3.5 冬のスイーツ・彼女の報告

 また時系列的には過去の話になっちゃいますが、閑話と言うか幕間の話を挟まさせて下さい。


☆☆☆☆☆


「えーっ?男の子の腕に抱きついたー!?」


 自分の声に驚いて思わず口を押さえた。漫画の一コマだったら窓ガラスにビリビリって効果音が書き込んである程度には大声だったかも知れない。ジェラートのショーケースから身を乗り出して店員さんがこっちを見てくる。なんかすみません。


 今日は日曜、くるみからの誘いでジェラート屋さんのイートインスペースにいる。いや、ジェラート屋を希望したのは私なんだけど、何故にこの寒い時期にジェラートなのかと言うと食べたかったからと言う他に理由は無い。

 暑い季節だったら混み合っているだろう日曜の午後の店内に今は私たち二人しかお客さんはいない。まぁでも、私たちと店員さん以外は誰もいない空間だとしても、先程の私の声は大き過ぎただろう。


「ちょっと桃夏っ!」


 向かいに座るくるみも焦ってるようだが私に大声をださせたのは他でもない、くるみアンタなんだけど。

 くるみが腕とは言え男の子に抱きつくなんてちょっとした事件だ。いや、大事件だと言ってもいい。


「S字には魔物が棲んでるんだよ」

「は?」


 思わず素で冷たい声が出た。唐突に何を言い出すの? この子は? 元来くるみはこの手の冗談を言う子ではない。実際に真顔だ。


「だって、練習だとちゃんと通れるんだよ。そりゃちょっとは苦手だけどさ」


 どうやら、そのS字とやらが苦手らしい。

 でも、練習で通れて試験だと通れないって、それって魔物が住んでるのはS字じゃなくてくるみ自身になんじゃ? と言う言葉は口にはしないでおく。


 だいたいS字って何? S字状のカーブ? そこに棲んでる魔物って蛇みたいなヤツ? 爬虫類が超苦手な私は蛇か何かの禍々まがまがしい化け物を想像しちゃって自分の体を抱いて身震いした。


「ほら、やっぱり今日みたいな寒い日にジェラートなんて食べるから余計に寒くなるんだよ」


 いや、寒いんじゃなくてね。実はそれもくるみのせいと言う言葉も口にしないでおく。


「でも、くるみって運痴って訳じゃなかったよね?」

「まーそうかな。スポーツ万能って訳でもないけど。でも、運転って運動神経関係ないみたいよ」


 ふーん、そうなのか


「うーん。あと、くるみって堅実って言うか几帳面なイメージあるから確実に覚えて運転しそうなんだけどな」

「あー几帳面さって運転にはマイナスみたいなんだ」

「えー?几帳面な方が正確な運転できるとかじゃないの?」

「なんて言えばいいんだろ形にこだわっちゃうって言うか、ドコとドコを合わせようってなっちゃって全体を見れなくなるって言うか、何度も注意されてる。あ、でも安全に運転するには几帳面な方が向いてるらしいんだけどね」


 え? 几帳面さって運転には向いてないけど安全運転には必要? 何その禅問答みたいなの……と、思った時何故か割と大雑把な性格のカレの無邪気な笑顔が浮かんだ。

 あーなるほどわかったかも。カレなら上手にクルマを動かしそうだけど安全運転するかって話になると確かに疑問だ。調子こいてどこかにぶつけそう。

 カレのそんなとこにはイラっとする時もあるけれど、そんなところも含めて好きなんだからしょうがない。でもアレだ、将来子供を乗せて運転する時は注意させなくちゃ……と、そこまで考えた時ぼっと顔が熱くなった


「(こ、子供って何考えてるの?私!?)」


 熱くなった顔を手でパタパタ扇いでいると、くるみが不思議そうに顔を覗き込んで来て


「さっき寒がってて、今度は暑いの?体調大丈夫?」

「く、くるみのせいだよっ!」

「なんで今私怒られたのっ!?」


 あー今度は実際に言葉が口に出ちゃったよ。くるみ的には理不尽だろうけど私的には一周回ってくるみのせいなのだからしょうがない。

 ま、私の事はおいといて。


「それで、連絡先とかは交換したの?」

「えー?そう言う話はしてないよね?私」

 

 そうなの? でも、仮免取れた喜びとか? その抱きついたのが単なるハプニングってだけならさ、翌日わざわざ呼び出してまでする話? 教習所に通ってるのが内緒だとしても学校で話すくらいは出来るよね?


 試験の時にアドバイスを貰っただけで好きになっちゃった……なんて、そこだけを聞くとチョロいにも程があるって感じだけど、くるみにとっては救世主に見えたんだろう。

 その後の発表の時のは吊り橋効果? ……は、違うような気がする。じゃハロー効果? ……も、ちょっとだけ違うか。感動を共有した人って感じ?


 特定の異性が気になるきっかけなんて些細なことのような気がする。

 私だってカレとは席が隣同士になったてのが初めっちゃ初めだしね。世のカップル全部がドラマティックで感動的なきっかけで付き合い始めてたら、毎日そこらじゅうで大変なことになってる筈だ。もちろんそんなことにはなってはいない。


「でも、ちょっとは気になってるんでしょ?」

「本当にそう言うんじゃないから」


 自分で気が付いてないだけだと思うよ。今のくるみって恋する乙女の顔してるからね。でも今後も会えるかは教習所での偶然頼りかぁ……


「ちなみに教習所のくるみって眼鏡の地味バージョンだよね?」

「その言い方も酷くない!?悪意を感じるんだけどっ」

「で、その男の子ってどんな感じなの?イケメン?」

「イケメンさんって感じではないよ。うーんなんて言うんだろう?言葉では説明出来ないかな、あんまり外見的な特徴がないって言うか」

「何それ?」


 それを聞いて一人の男子の事が思い浮かんだ。外見の特徴は特にないけど友達付き合いをしてみると気の良さがわかるカレの友達。

 アイツならくるみのことも外見だけじゃなく好きになってくれそうだし、くるみにもカレシが出来ればみんなで遊びに行ったり楽しいだろうなと、何度か紹介しようとしたけど男子が苦手なくるみには話の時点で断られてる。


 そう言えばアイツも教習所へ通ってるってカレが言ってたけど、ふふっまさかね……


☆☆☆☆☆


 くるみ視点を途中に挟ない方が流れが良い気がしまして書かなかったのですが、あとから桃夏視点の形で書いてみました。妙な順番になってしまい申し訳ありません。

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