書籍化されているためカクヨム さんで公開されているのは前半部分のみですが、軽い読み物に辟易していて暴力描写に物おじしない方には、ぜひ足を止めて読んでいただきたい作品です。
目の前で恋人を喪った男とその恋人の旦那だった男。
このふたり、ヒトとして欠けています。兎に角面倒くさいです。けれど、読み進めていくうちに愛着が湧いてきます。料理とかDYIとかと同じ。手間ひま掛かる方が、愛おしくなる。そんな感じです。
ヒトとして欠けた部分を互いに補いあってみんな幸せ、笑ってハッピーエンド。なーんて、そんなお綺麗で単純な話ではありません。
ヒトとして不完全なまま人間関係が積み上がっていきます。歪で、時に呻きたく、時に叫びたくなります。
しかしだからこそ、心が持っていかれるのでしょうね。きっと。
わたしは完全に持っていかれ、カクヨム さんで前半読了後、すぐさま電子書籍をポチりました。
定価: 1,815円。
これを高いとみるか安いとみるかは人によると思いますが、後半部分あっての前半のあの苦しさ。
損はしない筈です。
興味のある方は是非、ポチッとしてみてください。
ヘビーで初心者バイバイになりかねないような過激な内容も、ちゃんと読み進めれば「こんなマトモな小説はそうそうないぞ」ってくらいに老若男女が楽しめることでしょう。
上級者なら涎を垂らして喜ぶと思います。
極めて乱雑でまとまりのない文体が、他の草さん作品のいくつかに見られるような、黒く引き締められたような清らかさをぶち壊し、真っ黒な絵の具を読者の胸にぶちまけるような感じがして、作品の雰囲気とマッチしていてとても素敵です。
素材の独自性もさることながら、それを配置し、物語にする力がとても鮮やかです。
『不能共』は「やばい」「すごい」みたいな前評判もあって、「私みたいなのが読んで耐えられるかな……」とびくびくしながら読んだのですが、「状況」が「修羅場」なだけで、根本は王道BLと言ってもいいくらいさわやかでもありました。
仲が絶望的に悪いふたりが絆を深めていく様は大変滋養にいいです。
朝日親子の類似性も大変魅力的でした。
主役から脇役まで魅力的な登場人物、読者に考察や推理をさせるほどに練られた物語、もし、かつて文豪芥川龍之介が優れた小説の条件として唱えた「雑駁さ」を多分に持った小説があるとすれば、これこそがそうでしょう。
あなたもいかがですか?
女性含む三角関係やヘビーな設定も大丈夫!むしろ好物!という方、いますよね? そんなあなたにぜひ読んで欲しいのがこちらの「不能共」。
交際していた恋人・加奈子が実は既婚者だと知った朝陽大輝。別れを告げて関係を清算しようとした大輝だったが、なんと加奈子は大輝の目の前で鉄道の線路に飛び込み、自殺してしまう。葬儀後、大輝のもとを訪れたのはその加奈子の夫・清瀬隆。二人の関係を知っており、「貴方しか加奈子の話が出来る相手がいない」と言い張る清瀬。早く清瀬から自由になりたい大輝だったが、自分に執着してくる隆と接するうち、単純な嫌悪感だけではない感情を抱いていく。
目の前で彼女に死なれた男×その彼女の夫だった男、という「そんな修羅場どうして思いつくの?」といいたくなるほどに重い作品です。しかし「朝陽大輝」「清瀬隆」、そして「清瀬加奈子」と、メインキャラクターそれぞれの視点を交代しながら展開していく物語にはしっかりとした説得力があります。「愛」と一言では言い切れない唯一無二の関係に、胸を締め付けられる作品です。
(「非日常が味わえるBL特集」4選/文=ひらりさ)
始めに、私はレビューを書くのが得意ではないと思っています。
ですがこの作品を読了したとき、とにかく書かずにはいられなくなりました。
レビューを書くことで自分の感情を少しでも整理したかったのと、この素晴らしい作品を広められるお手伝いを微力ながらでもできたら、と思ったからです。
残念ながらこの取り散らかったレビューでは後者の願いは叶わないかもしれないと弱気になっていますが、それでもどんなに乱雑でも、自分の心を詰め込むことに決めました。
ある夜寝付けなかった私は、なんとなく小説でも読もうかと、カクヨムを漁っていました。そんな折に、本当に偶然見つけたこの作品。
亡くなった女性の不倫相手と、女性の夫の物語……。
あらすじから、キーワードから、私の好物の香りが漂ってくるのを感じました。興味をそそられ、一話目を開きました。気がついたら朝になっていました。
鮮烈な衝撃を受けると同時にずるずると沼の奥底まであっという間に引きずられていくような感覚。
一話目を数行読んだ辺りから、既に「これはやばいぞ」と感じていました。
読み進めていく目が止まらない。スクロールする手が止まらない。大切に読み進めたい気持ちはちゃんとあるのに、もっと読みたいという欲がゆっくり読みたい気持ちの遥か上を行ってしまう。
気がついたら全て読み終わり、更に番外編まで読み終わっていました。
もっとじっくり読みたかったのにという寂しさに襲われました……。が、後悔は一つもしていません。
こんなに前置きをしておいて何が言いたいかといいますと、とにかく引き込まれました。
読みやすく、尚且つ読んでいるだけで気持ち良くなれるような癖になる文体と筆力。
思わず圧倒されてしまうほど、どんどん読んでしまう、読めてしまう強い力のある構成力や展開力。そして悪と不屈と弱さを抱えた登場人物達の魅力。そういったものがこの作品にはぎゅっと詰まっています。
エッッと驚く情報開示のタイミングだったり、秀逸な会話シーンだったり、作品内に組まれている様々な部分が、読み手を作品に吸引させる力に繋がっているのだと思いました。
