9 必死の告白・彼女の誤解
ベンチから俺が立ち上がると、くるみは足を止めた。
俺の方から近寄りたいが、何故か出来なかった。くるみから「それ以上近づかないで」とオーラが出ているような気がしたから。
5~6歩分は空けて対峙した俺たち。先に口を開いたのは
「何の話ですか?寒いので手短にお願いします」
冷たい口調で話すくるみだった。
「いや、あの、あのさ」
言いたいことは山ほどあった。なのに頭の中がぐちゃぐちゃで何を言っていいのか整理がつかない。俺の自意識過剰でなければくるみだって俺のこと……
「そ、そうだ連絡先、連絡先を教えてくれよ」
「どうしてですか?もう終わりにするって、お昼休みに伝えたはずです」
俺の自意識過剰なだけだったのか? いや、そうじゃない可能性がもう一つだけあるんだ。
「なあ、くるみ。くるみはさ」
とまで言ってポケットから昼休みにくるみから貰った缶コーヒーを取り出す。
「本当は俺に気づいて欲しかったんじゃないのか?」
だってそれは、ミルク入りの缶コーヒーを俺が飲むのを知っているのは『野々原くるみ』の方なのだから。意識してそうしたのかはわからない。本人だってわからないのかも知れない。でも俺にはくるみからのメッセージに感じたんだ。
くるみは何も言わない。俯いて口を真一文字に結んで何かを堪えてるようだった。
待つしかなかった。それどころかピリついた空気に俺は固まってしまっていた。
どの位経ったのだろう? 時折通りを走るクルマのヘッドライトがつくる公園の樹木の影が、何度か俺たちに覆いかぶさっては通過した頃
「だって!だって仕方ないじゃない!!」
突然くるみが叫んだ。本当にそれは叫んだと言って良かった。
「だって!アキくんは…アキくんは県外の大学へ行っちゃうんでしょ!」
「(へ?)」
「わ、私だって、私だってアキくんと一緒にいたいよ!でも、でも出来ないんだよ!私はお父さんの仕事手伝いたいしっ、将来幼稚園だって正式に手伝いたい!だからっ、だからっ地元の短大に行くっ!もう、どうしていいかわかんないだよぉおうぇっうぇっえっえっ……」
最後の方はすでに嗚咽まじりだった。コートの裾をぎゅっと握り、涙は拭うことなく地面に落ちる。
くるみの魂の叫びを聞いて心に誓ったことがあった。俺がやるべきこと……よし、あとで
くるみの嗚咽が収まるのを待って、ティッシュを差し出しながら、
「あのさ、くるみ。一つ訂正していいかな?」
えっ、てくるみが顔をあげたその
「俺の進学先って地元の国立なんだけど?」
ポカンとするくるみ。
「だって春から一人暮らしするって高杉くんが言ってたから」
やっぱ
「電車で1時間くらいだからね。大学の近くに住む人と自宅から通う人って半々なんじゃないかな?まだはっきり決めた訳じゃなかったんだけどね」
ちょっと前に下見に行ったけど条件に合う物件がなくて自宅通学でもいいかなあって思い始めたとこだったし。
そう言えばあの二人は県外の私大に一緒に通うとか言ってたな。ルームシェアするって一緒に部屋探ししてるとか言ってたわ。でも、お前らの場合ルームシェアって言わねーからな。いつの間に親公認になってたんだよ? 知らなかったわー。
なんてことを考えてたら突然くるみが胸に飛び込んできた。ぐすっぐすと鼻を
「で、だな、くるみ」
俺の胸から顔を上げるくるみ。
てか円谷バージョンの顔に野々原バージョンの髪で上目使いはダメです。認められません。核兵器並みの破壊力です。世界の平和が危ぶまれます。その訳のわからないいい匂いも当然ダメです。反則です。
くるみの反則技のせいで答え合わせができてることなのに緊張する。口が乾く、心臓が本当に口から出そうだ。くるみが胸から離れたあとで良かったあ。
「俺たち、つ、つ、付き合うってことでいいのかな?」
声が
「え?普通に嫌だけど」
「なんでっ!?」
この感動的なシーンは何だったの? それにこのやりとり
「だってアキくん、学校で私のこと気が付かなかったんだよ」
いや、無理なくない?
