失敗

池ぽちゃ


小さい生き物たちは手遅れになると、ほぼ取り返しがつかない。まず人間より華奢にできているから物理的に壊れやすい。


メダカは耐性が強い方だが、できることはしておきたい。


オスの水合わせを30分かけて行いながら、ガラス越しに会わせて、興味を持ってもらってから、もしくは互いが落ち着いてから放そうと、とにかく時間をかけることが頼りだと考えた。


手がすべった。


ゆっくり沈めるはずだった冷茶碗。意外に水が深く、茶碗からオスが溢れて、予想していたはじめましてもこんにちはもなく、メスの前になだれ込むように登場してしまった。


存在がこうも露見してしまっては、もはや私の出る幕はない。


すまんっっ(両方に)と思いながらフェードアウト。


いつかのメスのように、オスメダカは犬と化した。


「ここはどこだっっっ!!!」


自身の置かれたフィールドの確認作業が慌ただしく始まり、メスの存在などは眼中になく、ぐるぐる鉢の周回軌道を走る衛星になった。


その狼狽ぶりは気の毒なのだが、目に入っていてもそんなこと関係ないらしいメスは、乱入して来た珍客に怒り心頭な様子。

壁を嗅ぎ回るオスを追いかけ回し、歯のない口でかみつき始めた。

「そこも、そこも、あたしの部屋だから!」


触るなっ、出て行けっ、なんなのよあんたっ。


察してやれって! むりか! 


激しい攻撃を繰り返すメスを硝子碗にすくって、しばらく放置。

オスが鉢のなかを調べ終わるのを待ってみた。これ、長いんだよなーいつ済むかわかんないんだよなー。(経験則)

微妙にメスの時とは動きが違くて、個体差があるのかなぁ、と思った。ちょっと偏執的で神経質かもしれん。


メスを戻しても、やっぱりどちらも興奮が収まらない様子だったが、日が沈んで暗くなって来ていたから、彼らの動きは鈍くなっていく。


表面的なことじゃなくて、相性を見分けることに集中しようと思って、とりあえず勝負は明日に預けた。


翌朝、いつもなら水中を勝手に泳ぎ回っているメスの姿があるはずなのに、見える範囲に誰もいない。

殺し合ってたらどーしよー(メダカはそんな凶器持ってないです)っっ


恐る恐るめくった蓮の葉の下で、並んで水中静止泳法してて、一晩の間に何があったのか知らないが、仲良しになっていた。


魚って……。




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