自動車教習所で泣いていた彼女を助けたら学年アイドルがグイグイ来るようになった!?

すぎヨメ

1 出会い・泣いてた彼女

「よいしょっと」

 空いている席のテーブルに荷物を降ろしスマホのロックを解除する。


「(あれ?あの子……)」


 女の子が泣いていた。


 膝に置かれた左手には、それまでかけていたであろう太めのふちのロイド眼鏡が折りたたまれて握られ、右手の甲は俯いた顔の目元を擦っているようだった。

 

 今この場所が学校だったら女子が泣いてるってことで「いじめか?」「女子同士の陰湿なケンカか?」「おい、誰か先生呼んで来い」となるところだが、ここは自動車教習所の談話スペース。うまく出来なくて悔しかったり、苦手な教官に叱られたりして泣いている子はさほど珍しくはないのか、周りの同年代の子たちもチラチラとは多少気にしてるものの誰も話かけることもない。

 

 放っておいても大丈夫そうなので、スマホアプリの問題集に意識を移す。

 一通り問題を解き終えた頃には泣いていた女の子の姿はなかった。

 思えばこの時が彼女との運命の出会いだったのかも知れないが、この時の俺はまだ知る由もなかった。




 そんな出来事も忘れかけていた翌日の学校の教室。


「ようアキ。昨日はどうだった?」


 と、話しかけてきたのはクラスメイトの高杉たかすぎれい

 どうだった?の内容は両手でハンドルを動かすジェスチャーをしている。


「ちょっ!内緒だろ?」


 幸い気付いた者はなさそうだけど軽く睨んでおく。

 

 アキと呼ばれた俺の名は大仏おさらぎあきら。『大仏』を『おさらぎ』とは、ルビでも振ってない限りは初見で呼んで貰ったことはほぼない。クラスメイト達もニックネームのように『だいぶつ』って呼んでくることが多いが、高杉と言うかレイはあきらからアキって呼んでくる数少ない友人の一人だ。


「大丈夫。声に出して言ってないだろ?」


 いやいやいや、そのジェスチャーがクルマや運転を表すってのは結構有名だよ。なんだったら運転をしない子供にだって通じるよ。もし見られてたら遠くからでもわかるし、言葉で言うよりタチ悪いまである。


「際どいのもやめてくれ」

「そうか?悪りー悪りー」


 と、屈託のない人懐っこい笑顔で返してくる。絶対悪いって思ってないよねコイツ。この笑顔のおかげで憎めない気分にさせてくれるチートスキルの持ち主だ。

 

 コイツとは、1年の時も2年の文理クラス分け以降もずっと一緒である。休日に一緒に遊ぶまでではないものの、レイと名前呼びするくらいには親しい。親しいのだが、180センチを超える長身に爽やかイケメン、2年の時にはバスケ部でキャプテンもしており、加えてこの人懐っこい性格で向かうところ敵なしなので、こういう人種はぜひ絶滅して欲しいと思っている。割とマジで。


「昨日、第一段階は終わったよ」


 周りに聞こえないように声をひそめて話す。


「ってことはもう路上か?実際に道路を運転したら気持ちいいんだろうなー」

「いや、これから仮免を取るための試験が運転と学科の両方ある」

「へーそうなのか。よくわからんが、ま、頑張れ」

「おう」


 教習所に通っているのを内緒にしているのにはいくつか理由があるのだが、ひとつは周りへの配慮。年明けにセンター試験を控えてピリピリしてる奴らの前で、のほほーんとした空気を出すわけにはいかんのよコレが。だって俺は県内の国立大にもう入学が決まってるからね、推薦で。あと学校側の方針としても、期末テストが終わるまでは教習所へ通うのは控えるようにとやんわり言われているのもある。


 なので、市内にある教習所を選ばず電車で2駅隣街の教習所へ通っている関係で、放課後の時間を利用しての教習はあまり進んでいなかったりする。


 ようやく仮免に手が届くところまで漕ぎ着けたことに安堵し、土曜日に控えた運転の試験のことを考えると、教習所で泣いていた女の子のことがなぜか頭をよぎった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る