第15話 水無月優子のその後

私は電車で揺られていました。

いつぞやのスカイツリーに行ったときと同じ格好で。

目立たない、少年っぽいイメージの格好で。

鞄だけ、リュックじゃ無くて襷掛けで持てるタイプの大鞄にしましたけど。


S県から東京に出て。そこで新幹線のチケットを買い。

(東京にサヨナラを言いました……)

新幹線でH県に入り。そこから普通電車に乗り換えて。

さらに電車を乗り換えて。


あぁ、すごいです。


電車、1両編成です。


しかも、切符がありません。

車内に料金箱があり、降りるときにそこにお金を入れるのでしょう。


まるでバスですね。

降りるときに、お金を払うシステムだなんて。


電車一本乗り遅れると、1時間待たなきゃいけないシステムですか~。


S県に居たときは、お目にかかりませんでしたよ。

任務で地方に行くときはありましたけど、移動、車か飛行機でしたしね。


すごいですね。日本にまだこんなところあるんですね。


ガタンゴトンガタンゴトンと走る電車に乗りながら。


外を眺めていると。

見渡す限りの田んぼです。


見事に何も無いですね。


ここが、私がこれから住むところですか~


気晴らし、どこでやればいいんでしょうかね~?


なんだか、泣けてきました。


……覚悟の上でしたけど……。


もう、私、ここから一生出られないんだろうなぁ……。


覚悟の上で自分の失敗を霧谷日本支部長に報告したんだけどなぁ……。


でも、住めば都って言うし。

都会と比較したらそりゃ、ショック受けちゃうかもだけど、慣れれば、きっと平気。

最初の数年の辛抱。


それに。


ひょっとしたら、後から開発されて便利になるかもしれないし!!


もしこの辺に大学誘致とかいう話来たら、積極的に応援して、開発されるように仕向けるのはどうかな?

幸い、私はハッキングだとか住居侵入とか得意だし!!


裏工作、お手の物!!


前を、前を向いていこう!!


選挙権が手に入ったら、政治家でも地方に目を向けてくれる人に投票しよう!!

やれることは全部やって、環境を変えていけばいいのよ!


ここから出られなくても。ここの環境から出られないわけじゃないんだし!



そして。



電車が終着駅に着きました。


さすがに終着駅は多少マシでしたけど。

駅前に、ハンバーガー屋さんと、焼肉屋さんと、あと回転ずし屋さんがありました。


私はハンバーガー屋さんで食事を取り……意外に美味しかったです……そのまま、この町の支部に向かいます。


手荷物を入れた鞄を襷掛けで持ち、お店が少なく、田んぼと道路だらけの区域を抜けて。

ポツンと建っている汚い雑居ビルにたどり着きました。


ここが、この町の支部です。


H県T市支部。


構成員。

私を含めてたった2人。


だって、ここ何も起きないので。


人数確保しなくていいんで。


だから、2名なんです。


どういうところか想像つきますよね。


とりあえず待機させておくか要員。


それが、私のこれからのUGNでの立ち位置なんです。


……エリート、だったのになぁ……


涙が零れそうになりました。



雑居ビルのエレベータに入った後。

階数のボタンを、秘密の順序で押すと


『やぁ、ようこそ』


ドアが閉まり、籠の中でオジサンの声がしました。

ここの支部長の、秋月土門さんです。


この人、お姉さんは霧谷日本支部長の親衛隊員を務めるくらい、優秀な方なんですけど。

当の本人は、シンドロームも不明なくらい、オーヴァードとしてはアレで。


なのに、ここで支部長をやれてるの、噂ではお姉さんの七光りらしいんですよね。


あと、セクハラが酷いという話も聞きました。


……気が重くなります。


いやいやいや!!

まだ、本人に会っても居ないのに、噂だけで決めつけるなんて!

そんなの、人としてやってはいけないことだよね!?


私は、自分を叱りました。


しかし。


「今日からお世話になります、水無月優子……クリスタルオーブです……」


籠の中で挨拶をすると


『こんなに可愛いお嬢さんが、ウチの支部に来てくれるなんて。ツイてるね』


……ピキッ


『俺一人だけだった支部が、華やかになるよ」


……ピキピキッ


『ここはいいぞ。仕事無いのに給料はそれなりに貰える』


ピキーン!!


……どうやら。

噂は、真実だったみたいです。


わなわなと震えます。


私これから、こんな意識低い人と一緒に仕事しなきゃいけないの!?




挨拶を済ませた私は、宿舎としてUGNが借り上げている駅前のマンションに帰った後。

その新しい自室で思わず泣いてしまいました。


……ここ。

UGNとしては、完全に「終わった」ところなんだなぁ……。


それが良く分かっちゃった……


これから……ホント……どうしよう……


これまで、オーヴァードとして働くことしかやってこなかったもんなぁ……


幸い、お金は心配無いんだけどさ……

裏切り防止のために、一般的なサラリーマンよりはちょっと上くらいの給料、生涯保証されているし……


どうしようもない喪失感。

私は引っ越したばかりで何も無い部屋で、膝を抱えて、1人で泣きました。


私、からっぽ……




そして次の日。


T市立T高等学校。

私がこれから通う学校です。


市内唯一の高校で、ギリ進学校。

教師がかなり頑張ってるらしいんですよ。ここを進学校にするぞ!って。


この町の中学生は、ここに入れなかったらあの電車で遠くの高校に通わねばならず、勉強は結構頑張っているとか。

T高に入れなかったら終わる、を合言葉に。


……まぁ、嫌ですもんね。

あの電車に毎日乗るってのは。


……ああでも。


あの電車の利用者が増えれば、あの状態、改善されるのかなぁ?


だったら、不合格者増えるのって、むしろプラスなのでは……?


ちょっと、血も涙もないことを考えてしまいます。


「東京から転校してきたんだってね。大変だろう?ここは?」


担任教師の中年男性に教室に案内されながら、私は笑顔で「そんなことないですよ」と相槌を打ちました。

ここで「ええ、まぁ」なんて言ったら、印象最悪ですし。


まぁ、本音はそうなんですけどね。


……はぁ、学校かぁ。

私は心でため息をつきます。


これまでも、任務で数回、潜入したことあったけど、これからはホントに通うんだなぁ。

やっていけるのかな?


これまでは、長くても1か月くらいのスパンでしか、通ってなかったんだよね……

だって、任務が終わったら去るんだもの。


スクールカーストとかいうの、あるのかな?

面倒だなぁ……


まぁ、その気になれば無双できる相手ではあるんだけどね。

私、戦闘員だし。


もちろんやらないけど。


でも、そういう相手だと思えば、例えスクールカーストの問題で面白くないことになっても、平気では居られるよね。

きっと。


不安を抱えながら、私は教室のドアをくぐって


教壇の前で新しいクラスを見渡して


「S県から転校してきました。水無月優子です」


そう、自己紹介をしたときに。


見つけてしまったんです。


平安貴族みたいな切れ長の目。高い鼻。

がっしりした体格。さっぱりと短い髪型。


モロ好み

モロタイプ。


理想の男性を。

運命の人を。


電撃に撃たれたように感じました。


私、左遷されて田舎に飛ばされて良かった……!!

これはきっと、運命……!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る