第15話 立つための二対ー2
とシモンが大きく旋回した。振り落とされないようティミイを支えながらガインが尋ねる。
「どうした?」
「あれおんなじ服じゃない?」
二人が見下ろしても広がるのは緑の海だけで下降していくにつれて彼が指す物体が露わになってきた。開けた丘に白装束の人物がたたずんでいたのだ。相当に接近しても二人に背景に溶け込んでいて特定ができず彼ならばこその発見だった。
「とりあえず近くを飛んで」
ティミイの指示でシモンは人影へと接近していった。近づくにつれてあちらでも気づいたのか力を使って武器を具現化し衣服を変えたのがわかった。風に揺れる赤いドレスに農薬噴霧器に似た樽を背負いそこから伸びた管を構える若い女がシモンらを警戒していた。マスクで口と鼻を覆っている。
枝のように痩せて背はシモンよりも高かった。切りそろえた黒髪が神経質な雰囲気を強めている。外見がはっきり二人にも識別できるほど間近になるとティミイが驚き声をあげた。
「カイサ・ゲッタランじゃない?」
「ティミイ?」
シモンに着地を指示して大地に降りる。まずはガインが降りてからそこへティミイが飛び乗り肩車の体勢になった。
「『ホワン』使ってください」
「え? だって味方じゃないの?」
「念のためですよ。病を用いろとまではいいませんから」
ガインは片手を己が胸にたたきつけるとそれを眼前に運んで強く握りこんだ。力を使う際には必須でないものの、『ホワン・カオ』であることの主張ときっかけとして行うように教えられたのだった。
白い光をかき分け現れた青い鳥の姿を見てカイサは口笛を吹いた。
「赤手の厄病神ってあんただったの?」
「あたしの弟子です」
「はあ? あんたいつマスターになったのよ?」
「少し前です。亡くなる前にマスターがそう任命しました」
ガインはマスクの下でやはりティミイが弟子だったのだと確信した。彼を看取ったのは自分で死に目に彼女は立ち合いもしなかったではないか。
「随分いきおいが良いみたいね……」
さりげなくカイサが下がるのを見逃さずガインは顔をしかめ動悸を早くした。ティミイとシモンが例外であってやはり自分は病に類するものだと見られているのだ。震えがおきて目がひどく潤んできた。情けなく思いつつ制御ができない。
「当たり前でしょ弟子なんだから」
言葉がその呪いを解いた。ティミイは意図せず単なる自慢であったが奇しくも彼を救ったのだった。同時に彼女自身も彼の離反から救われている。パンとごく普通に接することがマスターである彼女の恵だった。
「まあいいわ、あんたムアシェ・ヴェルトランギって『プラウ・ジャ』の子を殺したでしょ」
カイサが持ち出した名にガインは息をのんだ。村で消滅させた青年その人で忘れようもなかった。一方でティミイは憶えておらずともかく『プラウ・ジャ』相手なので成果だろうと胸を張った誇った。
「そうです。弟子がですけどね。つまりそれだけあたしの指導が素晴らしいと……」
「その師匠のルウ・ノミステクが追ってきてるわよ。“立つための二対”っていえばあんたでもわかるでしょ」
ティミイはひっくり返りそうになってガインの首に多大な負担をかけた。倒れそうになった彼を反動で無理矢理に前のめりに進ませる。カイサはガインの接近を恐れて後ずさった。
「う、うそ⁉」
「伝えたわよ」
背を向けて足早に立ち去ろうとした彼女へティミイは飛びついた。
「まってくださーい!」
「あうっ……だから嫌なのよ! 離れなさい! うつったらどうするの!」
ガインは意味が分からず立ち尽くすと同時にカイサの言いざまにまたしても激しい心の動揺を抑えられなかった。ムアシェは我関せずで草むらを歩きまわり飛び出してくる虫たちを捕食することに熱心だった。飛行は思った以上に体力を使っていたのだ。
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