12 合格発表・彼女との未来

 初めて手を繋いで下校した翌日……


「おはよー」

「あ、だいちゃんが来たっ!」


 朝のあいさつもそこそこに、教室の入り口を入り切らないうちにクラスの女子達に囲まれる。ここ邪魔じゃないですかね? 大丈夫? それに、


「(いつの間に『だいちゃん』なんて呼ばれてたんだよ?俺)」


 俺は陰キャって訳でもないし、選択的ぼっちでもない。なのでクラスの女子とは普通に話くらいはする。佐野によると女子達の間で俺の名前はそれなりには挙がるのだが、友達としての好きとか〝いいひと〟で片づけられるらしい……俺、泣いてもいいよね?


 そんな俺が、今日は休み時間の度に女子に囲まれて絶賛困惑中です。

 そして今は、午前中の授業が終わったところ。あのー俺、パンを買うのに購買に行きたいんですけど。なんか集まる女子が時間毎に増えてない!?


「ねーねーだいちゃんって、あの3組の円谷さんと付き合ってるんだって?」

「昨日、手を繋いで一緒に帰るとこ見たって人がいるけど本当?」


 あーやっぱ見られてるよね。てか朝から同じ質問何度目よ? と、思ったら他のクラスの女子も混じってる!? そりゃ集まる人数が増える訳だ。

 

 彼女達の質問に答える度に、女子達がキャーキャー盛り上がって……ハーレムかよっ!? なんてセルフツッコミなんてしてたら、突然背後から突き刺すような絶対零度の冷気にぶるっと体が震えた。

 恐る恐る振り向くと……そこにはテレビから這って出て来たような黒髪の……って、あれ? くるみ?


「お弁当作って来たからアキくんの教室で一緒に食べようって思ったんだけどっ!アキくんは女の子達と楽しくおしゃべりするのが忙しそうだし要らないかなっ?」


 いや、要ります要ります。食べたいです、食べさせてください。くるみ様、女神様。って、あれ? 今日は女神様じゃない?

 お弁当は食べたいんですが、それよりも気になる問題としてなんで今日は眼鏡なの? 周りの女子達も「誰?」って反応になってるでしょ?

 一緒に来た佐野も苦笑いになってるし、そっちのクラスでも朝から一騒動あったんじゃない? 眼鏡かけて髪下ろして概ねすっぴんのくるみって、ほぼほぼ別人だからね? ほらみろ。女子達がひそひそとし始めたじゃないか。


「昨日円谷さんと仲良く手を繋いで帰ってたのに、今日は別な子とお昼ご飯?しかもお弁当まで作って来たみたいよ」

だいちゃんってそんなキャラだっけ?てか、そんなにモテたっけ?」

「まぁでもサイテーだよねー」


 おい。聞こえてるからな! 悪かったなモテなくて!

 くるみは、昨日の一件があって目立たなくしようと思ったらしい、気持ちはありがたい。気持ちはありがたいんだけど……なんかズレてないかな? 何? 恋愛方面になるとくるみも案外ポンコツ風味になるの?


 そのあと佐野が、くるみの眼鏡外して髪を後ろからちょっと持ち上げて見せたら「おー」ってなって、昼休みは佐野のイメチェン講座になってたな。それを俺とレイはお互いのカノジョ弁当を食べながら、えも言われぬ幸せな気分に浸って眺めてた。


 今日は二人で堂々と図書室で勉強をしての帰り道(図書室でも眼鏡バージョンのくるみの登場にちょっと騒ぎになったのは言うまでもない)今日の俺は一大決心をしてくるみの隣を歩いている。

 昨日は手を繋ぐイベントだけでドキドキしていたが、今日は俺の方からもっと恋人らしい繋ぎ方で望む所存だ。

 

 すーはー……すーはー……。よし! 落ち着け落ち着け! くるみに拒絶される筈はないんだ。と、思ってもなかなか踏ん切りがつけられない。やっぱり明日でいいやって日和ったところを見透かしたかのように、突然手の指の間にくるみの指が絡みついてきた!?

 もう、自然にするっと。告白の時もそうだったけど、いざとなるとくるみの方が度胸据わってるよなー……。

 恋人としてレベルアップした手の繋ぎ方をして歩く俺たち


「なぁくるみ」

「うん?」

「俺が最初に好きになったのは『野々原さん』なんだよ」


 野々原さんかあ……まだ先月か、先々月くらいの話なのになつかしい感じがする。

 何を言い出すんだろうって表情かおでこっちを見上げるくるみ


「うまく言えないんだけどさ。俺が最初に惹かれて好きになったのは『野々原くるみ』の方でさ、そっちのくるみを学校の野郎どもには見せたくないってゆーかさ」


 俺は何を言ってるんだろう? 顔も熱いし、頭もオーバーヒートしてるらしい。俺の言ってる事って独占欲丸出しの非現実的な話だ。


「……。ばか」


 二人で真っ赤になって俯いてしまった。やっぱり言うんじゃなかった。


 駅に着いてくるみを見送ろうと手を放そうとした時、ふと思い出して駅前の花屋に目を向けた。くるみも同じようにそちらに目を向けて繋いだ手を放さず更に力を込めてきた、改めて何かを決意するように。


 それからの俺たちは、連日人目もはばからず、と言うか憚る必要がなくなった事によって二人で毎日図書室で勉強を続けた。俺たちに自覚はなかったけどナチュラルにイチャついてたらしく「お前らがいると気を取られて勉強にならねーから来んな!」とか「爆ぜろ!」とか言われる時もあったが。


