わたしが筆者の籠原スナヲのことを知ったのはTwitter上でのことだ。「面白い持論を言っては厄介な人に絡まれている人」というのが第一印象だった。
インターネットでは持論を展開すると必ず違う意見を持つ誰かが現れる。毎日のように違う意見と衝突し、なんなら厄介な人を引きつけるかのように舌鋒鋭くレスバをしている姿を見かけたのが、わたしが筆者を認識した最初のきっかけだ。
「なんて大変でめんどくさいことを! でもインターネットでは意見を言わない者は居ないと同じとみなされるからな……しかし、それにしたって大変過ぎないか……」というのがその時の感想だった。
アイコンが可愛い女の子だからか、向き合って真面目にレスを返すからか、籠原スナヲはインターネットぶつかりおじさんに絡まれてまくっていた。
籠原スナヲの持論のほとんどは、本人の勝手でしょ、で済むものなのだが、インターネットというのはそうした他人の持論をいちいち折りに来る輩で溢れている。それに対してバチンッバチンッと音がするような言葉のパンチで殴り返しているのが籠原スナヲだった。
「この人、喧嘩つえ〜〜」というのが、次に抱いた印象。
プロフィール欄や、ツイートから小説を書いていることを知り、作品を読んでみて驚かされた。
正直、レスバが強くても小説の腕とは別物だろうと思っていたのだが……。
血みどろの熱いバトル!
スカッと気持ちのいい主人公!
同じ組織の中でも思惑の異なる登場人物の織りなす人間模様!
手を変え品を変え現れる獣人たちが起こす事件!
どれもが素晴らしかった。
カルト宗教信者の2世が絶望のあまり獣人化して起こす事件や、アイドルオタクの獣人がスキャンダル記事を書いたライターを殺害する事件など、モチーフとした事件は明白で「あの事件に対して、この主人公はどう答えを出すのか」とワクワクさせられっぱなしだった。
バトルモノとして見ても、住民を守りながらのバトル、シリアルキラーの捜索コミのバトル、組織vs組織のバトルや、豪華客船でのタイムリミットありのバトル、遊園地での遭遇戦など、舞台を華やかに変え、まったく飽きさせることがない。
あまりの展開の豊富さ、引き出しの多さに、読みながら「筆者は一体何者なんだ?」と頭を抱えてしまった。
「この人、小説もうめぇ〜〜」である。
(感想コメント欄で熱心なファンに対し、これは⚪︎⚪︎のオマージュと惜しげもなくネタバラシをしてくれているのだが、どれもネタの消化と使い方が上手く、どこかで見たパクリとは全然感じないのにも驚く)
「WEB小説のコツは最初のエピソードでどんな話か読者に理解させて離脱率を下げることだよ」とか「『面白い』って、分解するとつまり、共感と憧れだよ」とか、そうしたWEB小説を書く中で目にしたテクニックめいた小細工などがすべてどうでもよくなるような、そんな骨太の物語がここにある。
今後、わたしが「『強いヒロインを描いた物語』って何?」という質問を受けるようなことがあれば、わたしは本作の名を答えるだろう。
『バトルが熱い小説』、『キャラクターが魅力的な小説』でもそうだ。
ぶつかり合う異なる意志を持つキャラクターの姿に、レスバで培った筋肉の片鱗を見ながら「この人はのちにとんでもないところまで出世する作家なんだろうな」と思わされ、その黎明期を目撃できたことに感謝したいと思う。
素晴らしい作品だった。
筆者の他の作品も見てみようと思う。
はじめは猟奇ものということで恐る恐る読みはじめました。また、わたしはいわゆるバディものがあまり得意ではなく、これまで触れてきたお話はどの辺りに共感を置けば良いのか迷うものも多かったのです。しかし本作は、たしかに残虐シーンの描写も多いのですが、主人公の稀有な出自と属性を背景に、ケモノがヒトの社会で生きること、ケモノとヒトの心の間で逡巡すること、その描写がとても魅力的で、しっかり感情移入しつつ読ませていただくことができました。ある意味、自分の中のケモノに反応したのかもしれません。
なんか、こういう言葉も主人公に一蹴されそうですね。されたいです。えっわかんないよそんなの! 良いから一緒に行こう! って、乱暴に手を引っ張られて、夜の街を疾駆したい。
(2023/01/20)
めくるめくスピードで物語は綴られ、狼の少女はニンゲンを知って、自己を確立していく。
Twitterで連載されている最新版の方を読んで感激したので、こちらでレビューを書かせていただきます。
テーマの魅せ方とか、キャラクターの華やかさだとか、戦闘シーンの躍動感、簡潔で明確ながらも鮮烈な文体だとか、列挙したり事細かに述べてしまいたくなるような「良さ」に満ち満ちた作品なのですが……
何よりも構造が素晴らしい。最高なんです。
主人公であるラッカを取り巻く人間社会の底には、余りにも邪悪な闇が渦巻いています。「俺」なる語り手が前面に現れる第一話などは特にそうなのですが、この作品では物事の悪い側面ばかりを強調するような描写がときおり見られるんですよね。ラッカちゃんの職場がもう、憎悪や絶望との戦いの最前線と言えるような環境なわけですから、作者様のチョイスは当然と言えるでしょうけれども。
ですが、この物語はそれで終わらない。
底抜けに楽観的な思考を持つラッカを主人公に置き、何度も彼女に揺さぶりをかけることでこのビルドゥングスロマンは展開されていきます。大人になるとは何か、獣の在り方とは? 愛の在り方とは──?
この混在が、輝きに満ちた少女と汚濁に満ちた社会との邂逅が、この作品に素晴らしいエネルギーを与えているのです。
特に「VS劇場霊」、このレビューを書いている一月現在連載されているここがとても好きで。「オペラ座の怪人」を名乗る獣人の私生活はそれはもう暗澹たるものです。あまつさえ、たった一つ残った人生の意味に捧げた彼の行いは、その宛て先である歌姫スウィーテには到底受け入れられるものではないでしょう。つまり彼、このままでは決して報われることがないんですよね。
その地獄が、主人公であるラッカちゃんとは隔離された場所で進んでいくんですよ。たまらない。
何なんでしょうねぇ。私本当にこの構造が好きで。ペシミズムにも、オプティミズムにも寄り過ぎない、かと言って中間を取るのではなく、絶望と希望をぐちゃぐちゃに、混ざりきらないままで描く書き方。
多分、私は籠原さんがこの物語にどんな決着を付けるのかが楽しみでならないのです。ラッカちゃんが辿り着く答えはどんなものなのか、彼女は自身が倒してきた獣人たちの生をどう受け止めるのか、それが知りたくてたまらないのです。
つまり簡潔に言うならば「『オオカミビト』は読者を惹きこむ魅力がとんでもない作品である」ということですね。
連載、応援しています!