物騒さと雑駁さと爽やかさを兼ね備えた


 ヘビーで初心者バイバイになりかねないような過激な内容も、ちゃんと読み進めれば「こんなマトモな小説はそうそうないぞ」ってくらいに老若男女が楽しめることでしょう。
 上級者なら涎を垂らして喜ぶと思います。

 極めて乱雑でまとまりのない文体が、他の草さん作品のいくつかに見られるような、黒く引き締められたような清らかさをぶち壊し、真っ黒な絵の具を読者の胸にぶちまけるような感じがして、作品の雰囲気とマッチしていてとても素敵です。

 素材の独自性もさることながら、それを配置し、物語にする力がとても鮮やかです。

『不能共』は「やばい」「すごい」みたいな前評判もあって、「私みたいなのが読んで耐えられるかな……」とびくびくしながら読んだのですが、「状況」が「修羅場」なだけで、根本は王道BLと言ってもいいくらいさわやかでもありました。

 仲が絶望的に悪いふたりが絆を深めていく様は大変滋養にいいです。

 朝日親子の類似性も大変魅力的でした。

 主役から脇役まで魅力的な登場人物、読者に考察や推理をさせるほどに練られた物語、もし、かつて文豪芥川龍之介が優れた小説の条件として唱えた「雑駁さ」を多分に持った小説があるとすれば、これこそがそうでしょう。

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