第3話

「真波」

「…」

私を呼ぶ謙也の声が耳元に届く。

その声があまりに懐かしくて、私は胸が締め付けられる。

そしてまるで見えない糸で操られているかのように私の首が僅かに後ろに動いた。


「真波」

再び、謙也の声。

しかし振り向くわけにはいかない。


私は手元に握られている例の瓶を再び見つめた。


『想像創造剤』


大学を卒業後、私はある製薬会社に勤めることになる。

会社での製薬研究において、輝かしい実績を収めていた私は同年代よりもはるかに高い年収を受け取っていた。

そう、だから待遇には何の不満もなかった。

しかし、私の中にはある思いが燻っていた。

そんな時だった。


私の内線に一本の電話。

その電話は曰く付きの機関からだった。

「近未来創薬研究所」。

あまりに胡散臭い機関。

しかし、その施設をこの界隈で知らないものはいなかった。


『想像創造薬』。

想像を現実にする薬。


そんなバカげた研究開発を行っている機関は世界でそこだけだった。


電話先の人物は一拍置くと、こう言った。


「真波さん、私たちと一緒に働きませんか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る