第6話「恒例会議」

ここは、人界エリア最大の人界王都アルテミス


 暗黒エリア最大の都市フェルミと同様に科学が発達しており、農業・林業・水産業・製造業・建設業・金融等の産業が発達したおかげで、人々の暮らしは500年前に起きた先の大戦、魔大戦時の頃とは比べられない程に発展した。


 多くの人々は暗黒エリア最高指導者である魔王の存在を危惧しながらも、日々平穏な生活を過ごしている。


 そんな都市を治めているのが、現国王ギース、そして国の元老院に属する者達である。


 本日、この日、元老院にて王ギースを交えた恒例会議が王宮にて行われていた。



「というわけでして、暗黒エリアについての現在までの現状は以上となっております」


 元老院議員アートス・ジレンの報告に対して、他の元老院議員達がザワついたが、王ギースだけは眉を動かすこともなく冷静であった。


 「国王! これ以上、暗黒エリアを野放しにしていたら先の大戦の繰り返しに繋がります。国土を焼くことになっても、ご決断する時です!」


 「そうだ」

 「そうだ!」


 元老院議員テクノ・リザーブの言葉に他の議員達も賛同の声を上げるが、国王は片手を挙げて場を静めてから、ゆっくりと口を開いた。


 「皆の者、落ち着きなさい。 ジレン公の報告は確かに危惧するべきものではある。 が、しかしだ、今はまだ大きく動く時ではない。 相手との戦力差も不透明な今ではな。」


 「し、しかし、攻め込まれてからでは後手後手になり我が国は侵略されてしまいます。 先の大戦の時のように。 元々、暗黒エリアに住む魔族達の都市も土地も我々の領土だったのをお忘れですか!?」


 「リザーブ公、それは王にとって失礼な発言かと。 少し冷静になられるがいいでしょう」


 アートス・ジレンの言葉に、テクノ・リザーブは「大変申し訳ありません」と王に頭を下げた。


 「確かに我が国は先の大戦で土地の一部を魔族共に奪われた。 だが、あの時代と今は違う。 我が国には彼奴等

きゃつら

に負けない科学の力がある。 魔族共も科学の力を発達しているそうだが、まだまだその差は歴然だろう。」


 王は更に言葉を進める。


 「それに、我が国には大戦と防衛に備える為に設立した修練学院、魔法研究所等、幾つかの機関と人材、そして‥‥‥まぁ、彼奴等にも負けぬ戦力はある。」


 「だから、今は待てと、王はそう言いたいのですか?」


 テクノ・リザーブが声を荒立てながらの問いに、王は冷静なまま「そういうことだ」とだけ言葉を返した。


 その後は、幾つかの議題の後に会議は終了し、各元老院議員達は部屋から退出していった。


 「王、お疲れ様でした。」


 1人残った元老院議員アートス・ジレンに対し、王は溜息をつきながら答えた。


 「皆の気持ちも分かるが、まだ戦を仕掛ける時ではない。 だが、ここ数年の暗黒エリアの科学の発達に対して皆も焦り始めているのだろうな」


 「はい、特に派閥派の議員達には。 申し訳ありません、私にもっと力があれば彼らの抑止力になるでしょうが、現状は裏で何をしているかすら把握出来ていない現実。 早まったことをしなければいいのですが」


 「自分を責めるでない、お主はよくやっておるわ。して、例の件はどうなっておる?」


 「はい、それについては辺境の村アルスにて見つけたようです。」


 「いいか、この件は慎重にな。くれぐれも他の議員達にはな」


 「分かっております。 信頼出来るその手の筋に任せているので、情報が洩れることはないかと」


 それを聞いた王は、手をパンパンと二回叩く。 すると、会議の部屋のドアが開き重装備をした護衛2人が部屋へと入室して、王と一緒に部屋から退出していった。


 1人、最後部屋に残ったアートス・ジレンは窓の外を眺めながら呟いた。


 「フフフ、美しい。 美しいぞ! この王都アルテミスの風景も空も何もかもを私の手にしたい」


 誰もいなくなった会議部屋でアートス・ジレンの不気味な笑い声だけが響き渡った。

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