第10話

そして、私は近未来創薬研究所で仕事をしつつ、タイミングを伺っていた。

『想像創造薬』

その薬を盗み出すタイミングを。


そして金曜日。

私は他の人間が帰ったタイミングを見計らい、薬を盗み出した。


研究所を飛び出すと私は、駆け足である場所に向かった。


そう、彼の家に。


黒いジャケットの内ポケットを体の上からなぞる。

そこに忍ばせた登山ナイフを確認すると、

私は何かに突き動かされるかのように必死に走った。


1時間後。


私は彼の家にたどり着いた。


扉の横のインターフォンを押すと、中から足音が聞こえた。

既に家に帰っていたのだ。


がちゃり、と鍵が外れる音。


次の瞬間、彼が顔を表した。


その時、私はどんな表情をしていたのだったか。


大好きだった彼の命を奪う。その悲しみに歪んだ表情だっただろうか。

それとも、またあの頃の彼に出会える。その喜びに満ちた表情だっただろうか。


しばらくして、私は目を開けた。

窓からは朝の日差しが室内をほのかに照らしている。

周囲を見渡すと、懐かしい彼の私物が視界に入った。

そう、私は彼の部屋の中にいたのだった。

しかし、彼の姿はなかった。


どこかに埋めたのだろうか?

ふと、そんなことを考えてすぐに頭を振った。

どうでもいいと思ったのだ。

彼は謙也ではない。謙也の偽物なのだから。


ふと下を向くと、私の手には研究所から盗んできたその薬が握られていた。


私は蓋を開け、瓶の中から4錠の薬を取り出す。

飲み込む前に、瓶を裏返し、慎重に最後まで説明を読んだ。


例:宝石、車、構築物(マンション等)、人


●注意事項

この薬は、あなたの思念を限界まで刺激し、

そのエネルギーを外部へ放出することで想像を具現化します。


具現化に要する時間は、1時間。

その間、絶対に対象物の方を振り返らないでください。


思念がゆがみ、創造が中断され、服用者の脳に甚大な障害が発生します。




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