 年を越してのセンター試験。くるみの志望校判定は微妙だったが、俺が入学する予定の大学は二次試験の割合が高い。まだ時間はある。


 

 それから若干の時間の流れのあと、それなりに暖かい日もあるようになったある日。それでもまだまだ寒い3月初めに、俺たちは大学の合格発表に来ていた。ネットで確認できるご時世だけどそんなに遠い訳でもないし、発表の臨場感を味わいたいと現地まで赴いた。

 

 いよいよ掲示板に結果が張り出される。くるみが受験票の番号を探す。俺も一緒に数字を追う……が、くるみは俯いて探すのをやめてしまったようだ。俺は何度も何度もその番号があるはずの場所を確認したけどくるみの番号は無かった。

 二人で一緒に泣いた。色々な事が頭に浮かんでは消える。くるみが泣き終えるのを待って、


「よし。今日から勉強しよう。たぶん2週間ないくらいだ」


 と、言葉をかけて励ます。そう、くるみは後期試験にも願書を出しておいたのだから。


「気持ちを切り替えて行くぞ!」

「うん」


 涙を拭いつつもくるみは力強く応えてくれる。俺自身も気持ちを切り替えて一緒に頑張らなきゃな。


 

 三寒四温とはよく言ったもので、昨日は冷え込んだものの今日はぽかぽか陽気の3月下旬。朝は相変わらず寒いけど、日中は過ごしやすい季節だ。俺たちは再び大学の合格発表の場に立っていた。

 

 そして今、コートを脱いだ俺の腕にくるみは抱きついて泣いている。


 俺には今日のこの日に確信があった。

 試験に落ちたくるみが、ようやく合格した時の発表の場……それが俺たちの始まりだからだ。


 ただし、あの時と違う事が一つあるとすれば、腕に当たる柔らかな感触にそうドギマギしなくなっている事だろうか。


 俺たちは、これからも何度となく壁にぶつかっては乗り越え(時には迂回するかもだけど)大人になっていくのだろう。

 「自動車教習所の試験に落ちたくらいで泣いてたよなー」なんて飲み会の笑い話になっている未来に思いを馳せて、泣いてるくるみの体を抱き寄せながら頭を撫でるのだった。



 それから季節は巡り、何度目かの春を迎えた頃……


 突然ですが、私の名前は『野々原唯』と言います。以後お見知り置きは特に必要ありません。この春で大学生になりました。

 彼氏ですか? 多分いないです。今私の隣にいるのは幼稚園からずっっっと一緒の幼馴染……と言うよりかは腐れ縁と言った方が正しい男の子です。このばかいまだに「初恋の幼稚園の先生の事が忘れられねーんだ」とか言い出す時があるので、その度に頭を引っ叩いてあげてます。


 その幼稚園の先生(正確にはその頃はまだ先生ではなかったけど)とは、私の従姉いとこのお姉さんの事なんです。お姉さんの当時の彼氏から「マセガキ」とよく言われてたんですが、マセガキどころか超ヘタレです。

 だいたい休日はどちらからともなく殆ど一緒に過ごしているのに、何もしてこないどころか何も言ってもこない、あまつさえ都合が悪くなると初恋話に逃げる信じられないくらいのヘタレ加減です。


 そのお姉さんは訳あって高校時代に私と同じ苗字である野々原になったのですが、大学を卒業するとすぐにまた苗字が変わってしまいました。なんか奈良とか鎌倉で座っていそうな、そんな珍しい苗字です。

 当時の彼氏、と言ったのはお姉さんの彼氏が変わった訳ではなくてですね、今は彼氏ではなく旦那さんだからです。

 

 旦那さんは大学を卒業して県の職員さんになりました。大学に入学してからやりたい事ができたそうですが、今時は県の職員さんになるのも狭き門とかで夏休みも大学に通っていたようです(夏休みにどこにも連れってくれないってお姉さんが愚痴ってたので)

 旦那さんは異動すれば偉くなれるのに、それを断って福祉の課で幼稚園とか小さい子の係をしてるようです。何かに目覚めてしまったのでしょうか?

 

 あ、そのお姉さんも私のおうちでもある幼稚園で今は先生をしてます。

 お姉さんも今はお母さんになって、今ちょうど年長さんに自分の娘がいます。年長さんの頃の私の次くらいには可愛い子です。旦那さんの方に似なくてよかったねと、皆んな思ってるようですが誰も口にはしません。それと……


「おーい、そろそろ時間だぞ」


 おっと、私は今、ヘタレと教習所に来ていたのでした。お兄さんとお姉さんが出会ったうちの近所の教習所。

 今日は初日の適性検査の予定です。


「第一教室だよね?」


 と、言いながら彼の横に並び立ちます。

 さて、私たちにとってはどんな教習になるのでしょう……。


☆☆☆☆☆


 ここまで読んで下さった皆様、本当にありがとうございます。


 当初、5話くらいで一気に伏線を回収して完結する予定だったのですが、だらだらと文字数が増え己の構成力のなさに呆れてしまってます。

 

 これ以上大学生編とかまで引っ張るとタイトルとも離れてしまいますし、一応の完結とします。

 今後、SSを少し書いて完結済みにするか……いつの間にか完結済にしてるかも知れません。


 加筆修正や再構成して他のサイトに計画的に連載しようかとか、いろいろと考えてはいますが自分が何をしたいのか、自分自身に対する構成力も(ry


 最後に改めてありがとうございました。

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