第6話 旅行開始(FH)

僕らは、インフルエンザで学校を休むことを装うために医師の診断書を偽造した。

1週間休むのだから、伝染病でないとまずいだろう。

書類の偽造に関してはファルスハーツにお願いしても良かったけど、自分でも出来るので徹子と二人分、偽造した。

まぁ、ホントにファルスハーツに頼んでも良かったんだけどね。

結局、ケツモチはファルスハーツの息がかかった病院なんだし。


新幹線に乗った。

指定席にした。

徹子が「一緒に座る場所を確保したい」と言ったから。


で、今、乗車中。

相棒、窓側の席。僕、その隣。

二人掛けの席で、二人で座っている。


動き出した新幹線の中から、窓を楽しそうに相棒が見続けている。

お前、ちょっと本気出して走ったら新幹線より速いだろ。

それなのに、窓の風景が楽しいんだ?


……まぁ、そういう問題じゃない!って言うんだろうな。

こいつ、こんな経験無かったんだろうし。


相棒の格好は完全に旅行気分丸出しだった。

春物の茶色のセーターに、白のシャツとズボン。そして茶色の靴を合わせている。

どんだけ気合入れてんだ。


こっちは法事に行く高校生装って、黒いシャツとズボンなのに。

ちなみに、着替えその他色々な手荷物は、嵩張るので僕がエフェクト「折り畳み」でまとめて持っている。

大荷物持ってると、いざというときに動けないからね。


相棒は外の景色を目を輝かせて見ていた。

仕事の時は情け容赦のない冷徹な殺し屋やってんのにな。

そんなに楽しいのか。新幹線に乗ることが。

笑顔が眩しい。


……


………


僕は相棒から視線を外し、読みかけの本を読むことにした。

医療関係の本だ。

仕事に役立つんで。救命医療の知識があると。


「ねぇあやと、外凄いよ。日本の風景がびゅんびゅん流れていくよ」


お前、ホントに何歳だ。

そんなにウキウキしてるんじゃないよ。

まぁ、初めて乗ったからそうなるのかもしれんけど。


「そりゃ日本を走ってるからな」


住宅だとか、田んぼだとか、コンクリート建築だとか。

相棒の言う通り、どんどん流れていく。


僕には見慣れた光景だけど、こいつには違うらしい。


「東京まで何時間くらい?」


「3時間ちょいじゃないか?」


「すごいね。速いね!」


テンション上がりまくり。お前はもっと速いだろ。

異様に映るのか、周囲の人間がちらちら見ている。


元々、こいつは容姿が相当良いので、それだけでも注目浴びるのに。

新幹線に乗るくらいでここまで盛り上がれる人種って普通居ないから、なおさら大注目だ。


……あまり良くないよな。

何せ、これから僕ら、首都で「賢者の石強奪」という犯罪を犯しに行くんだから。


「徹子」


声を抑えつつ。

耳打ちした。


「ちょっと静かに。見られてるぞ」


そこで我に返ったようだ。

まぁ、こいつ馬鹿じゃないからな。

言わんとすることはすぐ察してくれる。


「ゴメン。ちょっと興奮しちゃった。こんないい乗り物、乗ったこと無いから」


少々バツが悪そうに、彼女は言った。


「想像は出来るけど、頼むぞ」


そこに、車内販売のワゴンが来たので、徹子に「アイス食べるか?」と聞き、頷いたので2つ購入。


「ちょっとあやと!」


で、本を読んでいたら、焦った声で彼女。


「何?」


「これ、メチャクチャ固いんだけど!」


キンキンのカップアイスに、徹子は苦戦していた。

あぁ、知らんよな。はじめてだもの。


「ちょっと溶けて柔らかくなるのを待つんだよ。それは」


渡すときに教えておくべきだった。




そして東京に到着。


「わぁ……!」


これが、東京……!

徹子はそう、全身で言っていた。

どこから見てもお上りさんだった。


「初東京で興奮するのも分かるけど、行くぞ」


僕は徹子に一言声をかけて歩き出した。


「待って!もうちょっと見させて!」


「駅なんてそんなに違わないから」


スタスタ歩きながら。

しばらくすると、追いかけてきた。


新幹線降りた後の駅の様子なんて、そんなに違わない。

東京だから、ってのは特にない。

大阪とあんまり変わらんし。


外に出たら違うけどな。

僕らの場合、死ぬ覚悟が必要だけどさ。


ああ、あと地下鉄も違うか。

東京の地下鉄は、今思うと、怖い。

まるで地下神殿みたいなんだよな。

明らかに他府県と違うんだ。


「もう!」


徹子はすごく不満そうだった。

頬を膨らませている。


そんなに不満か。


「ちょっとくらい待ってくれても!」


「移動しながらでも見れるだろ。でも、そんなに「東京だから!」ってのは無いから。本当に」


今は興奮しているから特別に見えるだけだ。

慣れちゃって、他の新幹線のある大都市の駅も知ると、そんなに特別には見えなくなる。


「……これからどうすんの?」


しばらく歩いて。

ようやく僕の言うことを受け入れて、彼女は聞いてきた。


「とりあえず山手線に乗り換えて、上野で降りてそのままS県コースだな」


驚かれた。


「東京に泊まるんじゃないの!?」


彼女には意外だったらしい。

宿舎、調べてなかったのかよ。情報資料貰っただろ!

完全観光気分で、そういう情報シャットアウトしてたのかお前は。


「宿舎はS県にあるらしい」


この情報を伝えられたとき。

嫌な予感はしていたんだよ。


まぁ、ホテルは無いだろうなと思ってた。

どっか、もっと目立たないところのハズ。


で、前情報ではS県にある築20年の木造アパートが、ファルスハーツの確保している「宿舎」だった。


うん……どんなところなんだろうね?


悪い予感しかしない。




電車を乗り継ぎ、S県に入った。

宿舎のある町内の最寄り駅で降りる。


S県。


東京に近いこともあり、ここに会社を構える企業も多い。

最近、この県をネタにした映画が公開されて、大好評だったっけ。


その映画の中では酷い土地だと描かれていたけど。

別にそんなに酷くない。(まぁ、あれはネタ映画なんだけどね)


で、駅から川沿いにしばらく歩いて。

辿り着いた先に宿舎はあった。


ベランダの位置が、南を向いて無くて。

ボロボロの外壁で。

ドアもなんか、今にも剥がれ落ちそうな。


とても素晴らしい2階建て木造アパートが。

部屋数が上5つ、下5つ。


僕らの部屋は2階の部屋で、中央の部屋。

その左右、真下もファルスハーツが確保している。


多分、壁が薄いから、中で密談した場合に隣に漏れたらまずいって配慮だろう。

おそらく無人。もしくは、ファルスハーツの関係者が住んでるんだろうな。


しかし。


「うわぁ……」


この、しばらくお世話になる宿舎の全貌を確認した徹子の目が、死んでいた。

レイプ目と言って良かった。


それでいて、表情は半笑い。

絶望の表情か。


「……豚どもと暮らしたアパートと一緒だぁ……」


声も死んでいる。


さすがに、彼女が不憫に思えた。

もらい泣きしそうだ。

はじめての旅行で、泊まるところがここかよ!

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