第14話 立つための二対ー1

 数日が過ぎた。激突と激論は変わらぬものの二人はシモンにまたがって空を移動するようになっていた。シモンは1日を経ずにが落ちぬように加減する方法をものにしていた。飛ぶ鳥めがけて毒針を打ち込んだり触手を伸ばしたりして捕食しつつ体勢を崩すこともない。

 疲れなくていいと浮かれるガインとティミイだったが外からどう見えるかを計算に入れていなかった。空をゆく怪生物の情報は目撃者から『プラウ・ジャ』にも寄せられて、その位置からすぐさまに赤手の厄病神に関係があると見なされた。彼に敗北した信徒らの回収も進み大々的に対策班の派遣が検討されつつある。

 世情に疎いガインと間の抜けたティミイに無論迫る危機がわかるはずもない。襲撃の危険も低下し『ホワン・カオ』の拠点を目指しながら甲虫を捕食し耐熱表皮を得たシモンの背でパンを焼いていた。粉が飛び散り炎が消えないのは少女は自慢していたが、何のことはなくシモンが気遣っているだけだった。

「そういえば何であの力でパンを出さないんだ?」

 ふとガインが尋ねるとティミイは『ホワン』を発動してエプロン姿へと変化しを一つ彼の前へ出現させた。落ちる前に手に取り言われるままにかじってみたガインは少し眉をひそめる。見た目に反してしなびて美味でなかったのだ。あんこという甘味も歯触りが悪く舌にひっかかる。

「まあ食べられなくはないね」

「質より量だから仕方ないんです」

 焼き立てのパンで口直しをしながらガインはティミイの弁解に頷いた。それにしても自分は深い森に棲んでいたのだなと目下に広がる緑海を眺めて思う。すでにかなりの時間を飛んでいるのに見渡す限り森しかなかった。よく魚をとった川の支流が地面の落書きの溝を進む雨水にしかみえない。

「シモン疲れないか?」

「平気だよお」

「うふふ、良い子ですよ」

 ティミイが爪先でシモンの頭を撫でる。あごと牙と角が混じる巨体の頭部とは別に元の芋虫そのままのが生えているのだ。どれだけ変化してもある程度の形を保っている。

「もっともっと強くなるんです。兄妹も欲しいですよねえ?」

「またマスターは……」

 暗にティミイはガインへ病を用いろと命令しているのだった。ガインは言うことを聞かずシモンもどこまで従順かわからない。なにより勢力とは数がものをいう。彼女の言は間違ってはいないがガインには忌まわしい力を振るうのはためらわれた。

「反抗を『ホワン・カオ』は許しません!」

「やだったらやだ」

 いい加減にガインもうんざりしていたが拒絶の意志を示さねばティミイはつけあがるだけだった。とかく拒否することが話を早く打ち切る秘訣であった。

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