第12話最悪な一日の始まり
ミーンミーンミーン
蝉の声が盛んに聞こえる季節になった。
明日は夏休み。
本来なら全生徒が希望に満ちあふれた顔をしていても、おかしくないはずだ。
しかし、大半の者は絶望の表情を浮かべている。
今日、人生最大の地獄が待っているということが原因であろう。
皆さんは“マラソン大会”なるものをご存じだろうか?悪魔的思考の人間が作ったとしか思えない、鬼畜の所業。
普段走り慣れていない人間たちを、限界まで走らせるという邪悪の権化。
まさに理不尽という言葉がお似合いの拷問.....。
それがマラソン大会である.....。
正気の沙汰ではない。
しかし、二人の少女が果敢にも、世界の不条理を出来るだけ詰め込んだと言わんばかりの大会に挑もうとしていた。
さあ彼女たちの運命を見届けよう。
それが不運にまみれた結果になろうとも.....。
『ううっ。なんで20キロも走らされることになるんだよ。』
中学のころは、せいぜい4キロぐらいだったんだが....。
その時も辛かった。
しかし今、その5倍もの距離を走らされようとしている。
これ、死ぬんじゃないか!?
「フッフッフ!!大丈夫だよぉ。チヨちゃん。」
なんでミウは落ち着いているんだ?
コイツなら普通、泣き叫ぶ所だと思うのだが....。
『お前なにか企んでいるな?』
「まあまあ。私に任せておいて!すぐに終わるから。」
ピーッ!!!!
甲高いホイッスルの音が鳴り響く。
体操服姿の生徒たちが、一斉に走り出した。
まるで軍事訓練のようだ。
『.......。そろそろ私たちも行くぞ。ミウ。』
「待って。チヨちゃん。」
『みんなに、置いて行かれてるんだぞ!早くしろよ。』
「そんなに急がなくてもいいよ!.......とりあえず、私の腕をつかんで!」
『いきなり何なんだよ。』
言われるがまま腕をつかむ。
【おい!そこに二人!!何をやっているんだ!早く走れ。ボケなす。】
ゲッ。体育教官の谷岡だ。
一部の生徒の間では、鬼軍曹と呼ばれている怖い先生である。
「谷岡。ちょっと待ってね。」
【呼び捨てだと.....?お前たち!なに様だァァァッ!】
お前“たち”って私も含まれているのか....。
なんで?
「谷岡。見ててね。すぐに一週してくるから!チヨちゃん!しっかりとつかまっててねぇ。」
そう言うとミウの足下から、風が出てきた。
だんだん風力が強まっていく。
【な、なんだァァァ。これはァァァッ。】
「ウオオオオオオッ。......風に.....なるぜッ☆」
その瞬間、周りの景色が流れ始めた。
『な、なにが起こっているんだ?』
「私の作ったシューズ、“神速”で、高速移動しているんだよぉ。人の目には視認できないほどのねぇ。おっ!そろそろブラジルに入るよぉ!」
『わけわかんねぇよ!止めろ!』
「無理だよぉ。地球を丁度一周するように、プログラミングしてあるからぁ。でも安心して!もうすぐ止まるよぉ。」
「ただいま!谷岡。」
【い、一瞬消えた...よな。どうなってやがる。】
「私たちは、もう20キロ以上走ったから、終わりだよぉ!谷岡も見てたでしょ?」
あれは走ったって言えるのか....?
【..........。ふざけるな。俺の説教中に透明マジックをしやがって.....。くそがァァァァ!!!】
「な、なんか怒ってるぅ。なんでぇぇぇ。」
『当然の結果だろ!とりあえず逃げるぞ。走れ!ミウ。』
「うわああああああん!結局走るのぉぉ。いやあアアアアッ。」
【待てェェェェ!!】
谷岡がすごい剣幕で怒鳴りがら、追いかけてくる。
なるほど。
確かに鬼軍曹だ。
こうして、私たちは20キロという過酷な道のりをスタートした。
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