第13話 決着
私は魔眼槍でモルフェウス忍者を突きました。
インパクトの瞬間、穂先の重量を何十倍にも上げます。
まともに喰らうと受けられないのに勘付かれているので、モルフェウス忍者は両手で構えた打刀……一般的な日本刀……を斜め下に切っ先を向けるように構え、突きを受け流します。
……上手い!
こいつ、武術の腕も一級品です。
敵ですけど、惚れ惚れします。
同時に、焦りと絶望的な予感が迫ってきます。
現在、こいつを私と黒伏さんで倒そうと二人がかりで当たってるんですけど。
強すぎる。
分かってるんです。
一対一だったら絶対に勝てない相手だって。
格が違うんですよ。
こんなこと、初めてでした。
対峙する相手に、ここまで絶望的な実力差を感じたのは。
こいつ、ジャームを含めて、今まで戦ったどのオーヴァードよりも強い……!
モルフェウス忍者の後ろに回り込んだ黒伏さん……ヘルケルベロスが、その6本の腕で背後から怒涛の貫手による攻撃を加えるのですが。
この忍者、それを振り返らずに全部体捌き、刀による受け流しで全部回避します。
……お前、後ろに目が付いてるの!!!?
そのとき。
「センパイ!!右です!!」
ゆりちゃんの警告。
左に飛び退きながら、右に槍で横薙ぎ一閃します。
警告通り。
私の右に出現していたエロGカップ忍者が、身を逸らしてその一閃を躱しました。
こいつが居るんですよ……!
モルフェウス忍者をサポートするように、このエロGカップ忍者がゆりちゃん曰く音速の5倍を超える速度で移動して、私たちに不意打ちを掛けてくるんです。
ゆりちゃんはハヌマーンの視力を持っている上、ノイマンシンドロームで脳機能が常人より遥かに高いですから、気づいてくれて、エフェクトで警告入れてくれますけど。
それが無かったら、確実に詰んでます。
それぐらい、やばすぎる敵でした。
こいつらなんなの?息が合い過ぎてる!!
何?夫婦か何か!?
なかなか練度が高い相手だなと思った。
僕は敵の攻撃を捌き、切り返しながら、彼らの実力を評価した。
しかし。
多分、このやり方で勝てる。
僕が彼らの前衛二人を相手にし、徹子に不意打ちで一人一人落としてもらうやり方で。
何故か超音速で動いているはずの徹子の動きを察知し、この前衛二人、ギリギリで不意打ちを回避しているが。
勘が鋭いのだろうか?
まぁ、ハヌマーンシンドロームを持たない僕でも、徹子の動きは僕はギリギリ見えるし、直感で察知できるというものあるのかもしれないが。
……あの後衛のサポートかな?
斬り上げ、斬り下ろし、突きの三連撃を、敵前衛隊員の三つ編みの女の子に繰り出しつつ。
彼らの少し後方に控えている小柄な女の子と、大学生くらいの女隊員をちらりと見た。
でもま、問題ない。
先に後衛を潰すと楽に勝てそうだとは思うけど。
そうすると、おそらく死人が出るしな。
それはなるべく避けたい。
このやり方でも確実に勝てる自信があった。
いつまでも、僕を相手にしながら、徹子の不意打ちを避け続けるのは不可能だという確信があったから。
ずっとやってきてんだよ。こいつとは。
悪いな。倒させてもらう。
僕は刀を脇構え……一般的には後ろ下段に刀を構えたように見える構え……に構えて三つ編み少女に向き合った。
「センパイ!その構えは脇構えです!!刀身の長さが身体で隠れて見えづらいので、間合いを見誤り易くなります!!距離に気をつけてください!」
私は優子先輩にエフェクトを使った個別会話で警告を入れます。
知ってることは全部伝えないと。
そうしないと、一瞬で負けてしまう。
そういう相手だと、思い知らされてますので。
この襲撃者たち、異常です。
連携の練度も相当なものですが、個々人の実力が高すぎます。
なんなんですかあの体捌き!
なんなんですかあの速度!!
……ひょっとして、二人ともマスターレイスなんじゃ……?
