第3話「危機と俺の役目」
「ご飯食べ終えたら、魔王様のお部屋に行くか」
そう考えながら、俺は大食堂にて1人昼食をとっていた。俺が魔王様や側近幹部達3人と食事をするのは、朝食時のみで、昼食や夕食に関しては他の使用人達と同じく、この大食堂にて済ませている。時には、自室にて食べることもあるが、基本は大食堂である。
「よう、ユウ!聞いたぜ?午後から魔王様に呼び出しくらっているんだろ??」
俺の真正面の席に座り、持っている食事をテーブルに置きながら話かけてきたのは、リザード族の長である暗黒騎士団中隊長のジンだった。
「あ、お疲れ様です、ジン中隊長殿。そうですね、午後から何か用件があるらしいので」
「そうか、お前は人間のわりに魔王様から気に入らてるからな」
「はい、ありがたいことだと思ってます。魔王様には感謝しかありません。」
「でもな、それを良く思っていない奴らもいることは覚えておけよ!」
「承知しております。」
そう、人間である俺がこの魔王城にいること、更には魔王様の執事という役職でいることを快く思わない連中は多い。
「ま、何かあったら俺に相談しろや!相談料は高いけどな、ガハハハッ」
「ありがとうございます。その時にはお願いします」
そんな俺に対して、この中隊長ジンは俺がこの城に来て最初の頃から色々と面倒を見てくれる男気あるリザードマンだ。
「でよー、聞いたか?」
「何をですか??」
「暗部隊の奴らの話だとよ、人界エリアに住んでる人間共が俺達の暗黒エリアに侵攻してくるって話さ。」
「いえ、初耳です。暗黒エリアと人界エリアとを結ぶ禁断の橋、その近郊での小さな小競り合いはよく聞きますが‥‥‥」
「ああ、ま、それは毎度のことだ。だが、人界エリアに潜り込んだ暗部隊の奴の話だと、確定情報ではないみたいだが、人間の中で強力な力を持った人間が攻めてくるかもしれないらしいぜ」
「強力な力を持った人間ですか?」
「あー、確かなんでも人間共の間だと勇者とか呼ばれているらしくてな。これが真実なら俺達も大きな大戦に備えないといけねぇからな。」
勇者‥‥‥人間にとって、その存在は希望の証であり、悪を倒すヒーローだということは俺の頭の中の記憶に残っていたので、ジンのいうことが真実ならばそれが脅威だということは直ぐに認識できた。
「その事は、魔王様はご存じなのでしょうか??」
「いや、まだ届いてないはずだ。確定情報じゃないからな。隊長のゾイド様からは余計な心配を魔王様にさせちゃならないと言われてるしな。」
「そうですか」
確かに未確定情報ながらも、魔王様にとって脅威となるべき人間の希望の証である勇者の存在等、今はまだ知らせるべきじゃない。あの方には余計な不安をさせたくないのは俺も同じであった。
「もしよ、本当にその勇者って奴がこの魔王城まで乗り込んできたら、お前はどうするんだろうな?同じ人間である勇者って奴からお前は魔王様を守れるのか?それとも敵になるのか‥‥‥?」
ジンの言葉を聞いた後、席を立ち食べ終えた食器を持ちながら食事中のジンを見下ろしながら俺は言った。
「俺には魔王様に返しきれない御恩があります。だから、俺は敵が誰であれ、同じ種族の人間であろうとも、俺は俺の自らの正義の為に魔王様を全力でお守りしますよ」
そう言い残して、俺はその場を後にした。後ろからは「ガハハハッ」というジンの笑い声だけが聞こえていた。
もし、勇者が攻めてきた際に大事な方である魔王様を俺程度の力で守れるのだろうか??
否‥‥‥普通の人間である弱い俺に守れる力はない。
どうしたらいい、どうしたら‥‥‥どうすれば強くなれるのか?
そのことが頭の中を占拠していた俺は大食堂から退出して、魔王様のお部屋へと向かい歩き出した。だが、直ぐに考えることを止めた。暗い顔で魔王様には会えない、普段通りにしなければならないのだ。
それは、執事としての役目でもある俺の仕事、ただそれだけのことなのだから‥‥‥
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