第2話 プロローグUGN(2)
春日恭二の捕獲こそ叶いませんでしたが。
レネゲイドビーイング……通称レネビの確保だけはいけましたので。
任務としては達成です。
回収してきたレネビを本部に引き渡し。
私たちはめいめい、好きな飲み物を持ち寄り、ちょっとした打ち上げを行います。
場所はUGN支部の会議室。使用許可は取ってます。
私はウーロン茶。
ゆりちゃんはコーラ。
じゅじゅさんは赤ワイン。
そして黒伏さんは缶ビール。
めいめい、好きな容器に移して、乾杯します。
「乾杯!」「お疲れさまでした!」
食べ物はスナックやチーズが中心でした。
スナックはカロリーがちょっと気になってしまうので。
私はもっぱらチーズ系に手を伸ばします。
チーズのカロリーって消費しやすいんですよね?
赤ワイン飲んでるじゅじゅさんとかち合うので、ちょっと気になるんですけど。
スナックは、コーラのゆりちゃんのものになってました。
「んじゃ、おじさんはこれで」
缶ビールを1本飲み干して。空き缶をゴミ箱に投げ入れ。
いきなり黒伏さんが席を立ちました。
まぁ、居づらいのと、奥さんに対する後ろめたさでしょうか?
私たちに対する義理なのか、ビール1本だけは付き合ってくれるんですが、いつもこうです。
まぁ、仕事はきちんとしてくれますし、そういう気の遣い方は嫌いでは無いので、私は気にしないことにしています。
「お疲れ様です」
「んじゃね。お嬢ちゃん方。次の任務で」
愛想よく笑って、黒伏さんは出ていきました。黒い背広姿の背中を見送ります。
この人、私たちの顔を見て会話しないし、名前も基本呼ばないんですよね。
お嬢ちゃん呼称基本。
どうしても個別で呼びたいときは「神里さん」「水無月さん」「河内さん」
苗字にさん付け。……あ、水無月は私の苗字です。私の名前、水無月優子なんで。
愛妻家ってことなんでしょうか?
奥さん以外の女性とは、なるべくまともに向き合わない。そういう態度。
黒伏さん、見た目はワイルドっぽいんですけどね。
「……まぁ、あっちこっちの女に気の多い男よりはマシじゃない?」
目の前の紺色のジャケットとスカートでびしっと決めた、黒髪ロングの女子大生……神里じゅじゅさんは私がぽつりと漏らした言葉にそう返してくれました。
じゅじゅさんは綺麗系の美人で、和装の似合いそうな人です。
「ウチなんて、マイクロバスが必要なほど子供が居るからね……」
遠い目。
なかなか狂った環境なのは、家族のいない私でも分かります。
彼女から聞いた話ですが、じゅじゅさんの家はお母さんと呼ばれる女性が3人居るらしく。それぞれ10人子供を産んでいるそうで。
計30人兄弟で、彼女はその一番上なんだとか。
どう考えても異常な家です。重ねて言いますが、家族のいない私でも分かります。
私、赤ちゃんのときにジャームに家族を皆殺しにされてますので、天涯孤独の身です。
まぁ、記憶にないので辛いって感情は特にないのですが。
「ウチが異常なのは分かってるんだけど、なんかね、受け入れちゃってるの。ワタシ」
ワインが回ってきたのか、ちょっと饒舌になるじゅじゅさん。
「母さんたちも別に喧嘩して無いしね。それでいて、弟と妹たちは長女の私を慕ってくれてるし……」
じゅじゅさん。その話、前にも聞きました。
ワインが回るとよくこの人、同じ話をするんです。
「優子ちゃんもゆりちゃんも、なるべくそういう男は選んじゃダメよ?モテるからっての、長所だとは限らないんだから!」
はは、と笑いながら受け止めます。
私は兎も角、ゆりちゃんには不要な言葉なんですけどね。
この子、同性愛者なんで。
もっとも、知ってるの、この中では私だけですけど。
理由は、告白されたからです。
私はノンケでしたので、それを伝えると、「そうですか」と少し寂しそうに笑って答えてくれました。
