第8話「エルフの雑貨屋」
「結局、あのバーンという奴の依頼を受けたはいいが」
「それで、あたしに泣きついているんですか?」
「まあ、そうだな」
バーン達から前金として幾ばくかの金を受け取っている、のはいいがやはり彼らに頼まれた武器防具を製作するにあたって材料費としての話では、それはそれは満足な額であるとはいえない。
「何か良いアイデアはないだろうか、訓練所姉ちゃん?」
「そうですねぇ……」
その自身の唇に人差し指を当てて考え込む姉ちゃん、そのまま暫くの時間が経過したのち、彼女はニコリと笑うと。
「冒険者に素材集めの依頼をしてみればいいでしょうか?」
「冒険者に依頼かあ……」
「もちろん前金は掛かりますが、店で素材を買うよりは安上がりかと」
「うーん」
そのまま訓練所の受付をぐるりと見渡す俺。姉ちゃんに出された水を飲みながら、俺は暫しの間考えていたが。
「物は試しだ」
と、彼女にその意を了承する返事を絞り出す。
「解りました、では……」
訓練所姉ちゃんはそのまま椅子から立ち上がると、石造りである訓練所内の奥にとその歩を進める。俺は雑風景であるその、薄暗い訓練所受付でじっとまっていたが。
「お待たせしました、アシュさん」
少しの後に訓練所姉ちゃんはトテトテと受付に戻ってくる。そして、そのまま彼女の後ろにと付いてきた一人のドワーフが、そのドングリ眼で俺の事をじろりと睨み付けた。
「あんたがワシの依頼人か?」
「あ、ああ……」
「ワシの名はゴールド、素材収集人だ」
俺はそのまま彼、俺の胸辺りまでの背丈しかないそのドワーフに握手を求めたが、そのゴールドとやらはその俺の手をチラリと一瞥したのみで、握手を返そうともしない。
「アシュさん、早くゴールドさんに依頼を伝えなよ」
「……まあ、そうだな」
訓練所姉ちゃんの対応からみるに、そう言う人物なのであろう。俺は頭の中で鍜冶によって作り上げるべき品を考え、そしてその為にはどのような素材が必要なのかを算出する。
「まずは何かの皮が10は欲しい、あと幾ばくかの金属だ」
「……そうさな」
そのゴールドと名乗ったドワーフは暫くその太い首を傾げて考えていたようであるが、一つ頷いたのち。
「全部で銀貨1000といった所か」
「何!?」
と、俺に向けて低く唸るような声を上げて伝えてきた。
「銀貨1000!?」
「いやなら、他を当たれ」
「うーん……」
しかし、よく考えると素材の材料費だけでも普通に考えればその位はする。恐らくはこのゴールドというドワーフはカルマンの遺跡に潜り込んで素材を集める気なのだ。危険手当てもある。
「よし、乗った!!」
「全て前金だ、若いの」
「へいへい……」
銀貨1000といったら、今の俺の手持ちのお金全てに近い。昔聴いた「エビを買ってタイを釣る」というのはこう言うことか。
「で、何時になったら素材をくれる?」
「一週間は期限をもらいたい」
「なるほど……」
俺はそこまで来て、訓練所姉ちゃんのその顔色を伺う。彼女の浮かべるその表情を信用するというのであらばこの依頼内容は適切だ、という事かもしれない。
「じゃあ、頼んだぜゴールドさん」
そのまま金貨10枚を、銀貨にして1000枚をポケットからこのドワーフに差し出す俺。その金貨を受けとる時でも、このドワーフのおっさんはムッツリとしたその表情を全く崩さない。
「ま、ドワーフだからね……」
――――――
ゴールドとかいうドワーフが立ち去った後に俺は訓練所姉ちゃんに他に依頼があるかどうかを尋ねてみる。この一週間を何もせずに過ごす訳にはいかない。
「んー、スタデッドレザー製作という依頼がありますが……」
「鋲打ち革鎧か、今の俺に出来るかな?」
「さあ……」
その鋲打ち革鎧、よく盗賊等が使用する革鎧の強化版鎧は少し手間の掛かるという事ぐらい俺でも知っている。俺はその時、ふと思いたった事を訓練所姉ちゃんにと話しかけてみた。
