第12話 対決

その日は、1日早くやって来ました。

予定日は次の日だったんですが。


おそらく、襲撃の可能性を少しでも減らすためでしょうね。


連絡もわりと唐突でした。


呼び出しがかかり、集められ、数時間後に「賢者の石護送作戦」が開始されると。

ちなみに、私たち以外にさらに2チーム、同じ内容の任務を与えられていると、そのとき知らされました。

つまり、3チームのうち、2チームが囮です。


当然、私たちが運ぶものが「本物の賢者の石」かどうかは不明です。

でも、本物を運ぶんだという気概で当たらないといけませんから別に関係ないですね。


「……とうとうやるのね。絶対に成功させるわよ、皆!」


じゅじゅさんが自分の顔を両手で叩いて、気合を入れてそう発しました。

私たちは全員頷きます。


賢者の石はとても重要なアイテム。

決してファルスハーツに奪われてはならないものです。


戦闘服に着替え、覆面までつけた私たちは、アタッシュケースを渡されました。

これに賢者の石が入ってるんでしょう。本物かどうかは分かりませんが。


「私が持ちますね」


それを、サポート隊員のゆりちゃんが持つことになりました。

まぁ、妥当でしょうか。


他の隊員だと、手が塞がってしまうのは困りものですしね。


時刻は夕方。

拠点にしているS県支部から、私たちは窓に特殊加工が入ったUGNのライトバンに乗って出発しました。


全員無言です。

緊張してるんですね。


まぁ、それは私も一緒なんですが。


これまで色々やってきましたけど、この規模の任務は初めてなので。


これを成功させたら、評価絶対上がりますよね。

そしたら、どうしましょう?


この実績を引っ提げて、シルクスパイダー先輩みたいに、養成所で訓練教官するのも良いかもですね。

こんなことを考えてよいのかどうか分かんないですけど。

養成所で、女教官として、年下の有望な、がっしりした男の子と親密になって、ゆくゆくは……とか。


「水無月教官!愛しています!」とか言ってもらうんです。


教官と訓練生との恋……

とてもキュンキュンします。


………


ああ、いけませんね!

そんな邪念は振り払わないと!


絶対失敗できない任務なんですし。


気を引き締めるために、運転手をしている黒伏さんに尋ねました。


「黒伏さん、受け渡しポイントまでの予定時間は?」


「およそ1時間だな」


密室なので大好きな煙草も吸わず、黒伏さんは運転に集中しています。


気を引き締めろよ。人気のないところを通るからな。

どこで襲撃あってもおかしくねぇ。


黒伏さんはそう続けました。


何も悪いことをするわけじゃないから、大きな道路を堂々と通りたいところですが、それだと万一襲撃があった場合、巻き添えでどれだけの死傷者が出るか分かりませんから。

かといって、それを避けるために一般車両を通行止めにしたら、何が行われるのかファルスハーツにバレバレになっちゃいますし。

時間を早めた意味が無くなってしまいます。


だから、仕方ないんです。




ある意味、予想通り。

UGNは賢者の石の護送の日取りを早めてきた。

1日前で良かったよ。

それより前だったら、観光する時間取れなかったし。

そしたら徹子に東京を見せてやれなかった。

そんな惨いことは無いだろ。


今、僕らは人気の無い商店街に居る。

僕も、相棒の徹子も、黒づくめ。

まるで忍者のような恰好をしている。


顔を見られるとまずいから、当然覆面。


仕事だと素顔でやるときもあるけど、そういうときは相手を殺すのが確定事項ってときだけだから。

今回はそういう仕事じゃないし、顔は隠さないとな。


……僕らは、普段は殺し屋だからね。


殺す相手は、選びたいんだ。

意味なく殺すのはなるべく避けたい。


情報によると予定ではここを通るハズ。

襲撃ポイントとしてはここが僕らの条件に一番合致する。


人気の無い商店街。

今は空き店舗ばかりで、無人だ。

なんでも、近くに大型ショッピングセンターが出来たせいで軒並み潰れた結果らしい。


好都合。

ここならいくら暴れても巻き添えは出ない。


やりたい放題だ。


「あやと」


僕の隣の相棒が言う。


「エンジン音、だいぶ近づいて来たよ」


「じゃ、そろそろか」


相棒は、ハヌマーンシンドロームを持つオーヴァード。

このシンドロームは速度の他に、音を操る力も持つ。


相棒は、音の感知については敏感だった。

数キロ先から、UGNの護送車が近づいてきていることを感知し、僕に教えてくれる。


最終確認だ。


「作戦は覚えてるよな?」


僕の問いに。


「もちろん」


全く淀みなく答えてくれる相棒。


「じゃ、頼むぞ」


僕は足元の小石を拾い、ナイフを錬成。

軍用の、ごついやつだ。

それを彼女に手渡した。


「任せて!」


ナイフを握り。

彼女は言った。


きっと、覆面の下は微笑んでいると思う。

僕に向けて。


「あやと、一応言っとくね」


もう数分以内に任務がはじまる、そのときに。


「友達として、愛してるよ!」


「僕もだよ」


僕らはそう、気持ちを確かめ合った。


まぁ、死ぬ可能性だってあるもんな。

一応、言っとかないとな。


絶対に同じところにいけるとは限らないんだし。

地獄は相当広いだろうから。




私たちの車が、寂れ切って、ゴーストタウンと化した商店街に差し掛かったときでした。


やつらの襲撃が来たのは。


いきなりでした。


いきなり、車のボンネットの上に、黒づくめの、忍者みたいな恰好の女が出現したんです。

顔は覆面で完全に隠れてて、見えませんでしたけど。

胸がすごく立派で。


Gカップはありました。


なので、一瞬で「女だ!」って分かってしまいました。


そのGカップ忍者、出現すると同時に、こちらが反応する前に。


手に持った、軍用のごついナイフを振り上げて。


バシュウッ!!


