Uranglasは《暗いところ》でしか光らない

「落とし物、ですか」「──いえ。宝探しを」
仕事に疲れた高橋朗は夜の海岸線でウラングラスという骨董品のかけらを捜すことを趣味としていた。そんな彼に喋りかけてきたのはミナと名乗るうら若い女。彼女は彼の骨董品捜しに興味を持ってくれた。
月に一度、新月の晩にこの海岸で逢う約束をする。
暗がりゆえに顔は視えないものの、喋りながら海岸を探索するうちに彼女の家庭の事情がわかってくる。なんでもミナは一日中家族の介護と家事に忙殺されていて、こうした夜の散歩だけが唯一息の抜けるひとときなのだという。朗はそんな彼女を憐れみつつ、何処か昏い優越感と好意を擁くのだった――……

光の絶えた新月の夜にだけ捜しあてることのできる、ウラングラスのかけら。それはあたかも昏いところでだけ視える愛や幸福の象徴のよう。何処までも暗い海浜と、そこに埋もれた光の残骸。小物のひとつひとつが暗喩になっていて、何度も読みかえしながら「ああ……」と感嘆の息を洩らしました。
美しく緻密な文章と、綺麗ごとだけでは済まない「大人」というもの。読みこめば読みこむほど、著者さまの手腕に呻らずにはいられなくなります。どれだけの経験を重ねてこられたら、こんな複雑で、実在感のある人間が書きこめるようになるのでしょうか。

静かな小説なのに、だからこそじわじわと、昏い浪に心を削られるかのように圧倒されます。
読まなかったらぜったいに損です。
是非とも、ふたりの関係の結末をあなたの眼で確かめてください。そうして視えない部分を想像し、一緒にこの浪に揉まれましょう。

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