ファルスハーツ幹部・マスターレイスは複数人存在すると言われる幹部です。
彼らがそうであっても全然不思議じゃありませんよ!
優子先輩は頷いてくれました。お願いします……センパイ……!!
「ヘルケルベロスさん!不用意に男忍者に踏み込むのは危険です!そいつの構え、カウンター狙いの性格が強いんで!絶対に正面に立たないでください!!」
黒伏さんにも個別連絡を入れます。当然です。
脇構えを取るということは、カウンター狙いとみるのが妥当です。
だって、間合いを見誤らせて、安全圏に居ると勘違いした相手を斬り捨てるための構えなんですから。
構えの特性を知らずに、のこのこ正面に立ってしまったら……
恐ろしいです。
私の警告を受けた二人は、男忍者に対し、警戒します。
膠着状態。
……にはなりませんでした。
「センパイ!!後ろ!!」
超高速女忍者が、それをさせてくれません!
優子先輩は身を沈め。右に低く飛び出しながら、足元を魔眼槍で薙ぎ払います。
不意打ちを入れようとしてきた女忍者は、それを飛び退いて躱しました。
……そのとき。男忍者が黒伏さんに向きなおり、踏み込んできました。
脇構えのままで。
攻めるの!?
カウンター狙いだと思っていたのに。
……いや、それを利用して、心理的空白を突いてきたのか!?
こっちが知識を持っていると踏まえ、それで……!!
次の瞬間。
男忍者から、横薙ぎの斬撃が来ました。
心理的空白。
それは、構えの性格だけじゃ無かったこと。
このとき再び思い知らされました。
明らかにね、外の間合いだったんです。
刀身の長さ、この男の腕の長さから考えて。
まさか。
まさか……斬撃の瞬間に……
さらに刀身を伸ばしてくるなんて!!
脇構えを構えている以上、警戒すべきは本来の刀身から予想されるリーチ。
その先入観。
それが、この男が物質創造のシンドローム・モルフェウス発症者であるという事実を忘れさせてしまったんです。
刀に錬成をかけて、さらに刀身を伸ばすくらいやってくるだろうと、予想できたはずなのに……!!
「!!!」
黒伏さんの6本の腕のうち、2本が宙を舞いました。
とっさに胴体を庇ったんですが、大ダメージです。
「……腕2本か。戦闘不能になってもらうつもりでやったんだけど、大したもんだよ、あんた」
伸ばした刀身を本来の長さに戻しつつ、男忍者はそう言います。
「「「……ちっとも嬉しくねぇや。……すげえな、小僧。おじさん、見事に引っ掛かっちまった……」」」
腕を2本切断され、キュマイラのエフェクトを使い、傷口を無理矢理塞ぎながら。
黒伏さんは絶望的に笑いました。
まずい……!!
このままじゃ、負けます……!!
予感じゃ無いです。確信です。
絶対勝てないです。このままじゃ……!!
「……ツクヨミさん」
これを打開するためには、ひとつしか手が思い浮かばなかったので。
私はじゅじゅさんに個別会話を入れました。
「奥の手、準備お願いします」
多用したくない手ですが。
これしか打開する手段を思いつかなかったんです……。
それは、唐突でした。
「センパイ!ヘルケルベロスさん!!超高速女が狙ってます!早く立て直して!!」
ゆりちゃんの声。
……え?これ……
個別会話じゃ、無いよね?
私と黒伏さんに呼び掛けてるんだから……
「私が指示する場所に集中攻撃かけて、まず超高速女を落としてください!!先輩は重力による拘束を!そこにヘルケルベロスさんが……」
ちょっと!何言ってるの!?
声には遠慮と言うものがありませんでした。
そして言ってる内容が、聞かれてはマズイことのオンパレード。
ゆりちゃんにはエロGカップ忍者の動きが見えていて、それで私たちに指示を出し、それでこれまで乗り切ってきたこと。
それ、隠さなきゃいけないよね……?
見ると、ゆりちゃん。
数歩前に出て、孤立していました。
それで、アタッシュケースを抱えながら叫んでます。
ちょっと!!?
