幸せのシャワー

 天使の仕事は、天上界から地上の人間たちに、「幸せのシャワー」を降らせることです。

 でも天使には、ひとつ気になることがありました。


「ねえ神様、あそこにいる人間は、ちっとも幸せにならないんですよ」

「ほほう、どれどれ」


 神様は、雲の合間から地上を覗きます。


「ほら、あの男。ずっと足元の闇を見つめているんです。こんなに幸せのシャワーを浴びているのに、まったく気づかなくて」

「そうさねえ」


 神様は静かに微笑んでいます。


「他のみんなは、シャワーに気づくと、うれしそうに顔を上げてくれるじゃないですか」


 その顔を見るときが、天使にとって、もっともやりがいを感じる瞬間です。


「ついあの男に降らせ過ぎて、こぼれたシャワーで、周りの人間が幸せになっていくんです」

「うーん、そうさねえ」


 神様は人間界を覗くのをやめて、天使に向き直りました。


「わしが人間を創るときに、ちぃっとばかし個性を混ぜ込んだせいかねえ」

「個性?」

「不揃いな個性さねえ。幸せを感じるのが得意な個性、逆に不得意な個性、はたまた、天使ちゃんのシャワーを幸せと思えない個性も、出てきたのさねえ」

「ええっ」


 天使は驚いて、大きな声を上げました。


「では、天使の仕事は、報われないということですか?」

「いやいや、天使ちゃんのお仕事は、とーっても大事。おかげでほら、幸せな顔をする人間たちの、なんと多いことか」


 神様は、地上の人間たちを示して言います。


「地上がこんなに繁栄したのも、個性があったからなのさねえ」

「個性が、あったから?」

「みんなそれぞれ違うから、わしの予想を超えた発展があったのさねえ。ただ、あーんまり闇に魅入っているのは、ちぃっとばかし心配かな」


 神様はもう一度、人間たちを見下ろします。


 その時、足元ばかり見つめていた男が、ふと顔を上げました。

 そこには、やさしい笑みを浮かべた女の子が、手を差し出していました。


「天使ちゃん、今」

「はっ、はい!」


 天使は目一杯、「幸せのシャワー」を降らせます。

 地上の二人は手を繋いで、天を見上げました。二人は、とてもとても幸せな顔になっていました。


「届きました」


 天使はうれしくなって、神様を振り返りました。

 神様はやはり、にこにこと微笑んでいます。


「幸せに、気づかせてあげられるのもまた、個性さねえ。天使ちゃん、これからもお仕事、よろしく頼むね」

「おまかせください!」


 天使は今日も、人間たちにたっぷりの「幸せのシャワー」を降らせています。

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