第8話

謙也の態度が変化したのはあの日から間もなくのことだった。


夜。彼に電話をしても、通話中であることが増えたのだ。

初めは、週に1回。

しかし、その頻度は時間が経つにつれ、加速度的に増していった。


その頻度が週の半分を超えたころ。

私がその不安に耐えられなくなったころ、

仕事帰りの食事で思い切って聞いてみたことがある。


「最近、電話多いね!仕事忙しいの…?」

「ちょっとね」

彼は短くそう答えた。

謙也のそのあまりに無機質な返事に、

私はまるで、とんと体をつき押されたようなそんな感覚を覚える。


…それだけ?


私はテーブルを挟んで黙々と料理を口に運ぶ彼をじっと見つめていた。

その様子はまるで、さっさと食べ終えて帰ろうとしているようだった。


それからの日々は、もうあまり思い出したいものではない。


謙也は私と会うことを今まで以上に渋るようになった。


仕事が忙しいから。友達と会うから。今日は休みたいから。


そしてついに、彼の声を聴くのは一か月に1回きりになった。

月末の日曜日。その日の夜だけは彼に電話をすると、応じてくれたのだ。

しかし会話の内容は、彼の仕事の愚痴。


私は彼の中でそんな立ち位置にまでなった。

情けなかった。

でも、それでも彼の声が聴けるのならと情けなくすがった。


そして、そんな日々が続いたある日のこと。


彼から珍しく電話がかかってきた。


私はあまりの喜びに勢いよく電話をつかみ取ると、

嬉々として通話ボタンを押した。


「謙也!どうしたの?」


「真波、話がある」


「え?」


「俺と別れてくれ」


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