モルフェウス忍者は、それを見逃しませんでした。
即座に両手に計8本の棒手裏剣を錬成し。
それをゆりちゃんに向けて投擲したのです。
当然、投擲直後にそれを日本刀に再錬成することを忘れずに。
来た……!!
私は、飛来する8振りの日本刀を見つめながら、覚悟を決めました。
私だってハヌマーンです。
超高速女のように、音速を超えることはできませんが、常人よりずっと素早いんですよ!
回避行動もわりと得意な方ですし!
これを、全部避ける!!
避け続ければ、きっと超高速女が私を仕留めに出向いてくる!!
そこからが本番です!
そうすれば、この状況を打開できる奥の手が使えます!
やってみせるから!!
8振りの日本刀。
私には見えています。その動きが、手に取るように。
ハヌマーン発症者は、その高速移動に耐えうるよう、体感時間をゆっくりに感じるような視力を持っています。
なので、私には投擲された刀の動きがハッキリ見えるわけです。
だから、やれる、やれます!!
意識を集中し、回避に全振りします。
右に避け、左に避け、前に飛び出し……
大丈夫、やれてる、やれてるよ……!
身を逸らし、しゃがみ込み、そして……
あ……さらに8振り……まるでガトリングガンのよう……
男忍者がさらに8振り錬成して投擲してきたんです。
でも、やれる。やってみせる……!
集中を持続させ、避け続けます。
右に避け、左に避け、前に飛び出し……
身を逸らし、しゃがみ込み、そして……
……え?
凍り付きました。
何で、こんな近くに日本刀が飛んできてるの?
回避行動を終えたと思ったとき。
回避不能な位置に、すでに日本刀が投擲されていたんです。
まるで、私の未来位置を予測してたみたいに。
こんなに近くじゃ、回避行動間に合わない……
ぞんっ!!
私の肩を、日本刀が貫きました。
「ゆりちゃーん!!!」
優子先輩の叫びを聞きながら。
「ゆりちゃーん!!!」
三つ編み戦闘員の女の子の叫びを聞いた。
へぇ。
あの子、本名はゆりって名前なんだ。
可愛い名前。
アタシなんて徹子だよ?
正直、ちょっと改名したいくらい、気に入らない。
父さんのつけた名前じゃなけりゃ、とっくに改名してる。
父さん、牝豚に裏切られた上に、娘に改名までされちゃ、いくらなんでも可哀想だもの。
だからしょうがなく徹子で居るけど。
でもさ。もうちょっと可愛い名前つけて欲しかったなぁ。
しかし、あの子ハヌマーンだったんだね。
で、それなら回避に専念すれば文人の攻撃を避け続けられるとか思ったんだ?
……甘いよ。
だってさ、彼、アタシの動き見えてるんだよ?音速軽く突破してるアタシの動きを?
ハヌマーンでも無い癖に。
気持ち悪いよね。あの人の脳みそ。
気持ち悪すぎてゾクゾクしちゃうよ。
ああホント、抱かれたい。メチャクチャにして。
そんな彼に、アタシより速く動けない子が、その速さがアドバンテージになるわけないじゃん。
当然、動きの癖読まれて、それでも当たるようにされちゃうよ。
まぁ、だからこそ、投げたんだろうけどね。
命まで取らずに済む自信があったから。
……さて。
相方のサポート、しなきゃだよね。
アタシの役目はそれだもの。
アタシは駆け出して、超音速移動開始。
この状態を維持するの、かなりの集中を要する。
だから、このまま攻撃は出来ない。
攻撃に移るときに、一回この状態が切れちゃう、
そこがまあ、弱点と言えば弱点なんだけど
頭のおかしいウチの相方だとか、ハヌマーンの視力を持ってるオーヴァード以外には超音速状態のアタシは視認できないから、それほど致命的といえる弱点でもない。
出現地点が分からないんだから。
目標は肩を文人が投げた日本刀で貫通させられたあの子。ゆりだっけ?
あの子を黙らせる。
健気にも、すごく痛いだろうに、必死で立ってる。強い子だね。
でも、ちょっと可哀想だけど、手足をへし折って、戦闘不能にしてしまおう。
それに。多分あの子が持ってるアタッシュケースが、ブツの入ってるやつだよね?
