私が昔居たチームの話/はじめての旅行
XX
第1話 プロローグUGN(1)
私たちチームは、いつも通りに行動を開始しました。
走ります。人気のないビルの中を。
「センパイ、情報では敵の数は4です。センパイはヘルケルベロスさんと一番大きなやつをお願いします」
私の耳に、後輩の声が聞こえてきます。
囁くような声です。
実際には、近くには居ないのですけど。
彼女は後方支援をしており、私たちよりだいぶ後ろに居ます。
この囁き声は、ハヌマーンシンドロームのエフェクトの結果です。
建設途中で工事が中断されているビルで、ファルスハーツのエージェントがギルドと取引するという情報を得て、任務で出動したのですけど。
今夜も絶好調。上手く行きそうですね。
UGN支給の戦闘服に身を包み、口元を覆うマスクを身に着けた私は、一人の男性……いや、獣人と並走していました。この人がコードネーム・ヘルケルベロス。
三面六臂の黒いオオカミの獣人の姿。彼の名は黒伏犬治。このチームで私と同じ、前衛を務める男性です。
とんでもない姿の獣人ですが、これでも既婚者で子持ち。30代男性。いつまで稼げるか分からんから、稼げるうちに稼げるだけ家族を養う金を稼ぐんだと、このチームを志願した人です。
シンドロームはキュマイラのピュアブリード。一撃のデカさにはいつも頼っています。
そして少し後ろを走ってる、私より少し年上の女性は神里じゅじゅ。現役女子大生でチームの援護射撃役兼ガード役担当の人です。
髪型はロングで、ストレート。よく手入れされていて、彼女の育ちの良さが良くわかります。
実家は結構なお金持ちらしいのですけど、調子をこいた彼女の父親が子供を作り過ぎたせいで養育費が5億を超え、長女の彼女はそれを助けるためにこのチーム入りを志願したそうです。
チーム入りの理由がエキセントリックですけど、腕は確か。奥の手も持ってて、頼れる女性ですね。
コードネームはツクヨミ。日本神話の月の神の名。厳密にいうと性別は違うんですけど。
シンドロームはエンジェルハィロゥ/ブラックドックのクロスブリード。
私同様顔を隠し、UGN支給の戦闘服で身を包んでいます。
その後ろについているのが、さっきから私に指示を飛ばしているこのチームのバックアップ役の少女。
一番の最年少。シンドロームはハヌマーン/ノイマンのクロスブリード。
私の後輩。名前は河内ゆり。コードネーム:ヴァルキリーウィスパー。
彼女は目をゴーグルのようなもので隠して、口元はそのまま。
ハヌマーンのエフェクトで声を飛ばす関係ですね。
彼女はこのスタイルで、私たちにだけ指示が聞こえるように指示を飛ばしています。
その指示はいつも的確。
「作戦はまずツクヨミさんの一斉射撃で敵の数を減らし、残った敵で一番大きなものをヘルケルベロスさんとクリスタルオーブセンパイ、残りをツクヨミさんが掃討する形でお願いします」
「射撃前に私が支援を致しますので、支援が入ったらお願いしますね」
「了解」
現場に到着し、打ち合わせ通りに配置に着きました。
待機していると、そこに白いスーツの、爬虫類じみた顔の、オールバックの髪型の眼鏡の中年男性が現れます。
後ろにははち切れそうな筋肉の、彼よりデカイ上半身裸の巨漢を連れて。
そしてその対面から、黒づくめの二人組が現れました。
情報では、ここで生まれたばかりのレネゲイドビーイング……レネゲイドウイルスが生命を持った、と形容するのが相応しい生命体……が取引されるらしいです。
なので、それを阻止し、レネゲイドビーイングを保護せよとの指令です。
何か会話をしています。
やがて、黒づくめ二人組がアタッシュケースを出しました。
オールバックが、また別のアタッシュケースを出してくる。
あれが、商品と代金ですかね。
よし。
今だよね?ゆりちゃん!?
