入り交じる怨毒と執着と、その果てにあるものを描いた大傑作

始めに、私はレビューを書くのが得意ではないと思っています。
ですがこの作品を読了したとき、とにかく書かずにはいられなくなりました。
レビューを書くことで自分の感情を少しでも整理したかったのと、この素晴らしい作品を広められるお手伝いを微力ながらでもできたら、と思ったからです。

残念ながらこの取り散らかったレビューでは後者の願いは叶わないかもしれないと弱気になっていますが、それでもどんなに乱雑でも、自分の心を詰め込むことに決めました。


ある夜寝付けなかった私は、なんとなく小説でも読もうかと、カクヨムを漁っていました。そんな折に、本当に偶然見つけたこの作品。

亡くなった女性の不倫相手と、女性の夫の物語……。
あらすじから、キーワードから、私の好物の香りが漂ってくるのを感じました。興味をそそられ、一話目を開きました。気がついたら朝になっていました。

鮮烈な衝撃を受けると同時にずるずると沼の奥底まであっという間に引きずられていくような感覚。
一話目を数行読んだ辺りから、既に「これはやばいぞ」と感じていました。
 
読み進めていく目が止まらない。スクロールする手が止まらない。大切に読み進めたい気持ちはちゃんとあるのに、もっと読みたいという欲がゆっくり読みたい気持ちの遥か上を行ってしまう。
 
気がついたら全て読み終わり、更に番外編まで読み終わっていました。
もっとじっくり読みたかったのにという寂しさに襲われました……。が、後悔は一つもしていません。
 
こんなに前置きをしておいて何が言いたいかといいますと、とにかく引き込まれました。

読みやすく、尚且つ読んでいるだけで気持ち良くなれるような癖になる文体と筆力。
思わず圧倒されてしまうほど、どんどん読んでしまう、読めてしまう強い力のある構成力や展開力。そして悪と不屈と弱さを抱えた登場人物達の魅力。そういったものがこの作品にはぎゅっと詰まっています。

エッッと驚く情報開示のタイミングだったり、秀逸な会話シーンだったり、作品内に組まれている様々な部分が、読み手を作品に吸引させる力に繋がっているのだと思いました。

特に情報開示のタイミングについては、狡いとまで思ってしまいました。こんなの読んでしまうに決まっているでしょう、と……。
私もこんな狡い情報開示を行ってみたい……と、一創作者として感じました。


ここから肝となる部分、というより私の特に好きな部分について書いていきます。

自分語りになりますが、私は愛憎入り交じった物語が大好きです。殺伐×くそでか感情が大好物です。怨毒×執着が大好物です。なんなら普段は隠しているだけで、毎日心の中でそういう作品を求めて常に飢えているような存在です。

この作品を読んだとき、私ははっきりと思いました。私はこの作品を読みたかったのだと。今までは形が定まっていなかったのですが、求めていたのはまさにこういう作品だったのだと。
今後、もし誰かから「殺伐×執着って、具体的にどういう話が好きなの」と聞かれたら、この作品を例に挙げようと本気で思いましたね……。

主人公二人がお互いに向けている感情は、まさしくクソデカ感情なのですよね……。心から憎み、嫌い、恨んでいるのに、どうしても執着してしまい離れられない。
この感情の描写の全てが、もう、私の中にある「好き」のど真ん中のど真ん中を貫いていくのです。

精神的にも物理的にも傷つけ合いながら、果たして主人公二人の愛憎がどこに行くのか……。
全く先の読めない展開に、それでも作品についている「ハピエン」のタグを信じて読み進めていきました。

結果、ハピエンでした。紛うこと無きハピエンでした。裏切られませんでしたが、良い意味で、本当に良い意味で、予想のずっと上を行くエンディングを見せてくれました。
ハピエンまでの道のりが取って付けたようなものでもなく、「だからこのエンディングに辿り着けたんだ」と納得できる導かれ方なので、非常に心地良いです。

途中は胸の悪くなる描写があるので、人によっては読んでいると苦しくなるかもしれません。
が、読後感は爽やかです。すっきりと眩い夜明けの光に包まれるような気持ちになりました。

歯車は歪な形なのに、なぜだかぴったりと噛み合って、そして回り出した。奇妙なことに奇跡的にかっちり噛み合ったこの二人がこの二人だったからこそ、この結末に至れたのかもしれないと、そんな風に思いました。


 
色々つらつら書いてきましたが、一言で言うならとにかく面白かったです。本当に凄かったです。
カクヨムに登録していて良かったとまで思いました。カクヨムに登録していなかったらこの作品と出会えなかったわけですから。

いえ、それだけでなく、ここまで生きていて良かったとも思いました。
この星に生まれて良かったと、この作品のある時代に生まれて良かったと、とにかくこの作品と私を引き合わせてくれた全ての偶然と奇跡に一つ一つ感謝の五体投地を送りたくてたまらなくなりました。
 

さて冒頭、私は自分の気持ちを整理したくてレビューを書いたと述べました。が、書き終わった今、その願いも達成できていないことに気づいてしまいました。感じたことや思ったことの半分も言語化できていないのです。
こんなものじゃないのに……。この作品の面白さはこんなものじゃないのに……。

無力な自分に対する不甲斐なさに、悔し涙が浮かびます。しかし今の自分はこれが限界なのだろうと涙を呑むことにし、再び読み返すことにします。
 
百聞は一見にしかず。殺伐とクソデカ感情。憎悪と執着。これらの要素が少しでも好きな方、気になる方は、とにかくぜひ読んでほしいです。
そして彼らが光を見つけて進んでいくまでの過程を、見届けてみて下さい。



 

最後に作者様へ。
このような素晴らしい物語をこの世に生み出して下さり、本当にありがとうございます。この作品と出会えた私は幸せ者です。ありがとうございます。

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