それさえ奪ってしまえば、もう用は無いし。
それでもいいか。
……あ。
傍に居た、女子大生みたいな女があの子を庇おうとしてる。
多分、ギリ間に合うね。カバーリング。
……しょうがないなー。
ちょっと手足に重傷を負ってもらって、先に黙ってもらおっか。
「ゆりちゃーん!!!」
思わず、言ってしまいました。
彼女の本名を。
名前がばれれば、どういうことになるか分かりません。
だから私たちは、任務は普段コードネームで呼び合い、本名を明かさないんです。
相手を確実に殺すなら、別に問題の無いことでしょうけど。
でも、言ってしまいました。
それぐらい、ショックを受けたんです。
このままじゃ、ゆりちゃん、殺されちゃう!!
あの女の姿が消えます。
……殺る気だ……!!
瞬時に悟りました。
次の瞬間、ゆりちゃんの首が飛んでしまうかもしれません。
……それだけは、絶対に防がないと!!
そのときでした。
バロールの力でしょうか?
ゆりちゃんに向かって走り出す、あの女の姿がハッキリ見えたんです。
私の視界の時間だけを、極めてゆっくりにして、超音速のあの女の姿を、私にも捉えさせた……
私の頭の中は、ゆりちゃんを救うことで一杯でした。
ほとんど自動的に、私は魔眼槍を魔眼に戻し、意識の集中を始めていました。
そして、念じます。
止まれ、と。
『時の棺』を発動させました。
僕は目を疑った。
相棒が、突然中途半端な位置で、姿を出現させたからだ。
しかもその姿。
まるで彫刻のように動かない。不自然な姿勢。
疾走時の姿を写真で、切り取ったような……
……まさか、超音速移動の相棒を視認して、時の棺を使ったとでもいうのか?
あの三つ編み少女……!!
この場に居るバロール発症者は彼女だけだ。
彼女しかありえない。
……正直、侮っていた。
本気でやれば、僕ら二人の敵じゃない、と。
猛省しないと。
この子、そんなに安い相手じゃない。
しかし、時の棺の効果は一瞬。
金縛りはすぐに解け、相棒は再び超音速に移行し、今度はあの小柄な少女の前に出現する。
そしてその目の前に少女を庇うように立っていた、女子大生くらいの女に、相棒は攻撃を加えようとした。
僕は、ここで、引っかかりを覚えた。
……ちょっと待て。
何故、無防備なんだ?
時間はあっただろ?
あの一瞬があれば、訓練されたオーヴァードなら準備は容易なはずだ。
ガード要員なら、防御用エフェクトを張り巡らすだろうし。
射撃要員だったら、あの一瞬で迎撃で相棒を攻撃していたはずだ。
なのに、何もしてない。
まるで、自分の身体で、身を挺して、少女を庇おうとしているように見える。
そうならないで済む時間はあったはずなのに。
……おかしい。引っかかる。
あ。そういえば……。
車を破壊したとき、レーザーを見た。
つまり、エンジェルハィロゥのオーヴァードが居る……
そこで、閃くものがあった。
「相棒!!そいつを攻撃するな!!」
叫んでいた。
「相棒!!そいつを攻撃するな!!」
「そいつ、おそらく『鏡の盾』を習得している!!」
……見抜かれた!!
私は血の気が引きました。
何で分かったの!?
刀で貫かれた、肩の痛みも忘れてしまいました。
『鏡の盾』はエンジェルハィロゥシンドロームの、謎に満ちた奥義エフェクトのひとつです。
理屈がシンドロームの内容で説明できないんです。
どういうエフェクトなのか?
