第23話 マスター危ないから下がっててって!
ガインの苦難は続く。
仲間を増やそうと躍起になって病を用いたために周囲一帯がすっかり枯れはててしまった。見逃す『プラウ・ジャ』ではなくすぐさまに多数の信徒が送り込まれた。いずれもが死を覚悟している。そこかしこで死後の安らかなるを求めて祈りがささげられていた。
「覚悟なさい! 弟子よやってしまうんです!」
「全くこんなに集まって……」
「僕はまだ小さいから頼むよお」
ガインの頭にしがみついて叫ぶティミイ。
構えるカイサ。
土に潜って隠れるシモン。
いずれもがガインよりも後ろに立っていた。彼を矢面にして安全を保とうというのである。カイサは一人だけ大きく距離を取っておりやはりまだ彼を警戒しているのだった。『プラウ・ジャ』信徒たちの態度もガインには気にいらない。戦う姿勢は良い。”病”に接してもはや先はないという諦観。自分へ向ける恐れは許せなかった。
と、不意にティミイが何かを押し付けてきた。受け取ると白い仮面であった。
「『ホワン・カオ』の仮面です」
「なんで今……」
「持ってたの思い出したんですよ」
寄せられる自分の頬の赤いあざへの視線に気づいて、とはガインは思わない。この少女に機微がわかるわけもない。マスターどころかおそらく弟子としても半人前であろう。人格もまるで褒められたものではない。
しかし、ガインはこのしようもない少女を見捨てることができなかった。威を借り危なくなると逃げ出し勝てば自分の教育の賜物。その一方で突き放しがたい何かがあった。重ねた母の面影か。初めて得た仲間であることの特別視かはわからない。シモンも腹の立つカイサも同じだった。
「しょうがないか……」
「いくんです! 皆殺しです!」
一歩踏み出すと『プラウ・ジャ』信徒たちは恐れて一歩下がった。カイサは離れつつ一歩進む。シモンは顔を出して周囲をうかがう。ティミイは頭に乗っているからガインと一緒である。それだけの違いが結局は彼を動かした。
「情けない病だな……」
自分で言ってみて心が揺らぐ。まだまだ強い心は育ちきっていなかった。一人の世界に人が増えすぎて彼は新たな、3度目の人生を送り始めていたといってもよい。
「とりあえず。マスター、危ないから下がっててって」
「そこまで言うならしかたありません、弟子に任せましょう」
「馬鹿ね」
「ごめんガイン、まだまだ食べないと元に戻らないよお」
「君たちもだ」
さらに一歩を踏み出すと『プラウ・ジャ』信徒が大きく崩れた。痛む心を頼りないマスターと子供たちが支えているのかいないのか。
彼らの物語がどこで終わるのかどう終わるのかは定かではない。ただ”赤手の厄災神”の名は世界に大きな赤いあざを残した。
命に終わりにガインが得たかったものが掌中にあったか。伝えるものはないが一人でなかったのは確かだった。
マスター危ないから下がっててって! あいうえお @114514
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