はじめは猟奇ものということで恐る恐る読みはじめました。また、わたしはいわゆるバディものがあまり得意ではなく、これまで触れてきたお話はどの辺りに共感を置けば良いのか迷うものも多かったのです。しかし本作は、たしかに残虐シーンの描写も多いのですが、主人公の稀有な出自と属性を背景に、ケモノがヒトの社会で生きること、ケモノとヒトの心の間で逡巡すること、その描写がとても魅力的で、しっかり感情移入しつつ読ませていただくことができました。ある意味、自分の中のケモノに反応したのかもしれません。
なんか、こういう言葉も主人公に一蹴されそうですね。されたいです。えっわかんないよそんなの! 良いから一緒に行こう! って、乱暴に手を引っ張られて、夜の街を疾駆したい。
(2023/01/20)
めくるめくスピードで物語は綴られ、狼の少女はニンゲンを知って、自己を確立していく。
Twitterで連載されている最新版の方を読んで感激したので、こちらでレビューを書かせていただきます。
テーマの魅せ方とか、キャラクターの華やかさだとか、戦闘シーンの躍動感、簡潔で明確ながらも鮮烈な文体だとか、列挙したり事細かに述べてしまいたくなるような「良さ」に満ち満ちた作品なのですが……
何よりも構造が素晴らしい。最高なんです。
主人公であるラッカを取り巻く人間社会の底には、余りにも邪悪な闇が渦巻いています。「俺」なる語り手が前面に現れる第一話などは特にそうなのですが、この作品では物事の悪い側面ばかりを強調するような描写がときおり見られるんですよね。ラッカちゃんの職場がもう、憎悪や絶望との戦いの最前線と言えるような環境なわけですから、作者様のチョイスは当然と言えるでしょうけれども。
ですが、この物語はそれで終わらない。
底抜けに楽観的な思考を持つラッカを主人公に置き、何度も彼女に揺さぶりをかけることでこのビルドゥングスロマンは展開されていきます。大人になるとは何か、獣の在り方とは? 愛の在り方とは──?
この混在が、輝きに満ちた少女と汚濁に満ちた社会との邂逅が、この作品に素晴らしいエネルギーを与えているのです。
特に「VS劇場霊」、このレビューを書いている一月現在連載されているここがとても好きで。「オペラ座の怪人」を名乗る獣人の私生活はそれはもう暗澹たるものです。あまつさえ、たった一つ残った人生の意味に捧げた彼の行いは、その宛て先である歌姫スウィーテには到底受け入れられるものではないでしょう。つまり彼、このままでは決して報われることがないんですよね。
その地獄が、主人公であるラッカちゃんとは隔離された場所で進んでいくんですよ。たまらない。
何なんでしょうねぇ。私本当にこの構造が好きで。ペシミズムにも、オプティミズムにも寄り過ぎない、かと言って中間を取るのではなく、絶望と希望をぐちゃぐちゃに、混ざりきらないままで描く書き方。
多分、私は籠原さんがこの物語にどんな決着を付けるのかが楽しみでならないのです。ラッカちゃんが辿り着く答えはどんなものなのか、彼女は自身が倒してきた獣人たちの生をどう受け止めるのか、それが知りたくてたまらないのです。
つまり簡潔に言うならば「『オオカミビト』は読者を惹きこむ魅力がとんでもない作品である」ということですね。
連載、応援しています!