習得者が、攻撃を受けるときに、攻撃者を強くイメージする。
すると。
受けたダメージが、そのまま攻撃者にも返っていくんです。
だから『鏡の盾』
自分が深いダメージを負えば負うほど、攻撃者が同じダメージを負ってしまう。
死なばもろとも。そういうエフェクト。
専門家の間では「光から鏡のイメージを作り、そこからイメージだけで成立しているエフェクトなのでは」という、苦し紛れのような説明が出されています。
私の作戦はこうでした。
私があの超高速女の攻撃を誘い、そこをじゅじゅさんに庇ってもらう。
『鏡の盾』を準備しながら。
当然、じゅじゅさんは行動不能の、ひょっとしたら命に係わるダメージを負うかもしれません。
でも、同じダメージが超高速女にも行くんです。
そうすれば、超高速女だけは落とすことが出来る。
あの男忍者も強敵ですが、超高速女を落とせば、多少は勝機が見えるはず……。
……正直、使いたくない奥の手です。
でも。そうしないと、勝てないと思いました……
しかし……
超高速女の輝く手刀が、じゅじゅさんの両肩を切り裂く寸前で停止していました。
そして飛び退きます。
じゅじゅさんは失敗したことを悟り、追撃でレーザービームを放ちますが、すべて躱されてしまいました。
……そんな……私、チームの勝機を潰しちゃった……!!
私のせいだ……私が、時の棺を使ってしまったから……
そのせいで、あのモルフェウス忍者、不審に思ったに違いない……!!
隙があったのに、特に何も反撃の手を打たなかったゆりちゃんたちを……!
ゆりちゃんが何をしようとしていたのか。
そのときにようやく理解できました。
知ってたはずなのに。
じゅじゅさんの奥の手『鏡の盾』を。
ゆりちゃん、それであの女だけでも倒すつもりだったんだ……!
それに。
傍にじゅじゅさんが控えてたの、ガード要員だよね?
なんで、じゅじゅさんを信じられなかったの……?
罪悪感、喪失感。
マイナスイメージが駆け巡ります。
そのせいで、一瞬遅れました。
「センパイ!!」
え……?
気が付いたときには、モルフェウス忍者が、私と黒伏さんに向かって数十を超える棒手裏剣を投擲してきていました。
日本刀への再錬成を省略し、数だけ増やしたんでしょう。
でも、私一人を潰すには十分な量でした。
とっさに頭と心臓を庇いますが、致命的でした。
死なないまでも、行動不能になるダメージを負い、私は倒れ伏します。
「お嬢ちゃん!!」
黒伏さんも傷だらけです。
戦闘不能にまで陥ってませんが、時間の問題に見えます。
本来は、時の棺はこういう時に使うエフェクトなのに……!!
私は……私は……!!
身体中に棒手裏剣を突き刺され、行動不能になりつつある黒伏さんの前に、あの女が姿を現して。
その輝く手刀で、彼の足を深く切り裂きました。
「「「ガアアアアアアア!!」」」
女は止まらず、黒伏さんの全身をズタズタに切り裂いていきます。
黒伏さんが倒れ伏すまで。
どれぐらい切られたのか。
黒伏さんは仰向けに倒れてしまいました。
キュマイラの生命力、回復力でも行動できなくなるほどのダメージ……!
それを黒伏さんに負わせた女が、心底すまなさそうにこう言ったんです。
「……死んだらゴメンね。一応急所はギリ外しておいたつもりなんだけど」
この女、手加減してたっていうの……?
なんて侮辱……!!
黒伏さん、すみません……!!
地面に倒れながら、私は泣いていました。
悔しくて。
申し訳なくて。
そこに、レーザーが飛んできます。
じゅじゅさんの攻撃です。
しかし、女の姿が消えました。
「相棒!」
モルフェウス忍者が何かを宙に投げます。
それは、ワイヤーに見えました。
「これで、落とせ!」
パシッ
それを空中でキャッチし、再び姿を消す女。
「分かった!」
との返事だけ残して。
……落とせ……?
ワイヤー……?
まさか……!!
あの女が何をやろうとしているのか。
それに気づいて、私は叫ぼうとしましたが、声が出ません!
気力がなくなっていたんです……!
あいつら……あのワイヤーでじゅじゅさんの首を絞めて落とすつもりだ……!
やり方としては最高です。
鏡の盾を使っても、返ってくるのは首を絞められるダメージのみで、深刻なダメージになりませんし。
そして、使った時点で、鏡の盾は打ち止めです。
鏡の盾も奥義なので、連発できるエフェクトじゃ無いんです。
かといって、鏡の盾を使わなければ、落とされて行動不能になってしまう……!!