特に情報開示のタイミングについては、狡いとまで思ってしまいました。こんなの読んでしまうに決まっているでしょう、と……。
私もこんな狡い情報開示を行ってみたい……と、一創作者として感じました。
ここから肝となる部分、というより私の特に好きな部分について書いていきます。
自分語りになりますが、私は愛憎入り交じった物語が大好きです。殺伐×くそでか感情が大好物です。怨毒×執着が大好物です。なんなら普段は隠しているだけで、毎日心の中でそういう作品を求めて常に飢えているような存在です。
この作品を読んだとき、私ははっきりと思いました。私はこの作品を読みたかったのだと。今までは形が定まっていなかったのですが、求めていたのはまさにこういう作品だったのだと。
今後、もし誰かから「殺伐×執着って、具体的にどういう話が好きなの」と聞かれたら、この作品を例に挙げようと本気で思いましたね……。
主人公二人がお互いに向けている感情は、まさしくクソデカ感情なのですよね……。心から憎み、嫌い、恨んでいるのに、どうしても執着してしまい離れられない。
この感情の描写の全てが、もう、私の中にある「好き」のど真ん中のど真ん中を貫いていくのです。
精神的にも物理的にも傷つけ合いながら、果たして主人公二人の愛憎がどこに行くのか……。
全く先の読めない展開に、それでも作品についている「ハピエン」のタグを信じて読み進めていきました。
結果、ハピエンでした。紛うこと無きハピエンでした。裏切られませんでしたが、良い意味で、本当に良い意味で、予想のずっと上を行くエンディングを見せてくれました。
ハピエンまでの道のりが取って付けたようなものでもなく、「だからこのエンディングに辿り着けたんだ」と納得できる導かれ方なので、非常に心地良いです。
途中は胸の悪くなる描写があるので、人によっては読んでいると苦しくなるかもしれません。
が、読後感は爽やかです。すっきりと眩い夜明けの光に包まれるような気持ちになりました。
歯車は歪な形なのに、なぜだかぴったりと噛み合って、そして回り出した。奇妙なことに奇跡的にかっちり噛み合ったこの二人がこの二人だったからこそ、この結末に至れたのかもしれないと、そんな風に思いました。
色々つらつら書いてきましたが、一言で言うならとにかく面白かったです。本当に凄かったです。
カクヨムに登録していて良かったとまで思いました。カクヨムに登録していなかったらこの作品と出会えなかったわけですから。
いえ、それだけでなく、ここまで生きていて良かったとも思いました。
この星に生まれて良かったと、この作品のある時代に生まれて良かったと、とにかくこの作品と私を引き合わせてくれた全ての偶然と奇跡に一つ一つ感謝の五体投地を送りたくてたまらなくなりました。
さて冒頭、私は自分の気持ちを整理したくてレビューを書いたと述べました。が、書き終わった今、その願いも達成できていないことに気づいてしまいました。感じたことや思ったことの半分も言語化できていないのです。
こんなものじゃないのに……。この作品の面白さはこんなものじゃないのに……。
無力な自分に対する不甲斐なさに、悔し涙が浮かびます。しかし今の自分はこれが限界なのだろうと涙を呑むことにし、再び読み返すことにします。
百聞は一見にしかず。殺伐とクソデカ感情。憎悪と執着。これらの要素が少しでも好きな方、気になる方は、とにかくぜひ読んでほしいです。
そして彼らが光を見つけて進んでいくまでの過程を、見届けてみて下さい。
最後に作者様へ。
このような素晴らしい物語をこの世に生み出して下さり、本当にありがとうございます。この作品と出会えた私は幸せ者です。ありがとうございます。
この小説を読んでの感想は様々にあるだろうが、一言で表すのであればこれに集約される。
「加奈子!!!!」
少なくとも一回は、恐らくはそれ以上の回数、読者はこれを叫ぶことになる筈だ。
大まかなニュアンスとしては「オーマイゴッド!」「ジーザス!」「ホーリーシット!」である。
この話が始まるきっかけの場面で「加奈子!!」となり、
朝陽の元へ清瀬が来て……来るだけで終わらなかった時に「加奈子!!」と天を仰ぐ。
タイトルについてうっすら察しがつき始めた時点で「加奈子!?!?」と頭を抱える。
雨の夜では「加奈子……」と呻きながら手を組み祈るポーズになるだろう。
なりました。
その後すぐに「加奈子!!」とガッツポーズして身を乗り出したりもした。
前日譚や後日談に至っては
「なんでや加奈子関係ないやろ!」
となったりもするが、それでも口をついて出てくるのは
「イェーイ!!加奈子見てる!?!?」である。
感謝というには複雑だが、憎むというには、私はあまりにもこの物語を楽しんで愛してしまっている。
そういう気持ちを込めて、読破した私は「加奈子!」と呻くのである。
是非とも多くの人に、男同士の関係性に打ちのめされながら死んだ女の名前を叫ぶ体験をしていただきたい。
“人は生まれつき悪”であるような登場人物達だな、と思いながら読んでいました。
だからこそ、この2人には、エンディングを迎えるまでにこれほどの時間がかかり、ここまでしなくてはいけなかったのだろうなと思います。
以後展開にネタバレがあるかもしれないので注意↓
いつになったら2人に救いが来るのだろう、もうそろそろ、いやまだか、まだか…と読み進めていき、最後の最後、ある種のどん底まで堕ちた2人が己の性を認め、ハッピーエンドに導かれる様子が清々しく、簡単で安易な救いに辿りつかない、巧みで洗練されたようで激烈な物語の描き方が素晴らしかったです。
救いを待って読んでいる時も“気味のよさ”を感じられ、また、それを楽しんでいる自分がいることにワクワクしました。
最後までとても面白かったです!