第2話「朝食会にて」
「よーし!これで朝食の準備はOKだな。後は魔王様が来るのを待つだけか」
魔王様とその側近達専用の特別食堂にて、俺は配膳の用意を終えていた。この魔王城には魔王様とその側近が使う食堂と、それとは別にメイドや下級悪魔達が使う大食堂が存在する。
ちなみに、俺は執事という弱小な立場ながらも、魔王様の計らいで特別食堂を使用させて頂いている。
「おい、執事。魔王様はまだ来ないのかよ!俺はもう腹ペコなんだよ、もう食べていいだろ?」
「申し訳ございません、ラスター様。もうすぐ来られるかと思いますので、もうしばらくお待ち下さい」
「ケッ!」
すね当てなど要所に防具を着けているが、屈強な筋肉を自慢げにさらけ出している魔族の拳闘士隊長のラスター様が苛立ちを見せるが、これもよくあることだ。側近の中には魔王様に対して快く思わない側近も存在する。その一人がラスター様であることは、誰の目から見ても明白といえた。
「まぁまぁ、ラスター殿、魔王様が遅れてくるのは日常茶飯事ではありませんか。配下の我々がそんな小さなことで腹を立てるようでは魔王様への忠誠心が足りないのではないでしょうか?」
「チっ!うるせーよ、アインズ。お前は黙って本でも読んでればいいんだよ!」
本を読みながらラスター様に注意をするが、ラスター様の一言で黙ってしまう。魔法使い特有の黒い魔法服を着こんだ闇魔導士隊長のアインズ様は、その後は何も反抗することなく、再び本を黙々と読み続け始めた。
「しかし・・・ラスター殿、アインズ殿の言う通りですぞ。少々、ラスター殿は魔王様に対しての忠誠心が足りないのではないかな?側近たる者、どんなに待たされても主人である魔王様を文句一つ言わずに待つことも、これまた忠誠の証ぞ」
「あーあー、分かったよ!クソジジイにまで言われたんじゃ、朝から気分も悪くなるわ!」
もう一人の側近であり、側近3人衆の中で最も偉い立場である暗黒騎士団の隊長ゾイド様。全身に漆黒の甲冑と禍々しい魔剣を腰に帯びているゾイド様の言葉に流石のラスター様も、これ以降は文句を言うことを止めたようだ。
「ごめんね、皆。待たせちゃったね」
という声と同時に扉が開き、ようやく魔王様が黒のワンピース姿とラフな格好で到着した。
「いえ、そんなことはありませぬぞ、魔王様。」
ゾイド様が真っ先に席から立ち上がりながら言葉を発した後に、頭を下げて敬礼をする、それに続きラスター様、アインズ様も続き席から立ち上がり敬礼をした。
魔王様が専用の席に着席したのを確認した上で、俺は本日の朝食の献立を読み上げてから、自分の席へと戻ると、魔王様自らが「今日も朝の生きる糧に感謝を」という食事前のお決まりの祈りを捧げた後、俺を含む4人全員の食事が始まった。
食事中は基本的に静かなムードなのだが、魔王様が苦手な食材を料理にしたものが出ると一変することもある。
「ううう・・・この味は・・・これってもしかして・・・ユウ、この料理にはもしかしてアレが入ってるんじゃないのかい?」
なんとも言えないような渋い顔をしながら魔王様は俺に問いかける。
「はい、ピーマルが少々入っております。」
魔王様は野菜のピーマルが大の苦手、しかし、配下達としては魔王様の健康を考慮して栄養ある物をお出しするのだが、魔王様は意外と好き嫌いが多いのだ。
「もう!あれだけピーマルは料理に使わないでくれと頼んだじゃないか?」
「そうは言われても、ピーマルには大変栄養があります。魔王様がいつでも元気でいて頂く為には食べて頂くしかありません」
「・・・しょんなぁ~・・・トホホ・・・」
「魔王様、執事ユウ殿の言う通りです。我々、配下一同にとって魔王様のご健康こそが1番なのです。毎回言いますが、魔王様は少々好き嫌いが多いので・・・」
「あー、もう分かってるよ、アインズ。もう、食べればいいんでしょ、ぼく食べるから」
魔王様の嫌いな物が出た時には毎回、このような子供のような我儘をいい、静かな場が多少は賑やかになる。嫌々ながらも、それでも最終的にはいつも必ず食べてくれる魔王様が俺は好きだった。
その後、全員が食事を終えると、側近の三人は魔王様に挨拶をして、食堂から出ていき、食堂には魔王様、俺、そして周りの壁際に立つメイド3名がいるだけになった。俺は誰よりも1番に食事を食べ終えてからは、メイド同様に壁際にて立ち、側近3人、そして魔王様を見送る仕事へとシフトしていた。
魔王様が食事を終えて席から立ち上がり、食堂から出て行こうとしたので、メイド含む俺達4人は頭を下げた。だが、魔王様は俺の前にて立ち止まり・・・
「ねぇ、ユウ君。午後から、少し暇かい?」
「いえ、業務が沢山あります。とはいえ、魔王様のご命令が最優先となりますので。」
「ん~、別に命令じゃないんだけどね。」
「では、業務最優先でお断りすることに・・・」
「あ、いや・・・その・・これは命令だよ。重大な任務なんだ、ユウ君。だから、君はぼくと午後に付きわなければならないよ、分かったかな?」
少々、焦った魔王様は可愛かった。
「それでしたら・・・かしこまりました。」
「うん!じゃ、昼食後にぼくの部屋に来てね。」
「かしこまりました」と俺は言いながら頭を下げるのを笑顔で確認した魔王様はご機嫌な様子で食堂から退出していった。
「ユウさんは、本当に魔王様に気に入られてますよね?」
魔王様が退出した後、後輩メイドのリエリーが言い、他の二人のメイド達も俺に詰め寄り、「本当ですよ、何でなんですか??」や「ちょっと嫉妬しちゃいます!」とからかい気味に言ってきた。
「はいはい、それよりも食器の片づけをしましょうよ、皆さん!」
そう言って俺は逃げるようにその場を離れて、後片付けの準備を開始した。
「魔王様が言う重大な任務って一体何なんだろう?」
魔王様の食べた後の食器を片付けながら俺はそう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます