4 学年アイドル・彼女と接触事故
どうしてこうなった?
学食のテーブルの向かい側には、レイとそのカノジョが肩を並べて座ってる。そう、レイは彼女持ちなのである。
1年の時から長身のイケメンで目立っていたにも拘らず、ちゃっちゃと同じクラスの女子と付き合い始めたので、見知らぬ女子からの告白イベントは最小限で済んでるらしい。最小限であってゼロではないところがおかしいが。
おかしい女子と言えば、ここにも一人現在進行形で存在しているのだが。
俺は今、学年アイドルとこれまた肩を並べて座っている。
微笑みを
ハーフなの? って思わせるような色素の薄い透き通るようなブラウンの瞳と、編み込みでハーフアップにした髪がより女神感を醸し出す。
「大仏と女神が並んで座ってら」
いや、全然うまくないからね。その、うまいこと言ってやったみたいな得意気な顔やめてくんね?
テーブルの下で軽く蹴ってやると、蹴り返されて地味に痛い。痛いってことはあれだ、この間の隣に座る可愛いカノジョは妄想だったが、今隣に座るアイドル様は現実のようだ。
事の発端は昼休みの初めに遡ったりする。
午前の授業が終わってもぼーとしてた俺に、
「なぁアキ、今日の昼はどうする?俺は今日アイツと学食なんだが」
「へいへい。仲良くな」
アイツとはカノジョの事だろう。うーんどうすっかな、今日は弁当持って来てないし購買でパンでも買ってくるか。
ぼーとしてた分スタートダッシュが遅れたな、もう人気のパンは売り切れだろうか。それでも急げばまだマシななのが残ってる可能性はあるか。
急いで教室を出たのが悪かった。
「(やべっ!)」
廊下に飛び出す瞬間、視界の隅に女子の姿が映った。
「きゃっ!「うおっ!」」
肩や肘で怪我させないよう咄嗟に体を捻って避けた際、二の腕が彼女の比較的柔らかな部分に押し付けるような形になってしまったのは致し方ない事だと思う。事故だし仕方ないよね?
心なしかこの感触に妙に覚えがある。最近触れた事があるような……って、それより早く謝んなきゃ。
「悪い。大丈夫か?」
ぶつかった女子に謝りつつ近付こうとしたら
「ちょっとアキ!何すんのよっ。もし、ルミがタマゴだったら今頃割れてたわよ!」
と、後ろから怒鳴られた。
「(いやいやレイのカノジョさんや、タマゴは廊下を歩いてたりしませんぜ)」
そう、後ろから罵声を浴びせてきたこの女子こそレイのカノジョ
ちなみに夏真っ盛りの名前からして夏生まれかと思いきや、そんなことは全くなく寧ろ冬生まれ。あれか?寒い時期に夏が恋しくなって、部屋を暖房でガンガンに温めてアイスを食ったりするあのノリで名づけられたのか?
「あ、佐野の友達だったか?すまん、急いでてうっかりした」
改めてぶつかった子に向き直り
「ホントごめんな。怪我してないか?」
と、声をかけてギクリとする。
やべーこの子学年アイドルの
何も返事をしてこない円谷。あ、そんなに怒ってる? ショック? そりゃそうか。
もう一度誠心誠意謝罪しようと円谷を見たら……あれ? なんか固まってる? 両手を口に当てて大きな瞳をそれ以上に大きく見開いてこっちを見ている。
んー? 怒ってるとかとはなんか違うような。
しばらくして再起動した円谷が佐野に何か耳打ちしたと思ったら、学食に連行されて今に至るというわけだ。
「ねぇ、私も『アキ』って呼んでいい?」
「え?普通に嫌だけど」
「なんでっ!?」
なんでってねぇ。そんな間柄じゃないでしょ。俺今日初めて君と話したんだけど?そりゃ俺の方は一方的に知ってたよ。佐野とツートップって1年の時から有名だったからね。
一時期は学校一可愛いって言われてたんじゃないかな。進級して下級生にも可愛い子が入学してきてるんで、今も学校一かは知らんけど学年トップは揺るぎないし。
逆に俺のことは知らなかったでしょ? 文系クラスって意味では同じみたいだけど、クラスが一緒には一度もなったことがないし。
俺はと言えばイケメンでもなく、さりとてブサイクでもない。背も特別高いわけでもなく、低いわけでもない。リア充グループに絡むほどではないけど、さりとてぼっちでもない。
要するに全ておいて中庸なのだ。たぶん二年後に成人式で再会しても「あ、こんなヤツもいたっけ?」てな反応されるような自信がある。
なのに、リア充って生き物はちょっと話をしたらもう友達なの?それに友達の事は名前呼びするルールでもあんの? 苗字呼びを提案すると、
「でも『かいぶつくん』って呼ぶのもなー」
コラコラ誰が『かいぶつくん』だ! 『だいぶつ』だよ! ってそれも違うけど。腕なんか伸びないよ?クルクルって顔も変わらないからね?
「普通に『おさらぎ』って呼んでくれ、円谷さん」
円谷さんってとこを食い気味に言ってやった。
「桃夏もアキって呼んでるよ」
「佐野は1年の時同じクラスだったし何よりもレイのカノジョだ。そもそも佐野が俺をアキって呼ぶのもレイの影響だろうしな」
佐野は特別なんだ。と締めくくると、
「じゃあ私もあなたの特別にして」
言い方!
しれっととんでもない言葉をぶっ込んできた!?
あの? 周りが会話をやめて聞き入ってるの気づいてます? お嬢さん。
「いや、さっきの特別ってのは別枠って意味だから。やめてくれないそういうの」
「さっきぶつかった」
あ、それはゴメン。
「胸触られた」
だから言い方! って、これは言い方でもなんでもないわ。そのまんまだわ。周りで聞き耳を立てていた奴らが引いてるし。あ、そこの女子、スマホでダイヤルし始めないで。通報はカンベンして。
マジで人生終わるから。下手すると大学の合格も取り消されちゃうから。
冷汗が噴出して背中が気持ち悪いくらいにぐっしょりだ。
気づいたら俺は学食から逃げ出していた。
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