第10話「作戦会議」

「だから、さっきから言ってるだろー! 魔王様の救出は、俺達拳闘士隊だけで十分なんだよ!」


 拳闘士隊長ラスター様が椅子から立ち上がり大声を出した。 先程から拳闘士隊長ラスター様と、闇魔導士隊長のアインズ様の間で、どの部隊を動かすかで揉めていた。


 魔王様が何者かにさらわれたという報告を聞いて、俺は直ぐに幹部達が集まっている会議室へと向かい、5分程前から会議に参加している。その中には、俺と仲のいい暗黒騎士団中隊長のジン殿も参加していたので、俺はジン殿からある程度の情報を既に聞くことが出来た。


 ジン殿によれば、知らせをいち早く聞いたアインズ様が魔王様の部屋で追跡魔法を使い、魔王様をさらった賊の足跡を追跡、監禁されてるであろう場所を既に突き止めたとのこと。 そして、今はどこの部隊が魔王様救出、賊の排除に向かうかの議題で揉めているとのことだった。


 「しかし、ラスターよ。 賊の目的も相手の数も分からない状況ぞ。 お主らだけでは確実に魔王様をお救いできるか、ちと疑問じゃな」


 暗黒騎士団の隊長であるゾイド様が口を挟むと、ラスター様は舌打ちをして椅子に腰を下ろす。


 「その通りですよ、ラスター殿、賊に魔法を使える者がいるのは明白なのですよ。 魔法を使えない拳闘士隊だけでは賊を殲滅させることも、魔王様を救出させることも困難ですね」


 追い打ちをかけるように、アインズ様が声をかけた。


 「じゅあよ、アインズのところの腕利きの魔導士を何名か俺の隊に貸してくれや、それなら大丈夫じゃねーかよ」


 アインズ様は溜息交じりに首を横に振りながらラスター様に告げた。


 「ゾイド様も仰ってますが、賊の規模も実力も分からない以上は配下を無駄死にさせるような作戦に参加させることは出来ませんね。 いくら就寝中とはいえ、魔王様をさらっていったということは相当な手練れがいるわけですからね、腕力のみの拳闘士隊に私の配下を参戦させて生きてこれるか分かりませんから」


 ラスター様が拳を振り下ろすと、ドンという音と共にテーブルの一部は破壊した。 そのまま、勢いよく立ち上がり怒り口調で会議室に馬鹿デカい声が響いた。席から離れ今にもアインズ様に殴りかかりそうな気配だ。


 「てめぇ、舐めてんのか? 俺達が腕力だけの雑魚と思っているんじゃねーだろうな!? なんなら、拳闘士隊とお前ら闇魔導士隊で喧嘩でもするかぁ? ああぁ??」


 この二人は俺がこの城で働き出した時には犬猿の仲であり、時折このような口喧嘩が絶えなかった。 話が前に進まないことに、俺は焦っていた。 早く魔王様を助けにいきたい! でも、その気持ちとは裏腹に俺はこの場で何も意見を言えなかった。


 それは、俺がたかが人間、それも何も能力もない普通の人間だからだ。


 「お前らいい加減にせんか! 今は味方同士で喧嘩をしている場合じゃなかろう。 一刻も早く魔王様の救出をすることが先決じゃぞ。」


 暗黒騎士団隊長ゾイド様が、喧嘩を止めに入ったことで、ラスター様は大人しく席に戻った。


 「ゾイド様、アインズ様、ラスター様、恐れながら申し上げます。 此度の作戦ですが、我が暗黒精霊術師隊に先陣をお任せ頂けないでしょうか? そして、後陣には我々の護衛として拳闘士隊の一部を、サポートとして闇魔導士隊の一部の兵をお借りしたい」


 「あぁ、俺達がお前らの護衛役だと?」


 暗黒精霊術師隊の隊長ミホーク殿にラスター様が食って掛かるが、ゾイド様がそれを片手で抑止して、ミホーク殿に言葉を続けさせた。


 「我々の暗黒精霊術ならば、魔王様が賊の人質として利用されても救出させることが出来ます。 ですが、賊を殲滅させれるかは分かりません。 その為、拳闘士隊の方には護衛と殲滅、闇魔導士隊の方にはそのサポート等をして頂ければ、それぞれの隊の能力で合理的に作戦を成功へと導かれるかと。」


 ゾイド様は少し考えたところで、席を立ちあがった。


 「皆の者よ、今から魔王様救出を最優先に、そして同時に賊の殲滅に対して作戦行動をする者達を挙げる。」


 ゾイド様はそう言うと作戦行動の軸である暗黒精霊術師隊を筆頭に、サポートとして拳闘士隊の中から50名、闇魔導士隊30名を選出、この作戦の指揮を暗黒精霊術師隊の隊長ミホークとした。


 「では、以上じゃ。 部隊の招集、作戦行動を急ぐのじゃ」


 最後にゾイド様が言うと、会議室から幹部達が次々と退出していった。


 俺は席を立ちあがり、ゾイド様に進言した。 ここでしなければならないのだから。


「恐れながら申し上げます。 この作戦に私も同行させて頂くことは出来ないでしょうか?」


「あぁ? てめぇーはバカか? たかが人間風情が作戦に参加したところで、クソの役にも立ちやしないんだよ!」


 ゾイド様より先に口を発したのは不貞腐れ気味で席から離れようとしていたラスター様だった。 しかし、俺は更にゾイド様にお願いをした。


 「確かに私は何のお役にも立てないかもしれないでしょう。 しかし、魔王様をお助けしたい気持ちは誰にも負けません。 死ぬことは恐怖で出来れば死にたくありません。 が、このまま何も出来ずに、ただじっと待つことだけは嫌なのです。 お願いします、例え賊の攻撃の壁役だけの存在になろうとも、作戦に参加させて下さい!」


 「だがのう、魔王様はお主を随分と気に入ってるからのう。 そのお主を死なせたとあっては、後々、ワシが魔王様に叱られるしのう。」


 「では、私が執事ユウの護衛役になりましょうぞ」


 そう言ってくれたのは、暗黒騎士団中隊長のジン殿だった。


 「ふむ。 確かにジンが護衛役としてならば死なずに生きて帰れる確率は高いか。 分かった、では認めよう。 行くがよい」


「ありがとうございます!」


 俺はゾイド様に深く頭を下げた。 その後で、ジン殿にも頭を下げた。 人間である俺に対して差別もなく、まるで友人のように接してくれる優しき戦士ジン殿に深く感謝した。


 「ま、俺もお前に死なれると目覚めが悪くなるしな。」


 「本当にありがとうございます。この御恩は必ずお返し致します」


 「じゃ、無事に帰ってきたら街で、たらふく酒を奢れよな!」


 「是非とも!」


 俺達はお互いに目を見て笑いあってから、お互い準備をするために会議室を退出して別れた。


 「もう少し待っていて下さい、魔王様。 今、助けに行きます!」


 自室へと戻る廊下で俺は決意の表明を言葉に出した。  

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