「ここいらの近くに、鍜冶が出来る場所はないだろうか?」
「ミネルバ様のお父様の店では不満ですか、アシュさん?」
「俺はあの彼女ミネルバさんに借金をしているんだよ」
「ああ、そうそう借金といえば」
そこで彼女は何かを思いたったらしく、そのまま受付にある引き出しから何か一枚の書類を取り出してきた。
「王国から、利子の催促状が届いています」
「げっ、もう?」
「まあ、まだ期限はありますが」
「はあ……」
俺はそのまま深いため息を付きつつその催促状に目を通すと、気持ちが沈んだまま先の質問を繰り返す。
「で、どこか鍜冶の良い店はないか?」
「裏通りのエルフさんがやっているハイレスターナという店が、助手を募集しているという話です」
「へえ……」
「行ってみますか?」
「ああ」
――――――
そのエルフの店は裏通りにあるにしては小綺麗な店構えである。だが。
「そこで勝手にするがいい」
そのエルフの女店主、彼女の愛想は悪く、俺は少しムッとしながらも、それでも背に腹は変えられないとばかりに店先の作業台を借り、そして鍜冶スキルを発動させる事にした。
「以前のゴブリンからぶんどった素材があったな……」
――折れた剣(低質)×3――
――汚れた毛皮(劣悪)×1――
――切れた投石器(劣悪)×4――
「随分と悲惨な素材じゃないか、え?」
「……」
このエルフの女店主の皮肉、それは彼女の地なのかそれとも機嫌が悪いのかは解らない。その言葉を黙殺しつつ、俺は何か適当に武器を作ろうとする。幸いここで作った品物は訓練所で買い取ってくれるようだ。
「買い取り価格は安いがな」
それでも、このエルフが経営している店はちゃんとギルドに加盟しており、心配する事はないであろう。
「よし、では……」
そのまま、後ろに立つエルフの視線は無視して俺は「毛皮の籠手」を作ろうとする。上手くいってくれればいいが。
「……ん?」
ボゥウ……!!
その時、俺の指先に何か変な感覚、それを覚えたと同時に腕にと付けてある腕輪「スキルカウンター」が淡く発光する。
「ほう、鍜冶スキルが上がったか」
「解るのか、ええと……」
「エリスリアーナ、エリスでいい」
「ああ、俺の名はアシュ」
「魔法戦士をやっていればな、スキルの変動位は解る」
「へえ……」
――毛皮の籠手(上質)×1――
「スキルと魔法が何か関係あるのか?」
「スキルは元々エルフが編み出した品物だ」
「そうなのか?」
「まあ、私も故郷の集落の長老に聴かされただけであるがな」
そう言いながら、エリスというこの店の女店主はその美しく長い銀髪を後ろに流し、そのまま店の中にと入ろうとする。
「立ち去るのに言葉はいらん、勝手に使え」
「あ、ああありがとう……」
第一印象からしてみれば思いがけない言葉、こうしてみるとこの彼女の性格は決して悪い物ではないのかもしれない。
「ま、店に花を飾る位だからな」
裏通りであまりうらぶれた印象がないこの店、恐らくは雑貨屋なのであろうと思われるこの店はあまり埃っぽい所も薄汚れた処もない。店というものが店主の人柄を反映するのであれば、悪い店ではないのであろう。
「……ま、さて」
それはともかく、ゴブリンどもの品はいつまでも俺が後生大事に持っていても仕方がないという物だ。せっかくスキルが上がったというのであれば、このまま勢いに任せて作ってしまおう。
ボゥア……!!
――鉄製スリング(普通)×2――
――ダガー(普通)×1――
もしかすると、鍜冶スキルが上がると少ない素材からでも武器を作り出すことが出来るのかもしれない。俺は少しだけ気分が良くなりながらも、出来上がった武器のうちスリングは訓練所に売り飛ばす事にした。
「ダガーと毛皮の籠手は、バーンに渡す用だ」
――アシュの借金、あと49400――
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