第13話もう一人の私たち

「うわぁぁ!どこまでも追ってくるよぉ!」

『クソッ!まずは谷岡を撒かないといけないな。』

【貴様らごときが、この俺から逃げられるわけなかろうが!大人しく、説教を受けるがいい。アヒャヒャヒャヒャッ!!】


なんてスピードだ!

私たちの何倍も速い。


みるみると距離を詰められていく。

このままじゃ追いつかれる!


「いやあああああ!!来ないでぇぇぇ!!」

【ウへへへへッ。諦めろ!さあて、お楽しみの個人レッスンのお時間だぜぇぇ!】


もうダメだ!つかまる!!

『うわあアアアアアアッ!』



「もう大丈夫です!」


この声は!?

『「校長!!!!」』

校長が谷岡を押さえ込んでいる。

「さあ!今のうちに行ってください。」

『な、なんで?』


「...野暮なこと聞きますね。...校長である前に、貴方たちの顧問だからですよ!チヨさん。守るのは当然です。」


いや。どういうことだよ!

あんたは顧問である前に、校長であってくれよ。

訳が分からない。


【おい!はげぇぇ。どけぇぇッ。...老いぼれのくせにぃぃぃ。】

「さあ!ここは任せてください!あなたたちは、先へ!」


「...行くよ。校長の死を無駄にはしない!」

ミウが、何かを決意した顔をしている。


そして、勢いよく走り出した。

『お、おい!待て。ミウ。』

私もそれに続く。


なにがともあれ、校長のおかげで難は逃れた。

ありがとう。校長。

多分一生忘れません。




「休憩地点が見えてきたよぉ。...やっと休憩できるぅ!」


このマラソン大会では、5キロ毎に休憩場が設けられている。

生徒が、熱中症にならないための対策らしい(距離を短くするということは、思いつかなかったのだろうか....。)


ゴクッ。ゴクッ。


『プハーーーッ!やっぱり汗かいた時の水はおいしいな。』

「そうだねぇ!走った後の一杯は、格別ですなぁ!」

『...まだ半分も終わっていない事を考えると、絶望的な感じもするけどな。』

「そ、それは言わないでぇ...。」

私たちはここで、5分間だけ休憩をとることにした。


空を見ると、雲一つない青空が広がっている。

そしてその青い空を一羽の鳥が自由に駆け巡っている。

あんな風に飛ぶことができたら、一瞬でマラソン終わるのになぁ。


...それにしても、鳥にしては飛び方が少し変なような...。


『ミウ。あそこの鳥。なんか変じゃないか?』

「えっ?どこどこぉ~?」

『ほら!今、あの電柱の真上を飛んでる。』

「あっ!あれかぁ。確かになんか変な動きだねぇ。」


飛んでいると言うより、はねているって感じだ。

あんな種類の鳥もいるのか...。

珍しい。


「あ。落下していってる。死んじゃったのかなぁ。」

『本当だ。まあ変な飛び方してたし、死にかけだったんだろ。』

かわいそうだけど仕方がない。

これが自然の摂理というやつだ。


あれ?

なんかこっちに向かって落ちてきているような...。

「こっちに向かって落ちて来ているねぇ。」

『そうだな。というか鳥にしては、少し大きいような...。』


近づいてくる鳥をじーっと見つめる。

鳥ってあんな形だったっけ?


いや。違う!

あれは...人!?


『おい!!ミウ。あれ人じゃないか?』

「そんなわけ....本当だ!!うわあああ。どうしよおお!」


しかも、あの人影なんか見覚えがある!!


『ま、まさか!!でもありえない!!』


ドスンッ


土煙を巻き上げながら、着地する。


空から降ってきた人間の正体。


それはおっさん化したミウと、その肩の上に乗っている私だった。

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