第8話「帰還」
腕時計をみると、既に夕刻17時になろうとしていた。それでも、太陽の日が届かないこの暗黒エリアでは常に夜と変わらずに暗い。
「魔王様、急いで下さい。 もうすぐ、夕食の時間になっちゃいますよ! お城から抜け出したことがバレたらマズいのですから」
俺は魔王様のか細い手を掴んでお城までの道のりを走っていた。
「そんなに急がないでくれよ、ユウ君。 ぼくはお腹が一杯で走るのもキツイんだよ」
礼拝堂からの帰り道に、街の中心街にあるカフェで魔王様は焼き菓子のトルテを大量に食べたのだから当然といえば当然だった。
「だからいったじゃないですか! そんなに食べちゃダメですって。 これから更に夕食があるのですからね、無理にでもしっかりそれも食べて下さい」
「むり~、無理だよ。 もう、ぼく何も食べれないよ」
「ダメです、ちゃんと夕食も食べると言ったのは魔王様ですから、約束は守って下さい」
「うぅ~、もう! ユウ君の意地悪、頭デッカチ、悪魔!!」
悪魔の王に悪魔って言われる人間の俺って一体‥‥‥と思いながらも、とにかく全力でお城まで走った。
そして、ようやく魔王城が見え、門を守る衛兵2名の姿が見えた。 だが、同時に普段絶対に門にはいないであろう人物の姿も見えてしまった。嫌な予感が止まらないながらも、行く以外に選択肢がないので俺は魔王様の手を放して門へと走ることを止めてゆっくりと歩き始めた。
「どこへ行っていたのですか、執事君。」
穏やかな口調ながらも、疑惑の目で俺を見つめる3武将が1人である闇魔導士隊長のアインズ様。まるで全てを察しているかのような目付きであった。
「はい、暗黒街フェルミまで胡椒を買いに行っておりました。調理場の在庫が少なくなっていたので」
魔王様と長時間に渡り、お城を出ると決まった時からメイド達には街へ買い物をすること、魔王様は体調が優れないので自室にて休むこと、許可なく入室しないことは事前に伝えておいた。
「そうですか。それであなたの後ろにいるフードを被った方は誰ですか?」
「あ、えと・・・こちらは・・・その・・」
ヤバい、能力の高くないお城の配下達は誤魔化せても、3武将や権力の高い配下達には下手なことを言えば後々に誤魔化しが効かなくなる。何て言えばと思った時、突然魔王様が俺より前に出てアインズ様の前に跪いた。
「初めまして、栄光ある3武将であられるアインズ様、私の名前はヒル。 新しく調理場の見習いになった者です。」
城の調理長は他者とのコミュニケーションを取ることが嫌いで有名な変わり者。 3武将ともほぼ関わりはなく、また3武将も調理場には一切近寄らないし、把握すらしてない場所といえる。 この魔王様の機転は上手いと俺は思った。問題は、魔力の高いアインズ様にフードの力が効くのかだが。
「なるほど、そうですか。分かりました、買い物ご苦労様でしたね。」
「ありがとうございます。 それでは、アインズ様、我々は夕食の準備がありますので、これにて失礼します」
この場から一刻も離れたい俺はアインズ様にそう言うと、魔王様の顔を可能な限り隠しながら足早に門を通り城内へと入っていった。
アインズは二人が城内へと入っていくのを確認すると、衛兵に「では、門番を頼みましたよ」と告げて城の中庭へと歩き出した。
「アインズ様」
呼び声と同時に、アインズの後ろに突然と空から舞い降りた長い銀髪ロングで肌が褐色のダークエルフに対して、アインズは後ろを振り向くことなく歩みだけを止め、花壇に植えられている花々を手で愛でるように優しく触りながら言葉を返す。
「リディアですか、どうでした?」
ダークエルフのリディアは跪いてから話を始めた。
「はい、執事ユウと一緒にいた者は魔王エリス様であられました。」
「でしょうね。 で、魔王様と執事の行動は?」
リディアは執事ユウと魔王が街で何をし、どのような行動をしたかを全てアインズへと報告をした後で「以上で御座います」と言葉を終わらした。
「そうですか。 分かりました、ご苦労様でしたねリディア。 下がってよろしいですよ。」
その言葉を聞いたリディアは移動魔法を使うと、一瞬の内にアインズの側から姿を消した。
近場に誰もいなくなったアインズは手に愛でていた花々を抜き取り、自らの鼻にあて匂いを嗅ぎながら呟いた。
「フフフ、これからもっともっと面白いことが起きそうですねー、ねぇ、我が敬愛の魔王様?」
夜21時を過ぎた頃、俺はようやく全ての業務を終えて自室へと戻りベッドへと倒れるように飛び込んだ。 幸いなことに魔王様がお城から抜け出したことには誰も気が付いた様子ではなかった。 アインズ様だけが気がかりではあったが、今の所は何も音沙汰もなく、3武将の司令塔であるゾイド様からも何もないので恐らくはバレずに済んでいると思いたい。
今日の魔王様との外出はアンデッドが襲ってきたこと以外を除けば、凄く楽しかったし、まるでデートのようで俺の心は幸せに満たされていた。
だが、同時に不安と嫌な予感も消えることはなかった。 それは、この暗黒エリアでは存在しないはずの人族のアンデッド達の襲来と、それを差し向けた者の存在だ。 魔王様を狙っての襲撃ならば俺は今後、魔王様の手助けになれるのだろうか?
そんなことを考えているうちに、俺はいつの間にか深い眠りについてしまった。
俺が寝てる間に事件が起きていることも知らずに‥‥‥
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