ニカラ

「――もしもし、どうしたの?」

「……」

「なんの電話?」

「……ねえ、からいの、行こう。この前言ってたチゲがおいしいって店」

「ん? いいけどあんたからいの苦手って」

「連れてって、今」

「え? これから?」

「うん」

「――まあ、いいけど。そしたら駅前で待ち合わせたいから」

「ていうか今、駅にいる」

「あ、そう。じゃあ待ってて。覚悟しててね」

「……うん」




「ほらお待ちかね、ニカラのチゲ。はい、お皿貸して」

「……う」

「あーあ、めっちゃおいしいのに。食べないなら一人で食べ尽す」

「いっ、いただきますっ!」

「よし」

「はふっ、ううっ」

「うーん、おいしーい! からーい! この旨味がねー、たまらんのよねこの店!」

「……つらい」

「ん? つらい? からいの?」

つらくない! からいけどっ!!」

からいの通り越すとおいしさがわかるよ」

「涙出てきた」

「いいよ、つらいなら涙も鼻水も垂れ流しとけ」

「ううっ……ぐすっ」

「はいティッシュ。からいの食べて泣くのは変じゃないから。つらくてもどんどん食べろ」

「うううー! くそー! うまい! つらくない! からい!」

「そうそう。おいしいでしょ」

つらい……」




「はー、おいしかった!」

「唇がヒリヒリする」

つらかった? からさマシマシの2辛ニカラチゲ。時々食べたくなるんだ。泣くほどおいしかったでしょ」

「泣いてない。からかっただけ」

「別にいいけどね。スイーツ食べながら泣かれるよりマシだし」

「……ごめん」

「いいって。ちょうど食べたかったし。本当はさ、豆乳入りのマイルドチゲもあったんだけど」

「えー!? なんで教えてくれなかったの?」

「あんたがからいの行こうって言ったんじゃん」

「……うん。おいしかったし、からさでつらいの飛んでった感じ」

「でしょ。あのね、今だから言うけど、あたし、あんたの彼氏好きじゃなかったから、別れてくれてホッとしてる」

「えっ!」

「あれだけからいの食べれるんだから大丈夫だね」

「……」

「気をつけて帰んな。何も考えずにゆっくり寝るんだよ」

「あ、ねえ、つらいときに行きたい店、ある? 今度お礼に付き合ってあげる」

「んー? 別に。スイーツは頭痛くなるから無理だし、あたし失恋しないから」

「ちくしょう、一生別れない呪いをかけてやる! 結婚おめでとう!! とっとと幸せになりやがってこのやろー!」

「今のあんたが言うと重いよ」

「なんで呪い還って来ないの!」

「じゃあ、あたしがあんたの幸せを呪ってやろう」

「ふふっ、ありがとう。また行こうね」

「スイーツじゃないなら付き合うよ」

「マイルドでよろしく」

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