「今です!ツクヨミさん!やっちゃってください!」
「了解!」
ツクヨミが立ち上がり、天に両手を掲げました。
同時に光が立ち上り、一瞬後稲光のようなものを伴ったレーザーの雨が目標の4人を襲います。
スターダストレイン。彼女の切り札のひとつ。広範囲殲滅エフェクトです。
「あぎゃああああああ!!」
巨漢以外の全員が倒れました。
思ったより弱かったらしいですね。
黒づくめの片方は残ると踏んでたんですが。
巨漢はダメージを受けたようですが、まだ戦える状態のよう。
奇襲を受けたことを怒り、巨漢は吠えました。
同時に、変異が始まります。
情報通り、一番やばいのはこれみたいですね。
みるみるうちに、身体が鱗に覆われ、豚と熊と鰐を混ぜ合わせたような獣人に変化していきます。
キュマイラのピュアブリードで、ジャーム。
暴れだしたら止まらない。
連れ歩いていたわけだから、何かしらの制御法みたいなものがあったのかもしれないですけど、私たちとしては倒すしかないです。
大丈夫。やれる。やれます。
ルガアアアア!!コロス!!
吠え猛りながら、蹄の生えた足でコンクリの床を踏み抜かんばかりに踏み締めます。砂埃が舞いました。
腕、ぶっといです。男性の太腿くらいありそうです。
で、そこに鋭い爪。喰らったらただでは済まないですね。
「「「お嬢ちゃん、いつものようにサポートしつつ援護攻撃よろしく」」」
ヘルケルベロスが3つの口で同時に私に一言断って、突っ込んでいきました。
この人、一撃に全振りしたような人なんで、単独で突っ込むとえらいことになります。
私のシンドロームはバロール。重力を操るシンドロームで、それのピュアブリードです。
私のコードネームはクリスタルオーブ。由来は、バロールシンドロームのエフェクトを使用する際、発症者が出現させる物体……通称・魔眼……が、水晶球みたいに綺麗だから、です。
私もヘルケルベロスを援護するために、輝く魔眼を出現させ、それを魔眼槍に作り替えてジャームに突っ込んでいきます。
ルガアアアア!!
吠えながら爪の一撃がヘルケルベロスに来ますが、私はそこですかさず斥力の壁を出現させ、ヘルケルベロスにまともに当たらないように援護します。
で、死角から槍の一撃。
機動力を奪うため、腿の裏を狙いました。
深刻なダメージにはなりませんでしたが、私の存在を邪魔に思ったのか、爪の一撃がこちらにも来ます。
私は冷静にフットワークで躱しました。
そこに、後ろからツクヨミのレーザーによる援護射撃。
ジャームの手の甲を貫通します。
ギアアアアアアア!!
ジャームの絶叫。
「センパイ!ヘルケルベロスさんの準備が出来たみたいです!」
そこにヴァルキリーウィスパーのハヌマーン通話。
「時の棺、いけますか?」
「……任せて」
要請を受けたので、一歩下がって私は魔眼槍を魔眼に戻し、精神を極限まで集中します。
ああ、私の魔眼が真っ赤に染まっていきます……。
ダメージによる狂乱から回復し、ジャームが再度起動します。
しかし、させません。
時の棺!
……念じて、キーワード。
ジャームが停止しました。
私の、奥義で切り札のエフェクトです。
相手が誰であろうと、一瞬だけ時間を停止させて無防備にします。
ただし、使えるのは数日に一回だけ。だから切り札です。
本来では相手がこちらを仕留めかねない恐ろしい攻撃を繰り出してきたときに、相手の攻撃を潰すために使うのが一般的ですが、今回は急ぐ必要があったのでここで使わせてもらいます。大盤振る舞いです。
と、同時。
ズボォ!!
肉を割く音がし、ジャームの胸から腕が一本生えました。
血まみれの腕が。
腕は、ジャームの心臓を握っており。
グシャ!
握り潰すと同時に、ジャームは息絶え倒れ伏します。
後には、ボロボロのズボンを身にまとった、筋肉質のワイルドなおじさんが立っていました。
ヘルケルベロスの神獣撃。
使うと完全獣化が解けてしまう危険な技ですが、威力は絶大です。
「お見事」
「そんなのいいから、ディアボロスを」
ああ、そうでした!
予想通り、ツクヨミの最初の一撃で戦闘不能になりましたけど、まだ気絶していてくれますかね?
探します。
オールバック白スーツを。
……居ません。
「逃げられました……」
「まじかー」
ヘルケルベロス……黒伏さんは顔に手を当てて嘆きました。
……折角、腐ってもFHエージェントを捕虜に出来るチャンスだったんですけどねぇ。
ついで、狙ってたんですけど。
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