復活させた男*

 その土地は、やせ細っていた。

 災害と天候不順が続き、かつて名産だった作物が育たなくなり、土地から人も離れていった。

 他に行く宛もない年寄りたちが、自分の食べる分だけを細々と作りながら、わずかに残っているだけだった。



 一人の若い男が、ある空き家に住み着いた。

 年寄りたちは特に気にせず、しばらくすれば勝手に出て行くだろうと予想していた。

 ところが男はいつまで経っても出て行く様子はなく、ましてや人の手が入らず荒れ放題になっていたかつての畑を、一人で耕し始めたのだ。


「おうい、この畑でいい食べ物は育たんよ」


 ある年寄りが、親切心というよりは、気の毒になって男に声をかけた。

 男は、土と汗で汚れた顔を上げて言った。


「知ってます」

「じゃあなんで」

「天候不順にも強い作物を、試したいんです」

「なんだって、こんな土地にわざわざ来た?」


 男は作業を再開させつつ、年寄りの質問に答えた。


「この広大な土地が捨て置かれているのは、放っておけない」

「何も育たんよ。ここは名主なぬしさんからも見捨てられた土地だ。帰って来ると言っておったが、とんと音沙汰もない」

「そうでしたか」

「悪いことは言わん、無駄なことはやめておけ」

「何か方法があるはずです」

「年寄りの話は聞いた方がいいぞ」

「若者の希望も聞いてくださいよ」


 二人の話は平行線に終わった。



 男の情熱は、どこから来るものなのか。

 心配半分、興味半分で眺めているうちに、男の熱心さは年寄りたちにも伝染していった。

 畑を復活させたい思いは、この土地に残っている誰もが、ひそかに持っていたのだ。



 大雨と大日照りが交互に訪れる、厳しい季節が訪れた。

 男と年寄りたちは力を合わせ、男が設計した雨風避けの屋根と、雨水の貯水装置を苦労して完成させた。



 男が耕した畑で、厳しい季節を乗り越えた作物が、立派な実を結んでいる。

 年寄りたちは、男の背中を叩いて喜んだ。


「あんたは救い主だ!」

「いえ、本番はこれからですよ。全ての畑を復活させるまでは」

「ほんとに、あんたは何者かね」


 男は目を細めて畑を眺めながら、語り始める。


「祖父との約束なんです。祖父は病気のせいで、荒れていく故郷を離れなくてはならなくて、ずっと後悔していました。祖父はあの家に住んでいたんでしょう?」

「あの家って……あんた、名主なぬしさんのお孫さんか」

「豊かだった故郷を取り戻したい。祖父に代わって、その願いを叶えに来ました」

「名主さんの具合は?」

「亡くなりました、去年」

「そうか……この畑を見たら、どう思ってくれたかな」

「ええ」


 名主の願いが叶うのは、当分先のことだ。

 しかし一人の熱心な男の功績は、この土地にいつまでも語り継がれることだろう。

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