日差しにその身を投じた俺は、春の太陽の光に似つかわしくないため息を吐きながら、そのままトボトボと街の大通りへと出ていく。そこには冒険関係の小物が売っている店があるはずだ。

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