第4話「女魔王様のお願い」

「失礼します、ユウです」


 魔王様のお部屋のドアを2回ノックした。すると、中からバタバタと走る音が聞こえ、それと同時にドアが開く。


 「やぁ、待っていたよ、ユウ君。さ、早く部屋に入りたまえ」


 ドアが開くと同時に魔王様が突然と俺の目の前に現れ、俺の顔と魔王様の顔が急接近したので、思わず顔が熱くなっていく感じが自分でも分かった。


(ヤバい・・・近い近い近い!)


 恥ずかしさからか、俺は咄嗟に距離を取ろうと後ろへ一歩下がろうと思ったが、それより前に魔王様の手が俺の手を握る方が早かった。


「さぁ、早く!」


 その勢いで俺は倒れ込むようにお部屋へと入ることになるが、なんとか態勢を立て直すことに成功する。お部屋へ入ると、魔王様は俺の手を放して開けっ放しのドアを魔力で閉めた。


 「どうしたんですか、魔王様。 そんなに急いで」


 「いやー、特に急いでたわけじゃないんだけど、なんかつい、ついね」


 「そうですか。 ところで、私に重大な任務があると仰ってましたが?」


 そう尋ねると、魔王様はもじもじと落ち着かない様子を見せて無言になった。


 「魔王様??」


 「あ、いや、そ、その‥‥‥実はね、ぼくとこれから街に付き合って欲しいんだ」


 「え? ま、街ですか?」


 「うん、そうだよ。だ、ダメかな??」


この誘いは俺にとっては凄く嬉しい。 しかし、しかしである。


 「ダメに決まってますよ! 魔王様が街に行くなんて、配下の者が聞いたら間違いなく反対しますよ」


 「うん。 だから、君に頼んでるんだ。」


 大声を出した俺とは対照的に小声になった魔王様は言葉を続ける。


 「お願いだよ、ユウ君。 ぼくは、どうしても街に行きたいんだ。」


 そういえば、俺がこの城に来てから1年経つが、魔王様がこの城から外出したという話もなければ、聞いたこともないし、見たこともない。たまに城の庭にある庭園を散歩していることはあるが、その際には必ず護衛の配下達が付いていた。きっと一人では庭園の散歩すら許されないのだろう。


 どれだけ窮屈な日々を送っているのかは、俺にも容易に想像することが出来た。


 とはいえ‥‥‥


 「お気持ちは分かります。 ですが、街へ行くならば側近、いえ、魔軍3武将でもあり、実質的な魔軍3武将の司令塔でもあられる暗黒騎士団隊長ゾイド様にご相談されるべきかと思われます」



 拳闘士隊長ラスター、闇魔導士隊長アインズ、暗黒騎士団隊長ゾイド、この3名がこの魔王城が誇る最強の軍隊長であり、魔軍3武将としてそれぞれに配下を持つ。その中でも実質的な司令塔であるのが、暗黒騎士団隊長のゾイド様だ。実質的には、この魔王城、いや暗黒エリアで最強と呼ばれる存在である。


 「ダメだよ、ゾイドの爺に言っても絶対に許しちゃくれないよ。だから、ユウ君に頼んでるんじゃないか?」


 「し、しかし、もし街に行って何かあったら俺の力じゃ魔王様をお守りすることは出来ません。ですから、ここはやはり‥‥‥」


 ゾイド様に相談を、と言いかける前に、俺の唇は魔王様の一指しによって押さえられることで言葉を遮断されてしまった。


 「大丈夫だよ、自分の身は自分で守れるし、君の身も必ずぼくが守るから。だから、お願いだよ、ぼくと一緒に街に行ってくれないかい?」


 俺は魔王様の表情を見て、いつもの冗談や悪戯心からではなく、それが本気であることを察した。 だから、俺の唇を塞いでいる魔王様の一指し指を手に取り放してから、ゆっくりと跪いてから魔王様に、いや、俺の好きな女性エリス様に告げた。


 「御意にございます。 魔王様のご命令に応えるべく、この執事ユウが街へとお供させて頂きます。」


 言葉を発し終え、俺が上を見上げると、魔王様がにこやかな笑顔で俺の頭を撫でる姿は、まるで天使のように慈愛と優しさに溢れているように見えた。


 「ありがとう、執事のユウ君。」

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