2 再会・彼女の腕前
俺は今、運転席に座りクルマを発進させようとしている。助手席には可愛いカノジョがランチの入ったバスケットを膝の上で抱え……なんて事はなく、今日試験を担当する教官が座っている。まー普通におっさんだ。
もうね、そんな妄想でもしてないとね今にも吐きそうなのよ。俺ってメンタルこんなに豆腐だったんだねって初めて知ったよ。いや、豆腐にもなってないかも。豆乳から豆腐になりかけの何かってくらいグダグダだ。
しかも、なんで後ろの席にヒトが乗ってんの? 見学? 乗ってるの女の子だし余計に緊張するじゃないか。聞いてないよ?
いや、言ったのかも知れない。朝のうちに今日試験を受ける全員に、注意事項とかの説明が30分くらいあった。あったのだけど説明を担当した教官が、なぜか笑かそうとしてきてウザかった。そしてスベる。そんなにスベったらスリップ事故ですよってくらい盛大にスベる。場が温まってるどころか、皆緊張で冷え込んでる空気をものともせずにドヤ顔で押してくるメンタルは見習いたいものだが、緊張してるのと、そっちに意識を持ってかれて内容があんまり頭に入ってなかったりする。
全身のいろんなところに変な汗をかきながらも、大きなミスもなく走行を終えた。ふーっとため込んでた息が吐き出される、もしかすると俺ずっと息するの忘れてたかも。口の中はカラカラだし胃も重痛い。
少しの達成感を感じつつクルマから降りて、緊張から解放された軽い足どりでクルマから離れよう……
「
……として呼び止められた。
自分の運転が終わったことによって、多少余裕がでてきたところで理解する。後ろに乗ってるのは次に運転する人なんだなと。じゃあ最後の人は誰も後ろに乗らなくて緊張しなくて済むのかなって思ったら、必ず誰かは乗る決まりらしい。で、もう既に運転が終わったけど残ってる俺が乗れということね。
「それじゃあ次は
試験を担当する教官から声を掛けられ、先ほど俺の後ろに乗っていた子が運転席で準備をする。
野々原さんって言うのか……ん? この子、この間談話室で泣いてた子じゃあ?
あの時のあの子は俯いていたし、そんなに近くで見たわけじゃないけど、艶のあるセミロングの黒髪、今かけている眼鏡もあの時膝の上で握ってたものだと思う。たぶん。
あまり後ろから見てたら緊張しそうなので、窓の外でも眺めていようか。
ガタンガタン……ぎゅ~ん……時にガックンガックン……ゆ、揺れる。とにかく揺れる。縦にも横にも激しく揺れる。こりゃ窓の外を見てる場合じゃない、しっかりと前を見て掴まってなくちゃ身構えができない。こんだけ揺らして運転するほうが難しいんじゃあ?ってレベル。さっきとは別な意味で吐く。朝飯食ってこなくてホント良かったわ。
S字カーブの狭い道路に入ってようやく揺れも収まったので、窓の外を再び眺める。学生の内はクルマは持てないだろうし普段の足はバイクもいいなあと教習中のバイクを見ていたら、コツンと体に軽い衝撃を感じて前を見る。
「!??」
そこに道路はないよねってところにクルマが止まってる!?
野々原さんは何度かバックをしたりして修復を試みるが、あせっているのが丸わかりでわかってやってる感じがしない。もう、目がぐるぐるって渦巻きになってる(ような気がした)
あれ? やり直しのバックって回数制限があったはずって思って野々原さんを見ると、どっちにハンドルを動かしたらいいのかパニックになって今度は目がバッテンになっていた(ような気がした)
ここはハンドルを動かさないバックが正解だと俺の野生の勘が告げている。いや、野生の勘っておかしいけどね、自分もバックの方法がわかってないってことだな。うん。
「頑張れ!頑張れ!まっすぐバック一択だ!」と、心の中で念じる。掌に爪が食い込むくらいこぶしを握って応援してしまう。
「大仏さん。黙って乗っててくれるかな?」
と、注意されて我に返る。
おうっふ。実際に声に出てたらしい。やべー、なんか減点とかになんの? とか思っていたら、野々原さんが後ろに向かって小さく頭を下げたような気がした。
元より野々原さんは実力はあったのだろう。緊張で硬くなっちゃっただけならしく、S字を抜け出してからは吹っ切れたように素晴らしくスムーズに運転できていた。もしかすると俺より上手い?
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