第16話「魔剣」

目の前のジャイアントゴブリンへと向かい階段を駆け上がってる俺に対して、ジャイアントゴブリンは大きなこん棒を振り上げた。 お互い射程圏内に入った瞬間、俺よりも一歩早くジャイアントゴブリンがこん棒を振り下ろしたが、俺はそれを回避して相手の脇腹に剣を刺した。


 「ぐぎゃあ」


 刺した瞬間に相手は悲痛な声を上げるが、刺した俺自身は相手の致命傷に至っていないと感じた。 それは、思った以上に相手の筋肉は厚く皮膚も固かったからだ。 もしも、この剣が魔剣ではなく普通の剣ならば俺程度の力量の奴では傷もつけられていないだろう。


 剣を抜いた瞬間、俺のお腹に激しい痛みが走り、そして勢いよく飛ばされ壁へと衝突した。 気が遠くなりそうになりながらも目を開けると、ジャイアントゴブリンが俺に足蹴りをした姿勢が見えた。


 「痛てぇ・・・・う、うう・・ゲホッ」


 痛みの後、直ぐに口から血を吐いてしまった。


 ヤバいな、相当以上に力の差が歴然としていると俺は思った。 だけど、ここで負けるわけにはいかないし、下で戦っているジン中隊長のところへと目の前の敵を通すわけにもいかなかった。


 「オラ、化物! 俺はまだ終わっちゃいないぜ? かかってこいや!」


 もうろうとする意識と激しい痛みの中、俺は立ち上がり精一杯の挑発をした。 その挑発にのってきた敵は俺めがけて勢いよく突進をしてきた。 突進してきた敵が俺を壁にプレスする寸前のところで、俺は横へとジャンプして避けることに成功した。


 突進したジャイアントゴブリンは俺が避けた後、予想通りに壁へと激突したところを、すかさず俺は敵の背後へと周りこみ背後から剣を背中に刺すことに成功した。


 再びジャイアントゴブリンから悲痛な声を上げるが、この程度じゃまだまだ致命傷にならないはず。 そう思った俺は相手が振り返るその瞬間に敵の喉もとに剣を刺してやろうと身構えた。


 そして、相手がこちらに振り向いた瞬間、俺は剣を喉もとに焦点をあて突き刺した。


 だが、剣先が相手の喉もとに突き刺さるよりも早く相手の右腕が俺の首を掴む方が早かった。 物凄い力でそのまま俺は首を絞められながら持ち上げられた。


 「ううう、ううう‥‥‥」


 絞殺されるより前に首の骨を折られると直感し必死に暴れて引き離そうと試みるも、ジャイアントゴブリンの力の前ではなんの意味もなさなかった。 意識が遠のくのが分かった。 でも、俺は諦めるわけにはいかなかった。 だからこそ、薄れていく意識でも右手に掴んでいた魔剣の柄だけは離すことはしなかった。


 俺は願った。


 (頼む、ペンダントに特別な力があるならばもう一度俺の声に応えてくれ! 俺はまだ死ねないんだよ!!)


 その瞬間、魔王様から頂いたペンダントが再び光を帯び、そして俺の顔付近まで浮遊してきた。 そして、その次の瞬間に眩い光が辺りを包み込んだ。 ジャイアントゴブリンは突然の眩しい光に思わず俺から手を放して自分の両眼を塞いだことで俺は助かり床へと落ちた。


 床へと落ちたその時には既にペンダントの光は輝いておらず、普通のペンダントに戻っていた。 だが、まだ俺から光は輝いていた。 その光はペンダントから魔剣へと移っていたのだ。


 「なんだ、剣が・・・剣が輝いている?」


 先程、ペンダントから放っていた光よりは弱いものの、確かに剣を覆うように小さく輝いていた。


 眩しい光が消えたことで、ジャイアントゴブリンは床に落ちているこん棒を拾い、俺に向かって勢いよく振り下ろす。


 俺はそのこん棒を受け止めるべく、攻撃を避けずに光輝いてる魔剣を振った。 受け止めるつもりだった、こん棒は真っ二つに切り裂けた。


 まるで柔らかい果物を切るように簡単に真っ二つにだ。


 「凄い」


 よく分かならいが、この魔剣が光輝いてる状態なら目の前のジャイアントゴブリンの厚い皮膚と肉を切り裂ける、そう思った瞬間には俺は既に剣を相手の心臓に刺していた。


 魔剣はジャイアントゴブリンの体を貫通させていた。


 「ぐぐぎゃがやがーーーー」


 壮絶なジャイアントゴブリンの悲鳴が響き渡る中、俺はジャイアントゴブリンに刺した体から魔剣を勢いよく抜き戻した。


 それと同時にジャイアントゴブリンは絶命して床に倒れた。


 「か、勝ったのか?」


 俺は安堵から気が抜け床へと尻餅をついてしまった。 右手に掴んだ魔剣には、もう光は輝いていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る