告白された時は私は落ち着かなかったですよ。
ゆりちゃん、私の世話を色々焼いてくれてたの、そういう意味だったのか、と。
寂しいというか、がっかりというか。
色々複雑なものを感じました。
でも翌日、変わらずこの子、私の世話を焼くので
ごめん、私の気持ちは変わらないと思う
ってこっそり言ったら
「あの、馬鹿にしないでもらえます?別に見返り求めてセンパイの世話をしてたわけじゃないんですけどね」
って返されました。
私はセンパイの世話がしたいからしてるだけで。まぁ、他にセンパイより好きな人が出来たらそっちに行くかもしれませんけど。
そのときに備えて、今から自立をお願いしますよ。センパイ。
そう、笑顔で言われてしまいました。
なので私。この子には一目置いてるんですよ。
もちろん、この子の気持ちに応える気は全く無いんですけど。
こういう態度で誰かと、好きな人と接することができるのって、ステキだなと思ったんで。
この子、この年齢でこんな風に他人を愛せるなんてステキです。
私は16歳ですが、この子は13歳。
中1の年齢で、これ。
普通ならこのくらいなら自分の事ばっかりで「自分がどうされたいか?」ばっかりのはずなのに。
下手すると、大人になってもそこから抜けられない人も居るって言うのに。
立派だと思います。
この子に、本当に誰かを愛するってどういうことなのかを教えられた気がして。
それで、ずっと一目置いてます。後輩ですけど。
将来誰か好きな人が出来たら、この子と同じ愛し方したいですね。
任務を終え、今はゆりちゃんは戦闘服を脱いでいます。
黒地に白いチェックが入ったブラウスに、ジーパンを合わせてます。
髪型はかなり短いショートカット。
どっかの女性国会議員みたいな感じですね。
まぁ、小柄なゆりちゃんがやるとだいぶ可愛く感じるので、全然問題は無いんですけど。
対して私は三つ編み、丸眼鏡。
任務の時は、コンタクトしてました。眼鏡だと弱点がばれちゃいますし。
衣装は白いブラウスにブルーのスカートを合わせてます。
「私たち、もうだいぶ慣れてきましたよね~」
組んで出撃するようになって、1年くらいでしょうか?
数年前に、単独出撃でUGNエージェントが倫理的大問題を起こしてしまった「ソニックビースト事件」というものがあり、その影響で戦闘部隊は原則男女混合、構成員最低3人以上を基本とするルールが出来てから。
おじさん1、小娘大娘3人のチームを組まされて。
最初はどうなることかと思ってたんですが、わりと上手くやってる自信はあります。
「そうね」
だいぶワインが回ってきたのか。
じゅじゅさんがあきらかに酔眼になってきてます。
呂律はしっかりしてるんですけど。
酔眼のまま、言います。口元に笑みを浮かべて。
「ゆりちゃんの指示の飛ばし方もこなれてきたって感じよ。今の私たちならどんなFHセルも潰せるわ」
おお、大きく出ましたね。
まぁ、それはちょっと同感なんですけどね。
連携の完成具合も良い感じですし、問題、何もない感じですもん。
「センパイたちが私の言うことを正確に理解してくれてる結果ですから」
実際、ゆりちゃんの連絡手段、エフェクトでやってる関係で、通信傍受されないし。
音漏れによる居場所の発覚も恐れなくていいし。
誇ってもいいと思うんですが、しないんですよね。この子。
人間としては大好きですよ。この後輩。
できることなら、ずっと、このチームで仕事したいです。
まぁ、問題が無いから、多分大丈夫ですよね。
外されたり、入れ替えられたりしないはず。
やったらマイナスですし。
……と。
このときの私はそう信じていました。
まさか、半月もしないうちにあんなことになるなんて。
このときは想像すらしていませんでした。
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