ハーフアップにしてる髪を下ろしたら、どの位の長さかなんて想像できないし、腕に当たった柔らかな感触は同じだなあっては思ったけど、他にサンプルが無さ過ぎて判断不能。
ビューラー使ったりメイクされちゃったら別人ですよ。いや
「眼鏡からコンタクトに替えただけで印象ってかわるよ」
と、反論したら
「うん。今もそうだけどカラコンだからね」
「は?カラコンって何?」
「アキくんて……まいっか、そこがいいんだもんね」
何やらぶつぶつ言ってるが
「カラーコンタクトのこと。私は視力の矯正もしてるけど、瞳の色を変える目的だけで使う人もいるんだよ」
ほえー。だからハーフみたいな透き通ったブラウンなのか。そんなアイテムがこの世に存在したのね。
俺、両目1.2って特別良くもなく悪くもなくって、視力に関しても何も特徴ない事に気づいてしまった。
「教習所ってカラコンじゃダメなんだよ。証明写真とかの関係でね。元々内緒で通うつもりだったからちょうど良かったけど。だからね初めてアキくんに学校で会った時ってすごくびっくりしたんだよ。でも気づいてないからいいやってちょっとからかっちゃった」
その、てへぺろもダメです。可愛いすぎます。死にます。主に俺が。それとやっぱりあれはからかわれてたんですね。
「口調とかキャラも違うよね」
「あーなんかね。最初は演技だったんだけどコンタクトの時は自然にキャラが切り替わるようになっちゃった」
何それ、ヒーローものの変身アイテム? 眼鏡をかけると逆に地味になるんですけど。
「それとねー私たちやっぱり付き合えないよ」
だからなんでっ!?
「アキくん気が付いてないのかな?私アキくんから何もまだ言われてないんだけど」
え? 今のシーンを脳内で巻き戻してみる。うん。確かに言ってないな。もうそういう雰囲気だったからなー。やっぱり言わなきゃダメ?
「くるみさんや、以心伝心って言葉知ってる?」
「知ってるけど言わなきゃ伝わらないこともあるんだよ?」
いや、この場合は伝わってるよね? でもこれ言わなきゃの流れのやつだよね。
「俺、くるみのこと、す、好きなんだと思うんだ「思う?」」
そこに拘っちゃいます? えーい、
「くるみのこと好きだ!俺と付き合ってください。お願いします!」
言った。言ってやった。
「はい。私も好きですよ。こちらこそよろしくお願いします」
あれ? 最初泣いてたのにくるみの方が冷静になっちゃった? なんか悔しいなー。てか将来うまく操縦されそうなんだけどっ。
本当に寒くなってきたし帰るか。ずっと一緒にいたいけどそうもいかないしな。
別れ際。冬の公園って人いなくていいね。ぎゅっとハグしたりしても誰も見てないしキs……なんでもない。
翌日のファミレス。
「なあ俺ら三日連続で流石にきついんだけど」
「うるさい。罰だ。昨日奢るって言ったのも無しな。てか、こっちが奢って欲しいくらいだわ」
「えーなんでだよ?俺らのおかげで付き合えたんじゃん」
「確かに佐野には感謝してるがお前はダメだ。誤解が元で間一髪と言っても過言じゃないわ。お前は免許取るな危ねぇから」
「ひどい。それは関係なくね?」
いや、そそっかしい奴はやっぱ運転危ねぇって。
「よかったねルミ。ルミにも一緒にいたいって思うような人が現れて。実は私ばっかりってちょっとは気になってたんだよ」
と、言った佐野の笑顔はやっぱりツートップと言われてるだけはあって魅力的だなって……痛い!痛ぁい!痛いぃ!
くるみさんくるみさん、お願いだから俯いて照れながら俺の太腿を全力で
それと4人揃った時くるみに言っておこうと思ってたことがあった。
「なあ、俺から提案があるんだけど」
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