第5話

「真波」

後ろに立っている謙也の声。

彼が一言発するたびに、胸の内側がざわざわと逆立つ。

私はごくりと喉を鳴らした。

…痛い。

喉はそのわずかな挙動ですら痛みを発するほどに乾ききっている。

私は腕時計をちらりと見る。

11時55分。

あと5分だ。あと5分で、彼は…。


「真波、ごめんな」

ぞわりと全身の毛が逆立つのを私は感じた。

今、なんて言った…?

ごめん、そう言ったの?


私は思わず、口を開け後ろを振り向こうとしてしまう。

しかし、とっさに私の本能が内側から叫び声を上げ、

私はとっさにその場にうずくまった。


「はあ、はあ」


私の頭が激しい激情で沸騰したかのように熱を帯びている。

併せて全身が微かに震えだした。


「ごめんって、なによ…」


否応なく、封じ込めていたはずの記憶が脳裏で明滅する。

謙也と私、そして…もう一人。

瞳を閉じると、すぐに私はその記憶に中に沈んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る