第3話 赤手の厄病神ー3
何よりもこの少女と出会い師弟関係を強いられているこの運命について問いかけたい。一寸先は闇というが深さも濃さも限度がある。暴れる彼女に踵を打ち付けられて参るガインであったが頭痛の種はそれに限らなかった。
馬ほどもある昆虫が飛び降りてきて苦悶する3人を餌食にせんと牙を伸ばした。何々という種名を出すのは難しい、毒虫寄生虫羽虫蜘蛛甲虫水生昆虫あらゆる虫が混じり合った奇怪な姿をしているためだった。頭部らしき部位にはつぶらな瞳と無数の牙を生やしたミミズのような一匹が鎮座している。ガインは慌てて少女を放り出して虫の刺々した後ろ足を掴んで引き離した。掌に穴が開き血が流れたが人食いを目の当たりにするよりはましだった。
虫は前足の鎌を鳴らして威嚇しながら驚くべきことにガインへ抗議の声を人語であげた。
「なにすんだよお」
「殺しちゃだめだ!」
「甘いですね『ホワン・カオ』には情けは無用なのです」
少女は虫へ人食いをすすめつつもその異様には近寄りがたいのか放り出されて先から動かずに声を送った。虫もその内心を読み取ってしわがれた赤子の泣き声を出して彼女をも威嚇した。
「腹減ってんだよお」
「だとしても人を食べちゃだめって言ってるだろ?」
不満を耳障りな鳴き声でしめしつつも虫はガインに従った。
「弱ってる獲物を狙うのが楽なんだよお。特に病気なのはね。自然の摂理さ」
「弟子、あなたが殺人を忌避するのは問題ですよ。戦争なんですから」
「いや俺は……わかったよマスター、次はちゃんとやる」
「敬語を使うのです! 殺さなかったこの『プラウ・ジャ』どもが次の戦いに加わるかもしれないのですよ⁉ 仲間を襲うかもしれません」
「お腹空いたよおガイン」
頭を抱えたかったがそれが問題を解決してくれるとも思えずガインは歩き出した。マスターと虫が文句を並べながら後に続く。少女は背中にしがみついて虫は犬のようにその脇をのしのしとついていった。
なぜ行動を共にしているかと問われれば成り行きだとガインは答えるほかない。やむにやまれぬ様々な出来事の果てにこの集団は形成されていた。
「村に帰りたいなあ……」
「忘れたのですか? 『プラウ・ジャ』の悪魔が弟子の故郷を滅ぼしたのです」
「そうそう、ほしかったら作るしかないよ」
ガインは虫はともかくマスターにもその一因があると指摘したかったが、やったところで逆上を招くだけだろうと断念した。
「村なんて安い野望でどうします? 城……いや、優秀な私たちには国がふさわしいでしょう」
「国かあ」
帰れる場所が欲しかった。誰に何を言われるでもなくいつでもそこにあってくれる安息の地。そのためには力と戦いが必要とわかってはいるがガインにはまだ決心がつきかねているのだった。仮面を再装着しながら次に来るべき未来へと乏しい想像力を働かせてみた。
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