第9話 クッキングタイム(UGN)

私の気持ちが移ってしまうまでに、独り立ちしてくださいね、センパイ。


……後輩にこんなことを言わせておくのはちょっと先輩として引っかかりますよね。

まるで、私が何もできないみたいじゃないですか。


私がゆりちゃんにやってもらってることは、


料理


洗濯


掃除


まぁ、家事全般ですね。

でも、私だってやろうと思えばできるはずです。


洗濯なんて、洗濯機にモノを入れて、適量洗剤を入れればOKなはずですよね。

掃除だって、常識に従ってやればできるはず。


料理は……まぁ、知識としては習いましたよ。

実際に口にしているものは、ゆりちゃんの手料理か、外食、弁当、携帯食糧だけですけど。


実際にやったことは、無いです。

ゆりちゃんが居ないときは、外に食べに行くか、お弁当を買ってます。


でも、これ、不利ですよね。

婚活を考えている身としては。


ウィークポイントにはなっても、長所になんてなりようがないです。

別に上手くある必要は無いと思います。人並みに出来れば。

でも現状の私は、人並みであるかどうかすら分からない状況。


……挑戦してみようと思いました。

何事も、やってみなければ。


やってみたら簡単で、なんてことないのかもしれませんし。

水無月優子はエリートで、家事もソツなくこなせる何でもできる子。

そう、胸を張って言えるかもしれません。


えーと、エコバックどこだっけ?

最寄りの業務スーパーは……


私はエコバックを探しながら、スマホで業務スーパーを検索しました。




やって来ました。

業務スーパー。


緑色の看板に、デカデカと店名が書いてます。


『アダムイエロー』


ここらへんでは一番デカイ業務スーパーです。

ここなら、何でも揃うはずです。


時刻は午後3時過ぎ。

夕食の材料を買いに来た奥様方でごった返しています。


さて、私は何を作るとしますかね?


店に入ると、まず野菜のコーナー。

その奥に、鮮魚コーナーがありました。


……おや?


野菜コーナーを素通りし、鮮魚コーナーの方に向かうと、目を惹くものが。


女の子が、居るんです。

多分私と同年代。


……こんな時間に?


いやね、そりゃ私が言えた義理じゃないかもしれませんけど。

今日、平日なんで。


学校に通ってて、こんな時間にスーパーに居られるもんなんでしょうか?


まぁ、そんなことよりも。


……めちゃくちゃ、エッチな身体をした女の子でした。

髪型は肩のあたりで切りそろえたショート。

目が大きくて、唇が薄い。ハッキリ言ってメチャメチャ可愛いです。

で、胸。どうみてもD以上あります。F?G?


で、それだけおっぱいが大きいのに、全然太って無くて。

ウエスト細くて、お尻から太腿、脚のラインがとても綺麗。


白いシャツとズボン、春物の茶色のセーター姿なんですが、良く似合ってました。

脚が長くて綺麗なんで、ズボンがよく映えますね。


……こんなナリだと、天下取ったような気になれるでしょうね。

男性でも、アレがでかいと天下取ったような気になるそうですし。


モデルか何かをやってる子なんですかね?

で、高校行ってないとか?


あまりじろじろ見るのは失礼だとは思ったんですが、あまりに完璧な美少女だったので、ついつい見てしまいました。


すると、向こうがこっちの視線に気づいて。


「どうも」


「こちらこそ」


会釈して、そんな意味不明の挨拶をしてしまいました。

何がどうもなの?何がこちらこそなの?


まあ、それは置いときまして。


……さっきまでこの子、何を見てたんだろう?

そして今数パック、この子が籠に放り込んだものは……?


それは、魚のアラでした。


……安い!!


見た瞬間の、私の印象。

そこにあったのは、鯛のアラ、鮭のアラだったんですが。

切り身の値段より、圧倒的に安い!!


鯛、鮭なのに!


何でこんなに安いんでしょう?

見た目が悪いからでしょうか?


アラというものは、どうも「切り身を取り去った魚の余り部分」のようですし。

残り部分だから見目が悪く、だから安いのですかね?


でも、鯛であり、鮭なんですよね?


私、鮭は大好きです。

毎日でも食べたいくらい好きなんです。


朝ごはんでは必ず塩焼きの鮭の切り身をひとつつけてもらってるくらいですから。


で、これ。

元から安いのに、さらに今、半額セール中。破格の安さです。

これはもう、買う以外の選択は無いですね。


迷わず、鮭のアラを2パック籠に放り込みました。


いやあ、いい買い物をしましたよ。

形状から考えて、焼くのは厳しそうですが、炊けばなんとかなるでしょう。

そのために、赤だしの味噌を買って帰れば良いですかね?味噌って、生臭さを消す効果があるから、魚介類と相性がいいって話をどこかで聞きましたし。赤だしは確かその傾向がさらに強いんですよね?


未知の食材に手を出すことに、若干不安はありましたが。


……大丈夫。

私と同年代のあの子も手を出した食材ですもん。なんとかなりますって。




部屋に戻ってきて。

今まで一度も使わなかったエプロンを身に着けました。


キッチンを自分で使うのも何気に初めてです。でもま、きっとなんとかなるでしょう。

手順通りに常識に従ってやれば、大丈夫ですよね?


道具類は揃ってますよ。

自分で使うのは初めてですけど。


「さてと」


まず、パックの鮭のアラを鍋に放り込んで、人参と蒟蒻をざく切りにし、刻んだ白ネギと一緒に鍋に放り込みました。

そして水をひたひたになるまで入れます。


で、火をかけました。


そしてそのまま、炊飯器の方に無洗米を計り入れ、水を適量入れて、時間を見ます。

今、16時。16時半くらいにスイッチ入れれば良いですね。


そして、鍋の方に戻ると。


あれれ?あれれ~?


なんか、妙に脂っぽいです。

これは一体……?


見た目、なんかやばそうです。

肌で感じました。


……味噌を入れれば、なんとかなるんでしょうかね?


だって、味噌ってそのための調味料なんですよね?


沸騰して来たので、火を止めて味噌を投入。

赤だし。

普通の味噌より高いんです。お願いしますよ!!


……ん~~~?


ぎとぎとしてますね。

どうみても、ぎとぎとしてます。


これは、どうなんでしょう?


……味は、普通ですよね?赤だし使いましたし。


煮汁を小皿に移して、飲んでみました。


……


………




私は、泣きながら支部の裏庭にスコップで穴を掘り。

鍋の中身を捨てました。


こんな……こんなはずじゃなかったのに……!!!


生ごみと化した鮭のアラの赤だし汁という名のダークマターは、支部の裏庭で肥料になる運命を辿りました。


生臭すぎます。

飲めたもんじゃないです!!そして脂っぽさが最悪です!!

こんなの食べたら、間違いなくお腹壊します!!


きっと、きっとこの鮭のアラが古かったんです!そうに決まってます!

だから今日のことはノーカン!ノーカンです!!


私は決してメシマズじゃない!!メシマズなんかじゃ……!!

私は、今日、料理なんてしなかった!!

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