傷ついた魂が太陽に照らされて再生してゆく……そんな暖かな物語

とても良質なドラマを読ませていただきました。
真っ先に浮ぶのはそんな感想でしょうか。

主人公はもともと天涯孤独の上に、突然職を失ってしまった『陽人(はると)』君。
偶然に彼と出会い、一宿一飯の恩義をかけたのがぶっきらぼうな感じの大工『滝川』さん。
といっても滝川さんもかなり若く、二人は兄弟みたいな感じでしょうか。

この滝川さん、口数も少なく、ちょっととっつきにくいところもあるけれど、きちんと人のことを見て、人の心を思いやれる優しい人。
そんな滝川さんとの生活の中で、陽人君にもようやく心に余裕が生まれ、平穏な日々が訪れます。
序盤のこの二人の心の交流がなんとも穏やかでいいエピソードが連なります。

そして中盤から滝川さんに関わるキャラクター達が次々に登場し、二人の世界をさらに彩っていきます。
同時に滝川さんにまつわる悲しい過去が明らかにされていきます。

助けたはずの陽人君がまたいい人なんです。
つらい過去にも関わらず真面目で、人の気持ちをちゃんと考えられる優しい青年です。
滝川さんは助けたはずの陽人君にやがて助けられていきます。

タイトルにも書いた傷ついた魂の再生。
これがこの物語の大事なテーマだと思うのですが、その表現やエピソードが見事でした。
さらに滝川さんが大工の腕前でいろんな古いモノ、壊れたものを直していくのですが、それがこのテーマと重なり合い、深みのあるストーリーになっているところも素晴らしい。

描かれていくのは淡々とした日常の光景。
それでもそんな光景がだんだんと太陽に照らされて輝いてゆく。
止まっていた時が流れ出し、音や光景がはっきりと照らし出されてゆく。
読みながらそんな感覚が心に浮かびました。

文章も読みやすく、多彩なキャラクターがとにかく魅力的です。
とにかく心が温まるような素晴らしい作品です。
是非読んでみて下さい!

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