第4話 出会いの是非-1

 村が焼かれた日、煤と土に塗れながらようやくガインが地上にたどりつくとそこには簡素な雨除けと食糧が置かれた作りかけの小屋があった。彼はそれが母によって作られたものだとすぐに理解した。くぎを打ち込むときに必ず左辺が浮き上がる彼女の癖がどの箇所にも現れていたのだった。それに指を這わせ肩を震わせながら、少年は木々の間からのぞく真夜中の月よりも明るく輝きおどる村を受け入れた。

 彼は小屋で5日間母を待った。後悔のためでもありまた自身に母と同じく赤いあざが浮き上がったためでもあった。発熱と苦痛に苛まれ排泄に立ち上がる気力すらなかった。死にたくない一心でもうろうとする意識の中食糧を口に運んで水を啜った。汚物に塗れた彼を獣さえ獲物とするのを拒否してくれた。

 そしてとうとう病魔に打ち勝つとガインは焼け尽きた村へと恐る恐る足を向けた。青い鳥の一団の影に怯えながら1週間をかけて母の姿を求めたが生家は焼けた残骸に埋まり、かつて村人たちだったものは隅に重ねられ念入りに焼き尽くされて虫たちの酒池肉林となっていた。獣たちにとっても馳走場であったのだろうあちこちに糞が落ちている。

 少年の胸に去来したのは怒りでも悲しみでもなく虚無感だった。永遠に続くかに思われた日常が一夜にして消失したことが信じられなかったのだ。夢と思わんと幾度も眠り落ちてみたが次第に目覚めの苦痛に睡眠をうとましく思うようになった。不変のがただ鎮座するだけだった。


 それから10年、ガインはそこに生きていた。すでに村とはいえなかった、家というのもおこがましい小屋と小さな畑そして無数の墓地が並んだなんとも形容しがたい場があるのみだった。

 少年は青年へと成長していた。最初の3年は森に隠れて暮らし、5年目から恐る恐る村へと帰還した、7年目で迷い人すらないことを確信し小屋を少しづつ運んで燃え落ちた残骸から使える資材を選びかつて生家だった場に家を建て定住した。

 今日までは多忙であった。生きるために狩猟採集耕作せねばならなかったし殆ど白骨化していたかつての同胞たちの墓は無数に必要だったからだ。やるべきことが彼を突き動かし生きる活力を与えてくれた。

 だが一応のがついてしまうと自問が彼に襲い掛かってきた。正確には抑え込んでくれていた日課が消失して露わになってしまったのだった。なぜ自分は生き残ってしまったのか、なぜ生き続けねばならないのか。死して母や皆の元へゆく誘惑は常につきまとってきた。全てを捨てて新天地を目指す選択肢はない、病から逃れたもののその赤いあざは頬に色濃く残っていたからだ。奇しくも拒絶した母の最期の手が撫ぜたかのように。

 孤独が日々ガインを蝕んでいった。ほどなく彼は自死し名もなき村は文字通りに全滅の道を辿り消えゆくだろうことは確実だった。

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