10 進路変更・彼女の不覚
「俺もくるみのお父さんの花屋を手伝いたいんだけどさ」
「えぇ!?」
くるみが目を大きく見開く、たたでさえ大きな瞳なのにそんなに大きく開けたらコンタクト落ちちゃうよ。
「ダメかな?」
「いやダメってことはないよ。普通にありがたいし……けど……えぇ!?」
うん。花屋を手伝うとなったらお父さんにあいさつは必要だよね。
「へー……アキ、くるみのお父さんに挨拶するんだー?くるみのお父さんってめっちゃ怖いよ。大丈夫?剣山で叩かれるかもよ?」
いや、剣山で叩かれるって、叩かれるだけで済まなくない? 刺さらない? 頭から血ぃ流してる自分を想像しちゃったからね!?
「ちょっと桃夏っ!お父さんはそんなことしないよっ!だ、大丈夫だよアキくん」
佐野のは冗談だとしても、
「なぁ花屋の手伝いってアキは何すんの?店番?むさ苦しい男が店番すんなら円谷の方がよっぽどいいんじゃねぇの?」
レイがピザを食いながらフォークで俺の方を指しながら尋ねてくる。
「花屋って、店で花売る以外に手伝う仕事なんてあんのか?」
街の花屋さんってイメージだと、まーそうだよな。でも、トラックやワゴン車で外に出る仕事だって結構あるし、それをメインにしてる花屋だってあるんだ。
「結婚式場とかイベント会場とかにスタンドの生花って見たことないか?」
「あーあの豪華な花か」と、思い浮かべるように若干のアヒル口になって何度か頷く。男のアヒル口って需要ないからヤメレ。いや、おまえがやるとちょっと可愛かったりするから余計に腹立つわ。
レイが俺の方を向いて話してる隙をみて大量のタバスコをピザにかけながら佐野が
「
「えー?そうだっけ?前に誕生びっ!?ヒィィィィ!」
ご愁傷さまです。アヒル口がたらこ唇になってんぞ。いいぞぉ!もっとやれ!
「あ、アキくんがお父さんに会ってくれるって言うなら私は……嬉しいよ」
いや、お父さんに会う事の方がメインじゃないんですけど、わかってます? それとそんなにもじもじして照れ顔で俯かないで。俺までキュン死しちゃうから。
「あともう一つ提案があってさ、俺も花屋を手伝うしくるみも大学行かないか?」
照れ顔から一転「えっ」ってなるくるみ。
「俺、専攻が法科の予定なんだけど、法律家を目指すって訳でもないんだ。なんとなく消去法でさ」
とりあえず大学行ってやりたいこと探すってやつ?
「アキらしいっちゃアキらしいな。覇気のない」
「うるせ」
わっかてるよ。ちょっとは気にしてるんだからな。タバスコ増し増しすんぞ? 特にやりたい事ってのがないんだから仕方ねーだろ。難関大受験する奴もそれ自体が目標になっちゃって、いざ合格して大学行ってみてもやりたい事が結局見つからなかったなんてよく聞く話だ。
「くるみみたいに目標をしっかり持ってる人に大学行って欲しいんだ。俺の勝手な押し付けなのはわかってるんだけどさ」
うん。と、くるみは話を聞いてくれている。
「別に短大が悪いってことは全くなくてさ、でも、大学だったら幼稚園の先生だけじゃなく、小学校の先生とかにもなれるし、それに……「あのさ、アキ」」
と、佐野が俺の言葉を途中で遮る。
「アンタさっきっから色々と言ってるけど、実はくるみと同じ大学に行きたいだけなんじゃないの?」
……。君のような勘のいい子は嫌いだよ。
また顔が熱くなったじゃないか。付き合いたてで恋愛方面のステ振りまだ出来てないんだからさ。
「私……、夏休みに家がゴタゴタしてて、実は夏期講習受けれてないんだ」
うん。そうなんじゃないかっては思ってた。
「それでさ、とりあえずセンターまで4人で頑張ってみないか?」
「えっ俺らもか?」
確かにレイたちもセンター併用なしでもう私大が決まってるからな。
「あぁ頼むよ。どっちみち俺らの学校はセンター受験が強制イベントだ」
極端な話、就職を希望してる生徒にさえ強制的に参加させる。しかも実費で。
「都合が合う時だけでいいから、図書室とかでの勉強の時一緒にいてくれないか?もちろん実際に勉強を手伝って貰えるならありがたい」
くるみとの関係を隠したいって訳じゃないけど、受験や卒業を目前にして波風を立てたくなくないってのはある。
三年になっても誰とも付き合おうとしないくるみに『不落城』と言うあだ名が密かについていて『絶対に落ちない』にあやかって合格祈願としての意味不明な告白とか単に卒業前の記念イベントとしてダメ元の告白が最近多いらしい。告白を受ける方も時間取られたり迷惑なはずなのにな。そう言う輩って相手の都合なんてお構いなしなんだろう。
「ああいいぜ。お前ら二人きりで図書室で勉強する訳にもいかないだろうからな」
「そうなんだよレイ。悪いな、恩に着るよ」
「そう思うならアキ、ここ奢れよ」
「ドリンクバーの分だけな。あ、そうだ。おまえ図書室で勉強する時、無駄に周りを煽るなよ」
「そんな事するかよっ!」
いーや「センター記念受験♪」とか言って周りから「〇ねばいいのに!」と冷たい視線を向けられてる未来しか見えねーぞ。
放課後の図書室で何度目かの勉強会。自習室が使えればそっちの方がいいのだが、今日は全て使用中だったからな。
初め4人でいた状態から、二人での用事があるとかで怜と佐野が少しの間席を外したその時に事件は起きた。
俺とくるみが二人きりになるのは、それこそ5分とか10分いかないくらいの予定だったのだが。
「アキくん、アキくん、ここなんだけど……」
図書室がしんと静まり返った。もちろん図書室である以上、声高に話す奴らは元々いなかった。それでも音量を抑えた話し声くらいはあったのだが……
ガタン!
突然一人の男子が立ち上がった音が異様に響くくらいには静寂だった。その男子は真っすぐにこちらへ近づいてくると
「円谷さん、ちょっといいかな?」
よほど問題に集中してたんだろう。くるみは自分の言葉に気づいていない。
その証拠に、きょとんとした表情でその男子に向かって顔を上げたのだから。
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