ボンネットに突き立てて、突き破り、そのまま車のエンジンを破壊したんです!


「しまった!!」


黒伏さんは車を必死で停車させました。

エンジンをやられた以上、もう、この車は使えませんから。


停車できなくなる前に、停めないと。


停めた車から、私たちは素早く飛び出します。


場所は、じゅじゅさんがレーザーで天井に開けた大穴からです。

ドアから出たら狙い撃ちにされちゃいます。


大穴から飛び出して、散開。

幸い、攻撃は受けませんでした。


グオオオオオオオ!!


黒伏さん……ヘルケルベロスの雄叫び。


黒伏さんは、飛び出す段階で完全獣化を開始していて。

散開時には、すでに三面六臂の黒いオオカミ獣人に変身を完了させています。


上半身の戦闘服がはじけ飛び、鋭い爪を供えた6本の腕を構えて向き合っています。


少し離れた場所で立っている、二人組に。


1人は、さっき車を破壊したGカップ忍者。

彼女、胸が大きいだけじゃなく、身体のラインがメチャメチャエッチでした。

腹が立つので、ここからはエロGカップ忍者と呼称しましょう。


もう1人は、すらりとした体躯の、高身長男性忍者でした。


男性忍者は言います。


「賢者の石を渡してくれれば、悪いようにはしない」


男性忍者の声。

……一瞬、どこかで聞いたような気がしました。

どこだっけ……?


思い出せません。


「「「聞けるわけねぇだろ。ファルスハーツ」」」


ヘルケルベロスが、その提案を一笑に付します。当たり前です。

そんな真似をしたら、左遷どころでは済みませんから。


「だよねー」


エロGカップ忍者がヘルケルベロスの言葉にそう返します。

……こいつの声も、どっかで聞いた覚えがあります。

ホント、どこでしょう?


思い出せないです。


「じゃあ、しょうがない」


男性忍者はそう言って。


ブンッ、と両手を振りました。


すると。


その握り拳の指の間に、4本ずつ。

計8本の棒手裏剣を握っていたんです。


……こいつ、モルフェウス……!

しかもなんて、速やかで、正確な錬成なんでしょうか。

こいつが錬成した棒手裏剣、その一本一本がとても正確に錬成されているのが、ここからでも見て分かってしまいました。

それを何気なく、一瞬で行ってしまう。それも、ひとつでなく計8本。


……こいつ、只者ではありません。

黒伏さん……ヘルケルベロスも言ってましたね。


「ファルスハーツも選りすぐりを投入してくるはず」って。


困ったことに、その通りになってしまいましたよ。

厳しい戦いが強いられそうです。


「気は進まないが、力づくでいかせてもらう」


ヒュオヒュオッ!!


ヘルケルベロスに向かって再度両手を振るう男性忍者……いや、モルフェウス忍者。

目を疑いました。


モルフェウス忍者がヘルケルベロスに棒手裏剣を投げた!!と脳が判断した瞬間、それらが全て、日本刀になっていたんですから。

おそらく、棒手裏剣を投擲し、リリースする瞬間に、錬成した棒手裏剣に再度錬成をかけて、日本刀に変えたんです。

それで、片手で4振り、計8振りの日本刀を投げつけるという離れ業をやってのけたんですよ。こいつは。


8振りの日本刀の切っ先が、ヘルケルベロスに向かって飛んできます!!


あんなのまともに喰らったら、ただじゃすみません!!

とっさに、彼の前に斥力の盾を出現させ、それを防ぎます。

飛び出すときに魔眼を出現させておいたので、間に合いました。

良かったです。

彼が落ちたら、絶望的状況になってしまうから!


そのときでした。


「センパイ!!後ろです!!」


ゆりちゃんの切羽詰まった声。

私は反応し、とっさに前に飛びました。


その瞬間、輝く何かが私のいたところを薙いで行きました。


前回り受け身をし、自分が居たところを振り向くと、そこには両手を輝かせたエロGカップ忍者が。


……いつのまに後ろに回ったの……?

こいつ、ハヌマーン?あと、エンジェルハィロゥ……?そのクロスブリード……!?


「センパイ!!その女、恐ろしいレベルのハヌマーンです!!最高速度、音速の5倍は出てます!!」


……化け物じゃない!!

そんなの、どうしろっていうのよ!?


「私はハヌマーンの視力でなんとか目では追えますけど、先輩には無理です!!私の指示に従ってください!!」


このエロGカップ忍者……なんて奴なの……!?

魔眼を魔眼槍に変換し、それを握りしめながら。

彼らに勝つにはどうすればいいか。それを、私は今までの経験を総動員して考えたんです。

この戦いが、私の未来を分ける。その予感があったから。

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