「うあああああああ!!」
じゅじゅさんの悲鳴。
必死で首を捩じって、じゅじゅさんを見ました。
ああ……じゅじゅさん……ワイヤーで首を絞められてる……!!
あの女、じゅじゅさんの背後に回って、まったく躊躇なく絞めたんだろうな……!!
すみません……すみません……!
じゅじゅさん、美人なのに、顔を歪めて、苦しそうに首を押さえて。
悶えてる。ごめん……ごめんなさい……!!
脳への血流が途絶えれば、オーヴァードだって意識を失います。
キュマイラや、エグザイル、ブラム=ストーカーならどうか知らないですけど、その他のシンドロームしか持たないオーヴァードなら例外なくそうなるはずです。
根性の問題じゃ無いですから。
じゅじゅさん、レーザーで背後の女を必死で狙おうとしてますけど、当たりません。
器用に、絞めながら回避してるんです。
そして。
じゅじゅさんの手がだらりと下がり。
意識が落ちたことを確認すると。
女はじゅじゅさんを解放しました。
そこにモルフェウス忍者がやってきて。
手錠を錬成し、後ろ手にじゅじゅさんに手錠を掛け、足をロープで縛って拘束しました。
もう、残ってるのはゆりちゃんだけ……
二人がゆりちゃんに近づいていきます。
「来ないで!!ファルスハーツ!!」
ゆりちゃんはズタボロの姿で、必死でアタッシュケースを守ろうとしています。
でも、もう無理ですよね……
あっけなく奪われてしまいます。
ゆりちゃん、暴れてますけど、無理です。
あの女に引き摺り倒されて、押さえつけられます。
「うぐぅっ!!!」
「ほい、相方」
「あいよ。相棒」
ゆりちゃんを完全無視して、女はモルフェウス忍者に奪ったアタッシュケースを渡します。
そして。
「……これで間違いないみたいだ。残留思念がそう言ってる」
……サイコメトリー……!!
全部筒抜け……!!
終わった……!!
「じゃあ、任務完了だね」
「ああ、先に行っといてくれ。僕は後から追う」
言って、アタッシュケースを女に返します。
「分かった。気をつけてね。相方」
穏やかに言葉を交わし合い、女がアタッシュケースを持って、姿を消しました。
後には、黒づくめのモルフェウス忍者が一人。
何のために残ったのか……
まさか……!!
肩を刀で貫かれて、荒い息をついているゆりちゃんに、モルフェウス忍者は近づいていきます。
あいつ……ゆりちゃんを凌辱する気じゃ……!!?
さ、させない!!
動いて!!私の身体!?
「く、来るな……!!来ないで!!やだ、やああああっ!!」
悲鳴をあげるゆりちゃん。
ゆりちゃん……!!
ごめん……ごめんなさい……!!
作戦を失敗させたばかりか、あなたをこんな目に……!!
それなのに、何にもできない。
悔しい……情けない……!!
辛い、辛いよぉ……!!
モルフェウス忍者が去っていきました。
そこに居たのは、裸に剥かれて男の体液で汚されたゆりちゃん……
ではなく。
刀を抜き取られ、包帯を巻かれて、止血処理もされたゆりちゃんでした。
ゆりちゃんは、信じられない、という顔をしていました。
「……僕ら、普段殺し屋をしててさ。殺す相手は選びたくてね」
モルフェウス忍者はそう言って。
ゆりちゃんから抜き取った刀で、道路のアスファルトの一部を切り取って。
それを、バイクに錬成しました。
モルフェウス忍者はそれに跨り。
「……じゃあね。お大事に。結構強かったよ。君ら」
刀を投げ捨てます。
投げ捨てられた刀が、医療セットに変わります。
……情けをかけられた……!!
どこまで馬鹿にしたら気が済むの!?
ふざけんな!!!
絶対、許さない!!
一生恨んでやる!!恨んでやるんだから!!
悔し涙を流しつつ。
私はバイクを走らせて去っていくモルフェウス忍者を睨み続けました。
こうして。
私のはじめての大仕事は、私のせいで大失敗で終わったのです。
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